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デジタル国富論と地方創生

代表取締役会長 兼 社長 此本 臣吾

DX

2020/06/17

野村総合研究所(NRI)は、2017年から3年間にわたり「NRI未来創発フォーラム」において「デジタル資本主義」という新たな経済システムの研究成果を発表してきた。18年に成果の一端を『デジタル資本主義』(東洋経済新報社)と題する書籍に取りまとめたが、このほど続編として『デジタル国富論』(同)を刊行した。同書では、デジタル資本主義が産業や社会にどう影響を及ぼすのか、企業戦略や国の政策はどう変わるかという点に加えて、デジタル資本主義の進展が人々にどのような豊かさをもたらすかという視点から考察を行っている。

デジタルは生活満足度に大きな影響を与える

NRIが3年ごとに実施している「生活者1万人アンケート調査」や各種のインターネット世論調査の分析からは、日本人の生活満足度には所得の多寡よりもデジタルの利活用度が大きく影響しているという結果が得られている。ネットを通じて音楽や動画を無料で楽しめる、SNSで社会とつながって情報を得られる、ECで欲しいものをすぐに手に入れられる。このように、生活のさまざまなシーンでデジタル技術の恩恵が生み出されている。無論、デジタル化にはマイナスの側面もあるが、今はプラスの効果がそれを大きく上回っている。
欧州でも、経済が低迷する一方で15年頃から各国の生活満足度は上昇している。欧州委員会は経済社会のデジタル化の度合いを測る「DESI:The Digital Economy and Society Index」を、加盟国を対象に毎年発表している。NRIが各国の生活満足度とDESIとの相関を調べたところ、一人当たりGDPよりも相関度合いは高いという結果が得られた。この結果は欧州のような成熟社会においても、日本と同様に、生活者の満足度に社会のデジタル化が深くかかわっていることを示唆している。
とりわけ北欧の事例を見ると、国レベルでデジタル社会資本の蓄積を進めることが国民生活の豊かさを生み出す上で重要であることが分かる。デンマークでは個人のデータは国が管理する公共財となっており、さまざまなスタートアップ企業がそれらを活用した生活者目線のサービスを展開している。またエストニアでは、国民一人一人のデータ主権が確立されており、個人データは自分のポータルサイトで管理できるようになっている。たとえばホームドクターが入力したデータを個人がポータル上で閲覧し、過去の疾病履歴や投薬履歴を自ら確認した上で医療機関と相談できる。こうしたデジタル社会 資本の厚みがある北欧は、欧州の中でも生活者の満足度が高い。
日本においても、マイナンバーカードの普及は言うに及ばず、マイナンバーポータルの開設やマイキーIDを活用した行政手続きのデジタル化を遅滞なく進めることが、デジタル化の恩恵、ひいては生活の豊かさを国民にくまなくもたらすための大前提となるであろう。

デジタルが目指すべきは経済の成長だけでなく、国民の幸福度の向上

NRIは日本の実情を勘案し、DESIに類似した新指標「DCI:Digital Capability Index」を考案した。DCIは、「ネット利用」「デジタル公共サービス」「コネクティビティ」「人的資本」を指標化したものである。そして各都道府県のDCIを算出するとともに、都道府県別の生活満足度(前述の「生活者1万人アンケート調査」の結果を再集計して求めた)や一人当たり県民所得との相関を見てみた。すると、DCIと一人当たり県民所得とはほとんど相関性がなかったのに対し、生活満足度の相関性は高いという結果となった。つまり、地方レベルでも住民の生活満足度を上げるにはデジタル化が必須なのである。
ただし、地方レベルでのデジタル化には困難もある。まず採算が合いにくいので民間資本を導入しにくい。かといって地方財政にも限界があり、自主財源だけでのデジタル投資は難しい。また、地域の行政機関、医療機関、大学、民間事業者などがそれぞれデータを保有しているが、それらのデータを連携するには、複雑な合意形成を図らなければならない。その上で、北欧のように個人が自由に自らのデータを閲覧できるようにする必要もある。
NRIは19年12月に山形県鶴岡市と「デジタル化による構造改革事業」における連携活動にかかわる基本合意書を締結した。バイオヘルスケアサービス振興や防災・減災対策の推進、農業・中山間地域対策から構成される「スマートシティ推進」と、効率的な電子政府実現を目指す「デジタルガバメント構築」を両輪とする「鶴岡市のデジタル・地方創生」の推進をNRIは支援する。同市がデジタルによる地方創生の模範となるべく、NRIとしても総合力を発揮してしっかり行政と連携していきたいと考えている。
4Gとスマートフォンが牽引したデジタル資本主義第一幕はGAFAが席巻した感があるが、一方で北欧のように官民が一体となり国民のウェルビーイングを向上させている事例もある。デジタル化の勝者の姿は決して一様ではない。デジタル戦略は成長戦略、すなわちGDP増加の観点から語られることが多いが、日本が目指すべきは、デジタル化によってどれだけ国民が幸福になったか(デジタル時代の国富)を追求することであろう。

知的資産創造4月号 MESSAGE

NRIオピニオン 知的資産創造

特集:デジタル化と地方革新

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E-mail: kouhou@nri.co.jp

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