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金融機関の金融犯罪対策――先手のデジタル化で社会的責任を果たす

金融グローバルソリューション事業部 加藤 高弘

#DX

2020/06/26

犯罪で得た「黒いお金」の出どころをわかりにくくして「白いお金」にするマネー・ローンダリング(資金洗浄)。健全なはずの「白いお金」がいつの間にか世界の安全や平和を脅かすテロ組織の手に渡って「黒いお金」になっている。――こうした行為に自社の金融システムが悪用され、知らないうちに金融犯罪に巻き込まれている悪夢を金融機関は回避しなくてはなりません。その対策には高度なデジタルツールの活用が欠かせないと、野村総合研究所(NRI)の加藤高弘は指摘します。金融犯罪対策ソリューションに詳しい加藤に話を聞きました。

故意でなくても巨額の制裁金が課されるリスク

——昨今の金融犯罪の状況について教えてください。

国際通貨基金(IMF)の推計では、世界のマネー・ローンダリング額はGDPの2~5%に相当するそうです。IMFの推計が日本にも当てはまるとすると、日本のGDP約550兆円に対してマネー・ローンダリング額は11兆円以上となります。対して、日本でマネー・ローンダリングの前提となる犯罪として最も多い特殊詐欺の被害総額は、2018年で約360億円(警察庁による公表値)。水面下で金融犯罪が進行している可能性があります。実際に、不審な金融取引に関する報告件数は着実に増えています。

金融犯罪に対してグローバルな監視体制が敷かれている中、日本の金融機関で何か事件が発生すれば、自社の評判を損なうだけではなく、日本の金融システム全体の評価が低下しかねません。海外では、故意ではなく結果的に犯罪収益のマネー・ローンダリングに関わっただけでも、巨額の制裁金、役職員の懲役刑などを課されることがあります。

犯罪手口の高度化に伴い、業務負荷が増大

——どのような犯罪対策をとればよいのでしょうか。

金融庁からミニマムスタンダートとしてのガイドラインが示されていますが、リスクベース・アプローチをとっているため、どこまで対応すればよいかについて画一的なゴール設定がなされているわけではありません。このため、各社で自社の事業におけるリスクを特定し、それに応じた対策を講じる必要があります。

その上で最初に必須となるのが、KYC(Know Your Customer)という本人確認作業です。これはなりすましなどを防ぐことを目的としています。現在は人間の目で確認していることが多く、また口座開設時には確認するものの、既存顧客に対する確認が手薄であることも多いのですが、生体認証、位置情報を用いた住所確認、公的認証機関で認証されたデジタルIDなどを用いれば、自動化や効率化がもっと進みます。

次のステップで重要なのが、取引自体に不審な動きがないかのモニタリングです。昨今は取引量が増大しているので、大量のデータの中から疑わしい取引を漏らすことなく的確に検知しなくてはなりません。犯罪の手口はどんどん巧妙化していくので、単純なルールベースの検出手法では限界があります。統計情報や外部ソースを使ってリスクを絞り込む、複数金融機関にまたがって取引パターンを検出する、貿易金融など為替取引以外の金融取引をチェックするなど、より高度なデータ分析が求められています。

——通常のルールベースの手法では、どのような問題が起こるのでしょうか。

たとえば、金融機関が200万円以上の金融取引を検出対象とする場合、犯罪者集団は抜け道として、1回あたりの取引金額を180万円にして取引回数を増やすなどする可能性があります。これに対して、金融機関は対象となる金額を下げて検出漏れを防ごうとするのですが、その結果、対象件数は膨れ上がります。本当は問題ないけれども疑わしく見える「偽陽性」取引の一次調査にかかる業務負荷が増えることは、非常に大きな問題となっています。分析や判断のために数千人のスタッフを抱えているグローバル金融機関もあるほどです。

グローバルでのノウハウを賢く活用して監視を徹底

——偽陽性率を下げて、問題のある取引だけを効率よく検出する方法はありますか。

アラート対象となった顧客の信用度や関係性について外部データも活用して検証したり、犯罪に多く見られる取引パターンを分析し、AI(人工知能)の学習機能で絞り込んだりすることで、検出の精度を高めることが可能です。また、金融犯罪対策は国際的な基準を踏まえて国内の規制やルールが整備されているため、技術活用で先行する欧米を中心とした海外でのノウハウをうまく採り入れることもお勧めです。特に、海外の規制やノウハウに対応したグローバルIT製品を日本向けに適用させる方法は効果的です。NRIでもさまざまなグローバルIT製品を扱っています。

——犯罪組織とのイタチごっこは続きそうですが、金融機関へのアドバイスをお願いします。

現在、ESG(環境・社会・ガバナンス)投資への関心が高まっていますが、社会的責任を果たす上でも、金融犯罪対策を徹底させる必要があります。世界的に金融犯罪対策に関する規制は強化される方向にあり、現在は人海戦術で対応できたとしても、将来的に業務負荷は必ず高まっていきます。先手を打ってデジタル化し、コストや業務負荷を軽減した金融機関のほうが有利になるでしょう。また、犯罪の手口すべてを塞ぐのは技術的にもコスト的にも難しいかもしれませんが、比較的簡単な手口、すなわち犯罪コストが犯罪収益よりもかなり低い手口から優先的に塞いでいければ、多くの金融犯罪を防止できると考えています。私たちNRIもAI分析、各種認証、セキュリティ、通信規格などの技術、金融業界に関する知見、海外ネットワークなどを駆使しながら、最先端のデジタル技術で安全性と利便性をうまく両立させた、よりよいソリューションを提案していきたいと思っています。

  • 「OFSAA FCCM」、「Collibra Data Governance Center」など。
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株式会社野村総合研究所
コーポレートコミュニケーション部
E-mail: kouhou@nri.co.jp

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