2020/06/22
デジタルトランスフォーメーション(DX)がよく話題にのぼりますが、実際には企業のデジタル化はどのくらい進んでいるのでしょうか。野村総合研究所(NRI)では2016年からJUAS(日本情報システムユーザー協会)と共同で、企業のDXへの取り組み状況を調査してきました。NRIの塩田郁実と宮田悠也に2019年度の調査結果について聞きました。
経年調査でトップランナーとの差がより顕著に
――共同調査の概要について教えてください。
塩田:この調査は、デジタル化に取り組む企業の状況を客観的に分析するとともに、先進的に対応している企業の特徴を描き出し、デジタルビジネスを進める際の参考にして頂くことを目的としています。主な調査項目は、経年で確認しているデジタル化に対する脅威・機会、課題や解決の工夫、デジタルIT投資やレガシーシステムの状況が中心です。今回は、デジタル化が進むほど悩みが大きくなるという仮説を持っている、デジタル化に必要な組織・風土に関する項目も追加しました。JUAS会員を対象にアンケートを実施しているので、国内大手企業の考え方や動向が把握できるのも特徴です。
――今回で4回目ですが、調査結果から読み取れる傾向を教えてください。
宮田:私たちは、デジタル化の取り組みが他社と比べて進んでいると回答した企業を「トップランナー」と名付けています。その割合が2018年度よりも10ポイント増加しました。トップランナーは積極的にデジタル化を進めており、それ以外の企業との差がどんどん開いています。また、デジタルビジネスを推進するにあたり、既に他社と連携して進めているという企業が初めて半数を超えたほか、新技術を本格導入する企業も年々増えています。
塩田:一方で、デジタル・ITを活用したビジネスモデル変革までには至らず、大半の企業が既存の業務プロセス改革に留まっているようにうかがえます。その理由として、組織を超えられない、チャレンジできない、スピーディーに意思決定できないなど、組織風土面の悩みを感じている実態も浮かび上がってきました。各社は、全社横断のデジタル・ワークショップや他社を含めたアイデアソンなど、いろいろ試みているようです。しかしながら、大手企業を中心に、組織階層が深く意思決定の遅れや行動のズレが生じたり、組織間の役割分担の認識がずれていたりするケースもあります。意思決定プロセスの簡素化や組織構造の変革といった次の課題に踏み込み、大局的な視点で解決しないといけないと感じています。
トップの関与と事業化を焦らせない風土、環境整備が重要
――トップランナーの取り組みで参考になる点はありますか。
宮田:経営トップがデジタル化の責任を担う割合が高いことが挙げられます。経営トップが強い意志で社員にミッションを伝達すれば、社員は困難なプロジェクトでも推進し、社内にデジタル化を浸透させることができます。逆に、足元の業績が好調で、ビジネスモデルを変える必要性や危機意識を経営トップが感じていない場合、デジタル化はなかなか進みません。
塩田:今回のアンケート調査では、組織・制度・風土・意識の面で必要と考えられる取り組みの状況について聞いています。「十分ではないものの取り組んでいる」という切り口で分析したところ、トップランナーとそれ以外の企業の間で30~40ポイントの差が見られた項目が、「社員全員へのデジタル教育・啓もう」「スピーディーな意思決定、アジャイルな実行」でした。トップランナーも十分な取り組みができているわけではありませんが、不確実性の中で、不十分だと認識しつつも「まずは取り組もう」という姿勢が見られます。
宮田:デジタル化の取り組みでは、失敗を許容し、それでもチャレンジできる雰囲気づくりをすることが重要です。社員が失敗を恐れ、PoCを行いづらい場合、デジタル化の取組みは遅くなります。その点で、トップランナーは、戦略的な投資と位置付けて、短期的な効果を求めない予算を活用しています。
また、いくらPoCを実施しても事業化に至らず、尻すぼみになる、いわゆる「PoC疲れ」という声もよく聞きます。重要なことは、期待通りの結果にならなかったとしても、その過程や結果から何を学びとるか。PoCを、担当者任せにせず、上司らがフォローアップし、学びを共有して次につなげていけば、PoC疲れにはならないはずです。
技術活用だけでなく、提供価値の見直しも
――企業はこうした調査結果をどのように活用すればいいでしょうか。
宮田:私は業務に関連して海外企業の調査も行っていますが、デジタル化やアジャイル対応ではまだまだ日本企業は遅れていると感じます。今後、グローバル競争の中で日本企業が活躍していただくためにも、今回の調査結果から気づきを得て、デジタル化の推進に役立てていただければと思います。私たち自身もこうした情報をさらに深堀りし、お客様のDX課題の解決を支援したいと思っています。
塩田:デジタル化は、単に技術を活用するだけでなく、価値観自体を変えていくことだと、私は考えています。自社利益を追求するだけでは、社会から選んでもらえない時代ですから、長期的な視点で自社が提供できる価値について考え、周辺業界を巻き込んで社会課題の解決を図ることが求められます。そのため、自社のお客様など周辺業界の状況や動向にも着目してほしいと思っています。この調査結果をもとに、自社に足りない部分、自社で取り組めそうなことをイメージし、まずは一歩踏み出していただければと思います。
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