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NRI トップ NRI JOURNAL デジタル社会資本――新型コロナウイルス感染拡大が生み出すニューノーマルに向けて

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クラウドの潮流――進化するクラウド・サービスと変化する企業の意識

デジタル社会資本――新型コロナウイルス感染拡大が生み出すニューノーマルに向けて

未来創発センター グローバル産業・経営研究室 上席研究員 森 健

#政策提言

#新型コロナ

2020/08/04

野村総合研究所(NRI)が毎年開催する、NRI未来創発フォーラム。2020年のテーマは「新型コロナウイルスと経済社会のパラダイムシフト」。基調講演には、NRI代表取締役会長兼社長の此本臣吾が登壇します。「デジタルが拓く近未来」の姿についての研究成果をまとめた『デジタル国富論』(東洋経済新報社)共著者の一人である森健が、本講演で注目される事柄について紹介します。

新型コロナウイルスが加速させる世界のデジタル活用

基調講演は、いくつかの柱からなっています。「世界経済の状況」「新型コロナウイルスに対する世界各国のデジタル活用動向」「新型コロナウイルス感染拡大後の生活者の価値観変容」「新型コロナウイルス感染拡大後の企業の対応」そして「アフター・コロナのニューノーマルに対応するためのデジタル社会資本投資」です。
現在NRIは、世界8か国において、新型コロナウイルス感染拡大後の人々の情報収集行動や就労スタイルと消費行動の変化、それに付随して起きた価値観の変化などについて把握するため、大規模なアンケート調査を実施しています。基調講演では、そのアンケート結果や各国のデジタル活用状況などを紹介しながら、変わっていく人々の価値観・行動に対応して企業や社会に求められる変化について、デジタル社会資本投資の観点から考察していきます。

世界規模で起こった生活者の意識変化と、企業や社会への波及効果

新型コロナウイルスの感染拡大は、人々の行動に大きな影響を与えました。外出の自粛が求められる中で、購買活動においてはネット通販の占める割合が大きくなり、学校の授業や講演会、セミナー等もオンラインの形に切り替わりました。これまでネットの利用には消極的だった人々も使わざるを得なくなり、結果的にその便利さを知ったという例も多いようです。NRIが日本で3月と5月に実施したアンケート調査によると、自粛期間中のネットの利用時間はすべての年齢層で急速に増加しています。
特に大きな変化があったのが、私たちの仕事のスタイルです。多くの仕事がテレワーク中心となり、人々の生活習慣が大きく変化することになりました。これまでテレワークなど考えたこともなかった層までも、なかば「強制的」に新しいワークスタイルに移行することになったのです。
このような状況下で、仕事や職場に対する人々の価値観も大きく変わりつつあります。コロナ前の生活には戻りたくないと考える人も相当数いると考えられ、企業にも新しい価値観と、仕事環境の構築が求められています。人々の働き方と生活の変化を軸に、それらが企業の仕組みや国のあり方、街づくりなどに、どのように波及していくのかを考える必要があります。

生き残るためのオンライン戦略

今回のコロナ禍により、宿泊、飲食、イベント、旅客輸送など移動や「三密」に関連する業種は全体として大きな被害を受けていますが、同じ業界の中でも影響に違いがあります。
例えば小売りの場合、店舗オンリー型の企業は苦しんでいますが、オンラインチャネルが充実しているところは比較的ダメージを少なく抑えることができているようです。オンラインショップの場合、従来はAmazonの独り勝ちと思われてきましたが、小売企業やメーカーの直販サイトへのアクセスも増えているようです。今後は、リアル(アナログ)とオンライン(デジタル)の両方が充実していることが小売業で成功するための必要条件となっていくことでしょう。
教育については、オンラインでは臨場感が出ませんが、自宅にいながら世界中の先生の授業を受けられて良いという声も一部にあるように、人々の意識は行動に引っ張られる形でどんどん変わってきています。

ニューノーマルに対応するためのデジタル社会資本投資

今回のメインテーマであるデジタル社会資本とは、企業、行政、病院、教育機関などによる個々のデジタル投資の成果をつなげ、社会全体で共有することで、国民全員がこれまでにない円滑なサービスを受けられるようにするための土台となるものです。
それにはいくつかの要素があります。1つ目はネットワーク網やスマホ・タブレット端末などのインフラ/ハードウェア。2つ目は各々のサービスがその上で稼働するためのプラットフォームとしてのソフトウェア。3つ目は我々市民のデジタルスキル。そして4つ目にデータの管理です。デジタル社会資本投資における一番の難問は、最後に掲げたデータの扱いだと考えられます。
例えば、ある患者が医療を受けるとき、これまで受診した病院のカルテの内容がネットワーク上に一元管理されていれば、ワーケーションなど別の土地で違う医師の診察を受けても、その医師がその患者のデータにアクセスすることで、適切な診察を円滑に行うことができます。しかしその反面、個人の身体に関するすべての情報がネット上でアクセス可能な場所にあるという状態には、多くの人が拒絶反応を起こす可能性があります。ハードウェアとプラットフォームの構築が進んでいく中、これらの個人情報の管理をいかに行っていくかについて、世界中でさまざまな取り組みが進んでいます。国全体がデジタル化された電子国家として知られるエストニアなどの例も参考に、デジタルの利便性と限界、個人データの活用とプライバシー保護、個人の自由と社会的統制など、さまざまなトレードオフの問題についても考えていきます。

現在、世界各国では、さまざまなデジタル化の試みが進められています。プライバシーを犠牲にしてもデジタル社会資本の構築を急速に進める国がある一方、個人データの保護を優先させながらデジタル化の道を模索している国も存在します。極端な二択ではない、日本ならではの道が存在するのかもしれません。世界の人々へのアンケート結果を参考に、日本ならではのニューノーマル対策方針を模索していければと思います。

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株式会社野村総合研究所
コーポレートコミュニケーション部
E-mail: kouhou@nri.co.jp

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