2020/05/01
KDDIと野村総合研究所(NRI)の合弁会社、KDDIデジタルデザイン(KDI)は2018年の発足以来、DXを推進するお客さまの支援を行っています。DXの最前線にいるKDIでは今、若手の有志を中心に意欲的な試みが始動しています。KDI副社長の立松博史(インタビュー当時)とメンバー5人(嶋江陽氏、並木慎氏、橋本隆寿氏、紺谷亮太、臼田慎輔)が拡張現実(AR)ソリューション開発に挑む、通称「アングラ」プロジェクトについて紹介します。
ARグラスに可能性を見出し、有志が集結
担当業務も出身会社も異なるメンバーが共同でプロジェクトを始めたのは、並木氏がARグラス「nReal Light(エンリアル・ライト)」で何かできないか、と提案したことがきっかけです。nReal LightはこれまでのAR装置と異なり軽量のため、サングラス感覚で使用でき、かつ広い視野で現実世界とデジタルの世界を密接に重ねられるデバイスです。このデバイスに多様な利用イメージを膨らませた有志5人が集まり、ビジネス化に向けた検討を開始。この「アングラ」活動を聞きつけた立松が支援する形で、メンバーは通常業務の傍ら、自主的に顧客を巻き込んだワークショップやPoC(概念実証)を進めてきました。
過去、ウォークマンや携帯電話の普及は、電話やメールなどのコミュニケーション、音楽、映像などを家の外に持ち出すことを可能にしました。これらの機能は、スマートフォン(スマホ)にいったん統合されましたが、現在では、バイタルデータ管理や高音質といった、スマホにはない機能を持つ専用デバイスが再登場しています。ARグラスもその1つで、目の前の状況を感知しつつ、ハンズフリーで、文字、動画、CG(コンピュータグラフィックス)映像などを重畳させて見ることができます。既存の「xR」デバイスは、重くてかさばり、装着したまま歩くなどの行為は難しく、さらに高額でしたが、nReal Lightは軽量で、違和感なく装着でき、値段も数万円になる想定です。また、第5世代通信システム(5G)が普及すれば、重いデータもストレスなく扱えるようになります。
業務効率化と顧客体験価値でユースケースに挑む
デバイスに装着感の良さ、手ごろな価格など普及の要件がそろっていても、顧客の課題を解決できなければ、それを利用した事業化はできません。メンバーは顧客課題を起点に、デバイスの特性を生かした活用法を考え、業務効率化と顧客体験価値の向上という2つの方向性でユースケースを検討してきました。
その1つが、慢性的な人手不足で、初心者をいかに早く戦力化するかという課題を抱える小売り現場での活用です。棚の前に行くと、装着したARグラス上にその棚に関して必要な作業内容や正しい商品配置などの情報が出てきます。これにより、紙のマニュアルを調べる時間が必要なくなったり、行う作業が動画で表示されることで、直感的に作業できるようになったりと、人材育成の負荷を減らせると期待できます。また、端末にデータ入力せずに、在庫数もARグラスに表示し、そのまま発注をかける作業までシームレスにつなげるなど、さまざまな試行錯誤を続けています。
場所と時間を超えた新たな観光体験づくりにも活用できます。例えば、事前にバーチャル映像で旅行先を体験。現地ではARグラス上に出る順路案内や見どころ情報を参考にしてリアル体験を楽しみ、間近で見られない細部もズーム画像で逃さずに鑑賞。帰宅後は、現地で録画した映像を振り返る。――こうした新感覚の楽しみ方を提案しようと奮闘中です。また、ARグラスをデータ収集ツールとしても活用し、観光施設や自治体が観光客からのフィードバック情報を得て魅力的な体験づくりにつなげられるようにすることも、視野に入れています。
KDDI×NRIの融合で新しい未来を創る
こうしたARソリューションの実装において肝になるのが、空間測位技術です。例えば、ARグラス利用者が小売店内のどの棚の前にいるのかを特定できなければ、適切な情報表示はできません。そこで活用した技術が、KDDI総合研究所の屋内VPS(ビジュアル・ポジショニング・サービス)です。事前に360度カメラで店内を撮影し、3D マップを作成。そこにARグラスで撮ったカメラ映像を照合して、利用者の位置や向きを特定し、ARコンテンツを置くという手法により、スピーディーな実装にこぎつけました。
プロジェクトを通じてメンバーが実感しているのが、KDDIとNRIの融合のメリットです。両社が持つさまざまな技術を組み合わせ、最新デバイスに素早く実装する開発力、技術やデバイスを起点とするのではなく、顧客の課題をベースに発想するコンサルタントの手法など、お互いの強みを持ち寄り、アイデアを形にするのは楽しく刺激的だとメンバーは口をそろえます。
ARグラスに対しては、「エンターテインメント向けのデバイス」「ビジネスの実用化には時間がかかる」と見る人もいますが、当初は何に使うのかと言われたスマートウォッチも、今ではバイタルセンサーとして日常的に利用されています。数年後には、誰もがARグラスをかけて業務や日常の多様なシーンで利用するのが当たり前になっているかもしれません。「新しい未来をつくるために、スピードを重視しつつ経験値を積み、事業化を実現したい。自分の子どもに誇れるサービスの実現を目指して、今後も活動を継続していくつもりです」と、メンバーは今後に向けた思いを力強く語りました。
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