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デジタル資本主義の未来を拓く秘密計算技術

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2020/08/03

情報を暗号化したまま解析処理できる「秘密計算技術」が、個人のデータプライバシーを守りつつデータ利活用を進める手段として、また、異なる事業者間でのデータ共有による産業の活性化や社会的課題の解決に期待されています。野村総合研究所(NRI)グループでは、この技術の実用化に向けて、さまざまな分野での専門家メンバーが調査研究に取り組んでいます。チームを纏めるNRIデジタルの安増拓見は「デジタル資本主義を実現するカギとなる技術」と言います。メンバーであるNRIデジタルの中島広志、田村光太郎、NRIの金融デジタル企画一部外園康智、AIソリューション開発部川口将司の、部署も経歴も異なる5人それぞれが、なぜこの技術に着目し、何を目指しているのかを聞きました。

データ利活用を推進する鍵

2020年5月27日にスーパーシティ法(改正国家戦略特区法)が成立し、便利な未来型都市の実現に向けて、日本でもさまざまな領域をまたがるデータ活用が本格化しそうです。しかしデータを活かすうえで欠かせないのが、プライバシー保護とセキュリティの担保。そこで最近注目されているのが秘密計算技術です。

秘密計算技術とは、簡単に言えば「個人や組織の情報を、他者にわからないよう秘匿化して解析処理する技術」のことです。データを暗号化したまま、分散し、さらに復元することなく計算できるため、計算結果以外は誰にも見ることができません。競合する企業間であっても、秘匿データを安心して流通させることができるようになるため、データの新たな統合分析を可能にします。

チームを纏める安増は、消費者向けにスマートフォンを使ったサービスを提供するプラットフォームの開発に携わっていました。スマホ利用者のパーソナルデータの活用に関心があったことから、2年前に秘密計算技術の実用化を考えるようになったと言います。
「データ活用には、そのデータを生み出した個人のプライバシー保護と、データを保持し活用する企業側のデータ漏洩などのリスクへの対処が欠かせません。これらの懸念を解決できる技術がないかと探していたことがきっかけです。この技術自体は30年前から既にあるのですが、10年前から実用段階に近づいていることを知って着目しました」

精度の高いサービスが可能に

中島も秘密計算技術に可能性を見出した一人です。
「元のデータがわからないように分割して処理を行う技術なので、一事業者が攻撃されてもデータが漏れるリスクが低減します。消費者のプライバシー保護はもちろん、ビジネス視点では企業間のデータ活用が飛躍的にしやすくなる。ここ1~2年、アメリカや中国、日本などの大企業が実証実験を進めていて、サービス実現に取り組もうとしています」

田村はデータサイエンティストとして、多数のアナリティクスプロジェクトに携わっています。プロジェクトのなかで直面するいくつかの課題が、秘密計算技術によって解決するのではないかと期待しています。
「データ分析を進めていく上で、個人情報や機密情報が障壁となることがよくありますが、それは単なるデータの授受や外部持ち出しといった課題だけではありません。お客様企業内のデータだけでは分析するに当たって十分ではないといった場面が、アナリティクスの現場ではよくあります。不足するデータを他社のデータで補完しあうという仕組みができれば、かなりの相乗効果が期待されます。」

では、どんなサービスで利用が想定されているのでしょうか。安増は補足します。
「秘密計算技術を使うことで、個人の行動履歴や購買データを個人が安心して企業へ提供できる環境が整えば、例えば、個々人の好みに合いそうな旅行プランや保険や住まいを提案できるようになります。また、ゲノム情報や疾病情報などの機微なデータを安心して利活用できるようになれば、個々人に最適な医療サービスや創薬が提供できるようになります。これまで各企業ができなかった、きめ細やかなサービスや製品開発が可能になるのです。」

金融業界のお客さま企業にクラウドサービスを提供している外園は、秘密計算技術の利用が可能になれば、NRIが強固な基盤を構築して提供してきた情報システムをクラウドサービスに代用できるのではないかと期待しています。また外園は、秘密計算技術を導入すれば「金融機関は個々のお客さまに対してよりパーソナルで精度の高い情報を提供できるようになる」と話して、具体例を加えます。
「例えば、ある人が保有資産の将来リスクを知りたいとします。しかし、自分が持つ貯金額などの資産情報や、年齢・住所などのパーソナル情報を他人には知られたくない。ところが秘密計算技術を使えば、入力されたデータは暗号化されて解析処理されるため、プライバシーを明かすことなく、具体的な診断やアドバイスが得られるのです」
「さらに、オレオレ詐欺のような不正取引をAIで検知しようと個々の金融機関が試みておりますが、データが少ないため、うまくいかない現状があります。学習データ自身を共有せずに、AIの学習モデルを共有することも秘密計算により可能になります」
社会全体で検知の精度も上がると外園は見ています。

課題は社会に理解されること

しかし実用化に向けては、乗り越えなければならない課題がいくつもあります。安増は技術的な課題より、社会的な課題を危惧しています。
「さまざまな研究機関や企業の努力によって、技術的な課題はいずれクリアできると思います。私たちも、特定の使い方であれば実用は可能だと考えています。問題なのは、社会的な壁です。セキュリティが担保されると言われても、直感的にわかりにくいこの技術を一般消費者が理解して信頼してもらえるのか。企業も先行事例がないために、実際にトップバッターとして利用するには躊躇するでしょう。さらに、法整備も必要です」

AIソリューションの開発に関わってきた川口は、秘密計算技術の普及という視点でも見ています。
「世界各国でAIやビッグデータを活用して社会を根本から変えるような都市設計を目指す動きがありますが、日本でも今年、スーパーシティ法が成立しました。しかし、その実現にはプライバシー保護の問題が壁となっている状況を聞いています。私は秘密計算技術の活用によって、その壁を突破できるのではないかと思っています。そのためには、秘密計算技術を使っているから大丈夫だと、消費者に理解してもらうことが第一だと思っています。でなければ、なかなか実用にはつながらない。ですから私は、業務であれ業務外であれ、これを広める活動は続けたいと思っています」

NRIだからできること

こうした課題に対して、逆にNRIにいるからこそ貢献できることはあると、安増は考えています。
「多様な分野をまたいだデータ活用の推進が言われていますが、各企業が他社にデータを盗られるのではないかと疑心暗鬼になるため、実は業界横断の取り組みは困難です。そこは業界のトップ企業や中核企業に対して、地道に理解を促していく必要があると思います。NRIには、証券、金融、保険、小売、通信などの業界トップ企業のお客様とお付き合いしている事業部があります。この技術の企業への啓もう活動の部分では、NRIがお役に立てると思っています」

デジタル化の進展によって資本主義のあり方が大きく変わり、今後は「デジタル資本主義」の時代に移っていくとNRIは予想しています。デジタル化によって、より豊かな国民生活がおくれるようになり、先端技術で街の至るところがインターネットに繋がるスマートシティでは、街づくりにデジタル技術を活用した新しい未来社会の姿が期待できます。こうした新しい社会に向けて、また、少子高齢化、労働人口減少、地方衰退など、日本が抱える多くの課題を解決するためにもデータ活用は必須ですが、他国に比べて日本は遅れた状況です。NRIの有志チームは秘密計算技術の実用化に取り組むことで、その状況の打破を目指していきます。

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株式会社野村総合研究所
コーポレートコミュニケーション部
E-mail: kouhou@nri.co.jp

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