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位置情報ビッグデータを使って防災分野の課題を発見

DXコンサルティング部 高橋 祐人 持丸 伸吾 星 貴博
社会システムコンサルティング部 青野 将大
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2020/11/04

大雨による洪水被害が毎年のように発生するわが国では、今後も突発的・局所的な水害が多発すると考えられ、防災計画の策定と改善は喫緊の課題です。そして住民に適切な避難を促すための計画立案には、避難行動の現状の把握が欠かせません。
今回、KDDIと野村総合研究所(NRI)は共同で、携帯電話が持つ位置情報のデータを使って、台風襲来時に人々がどのような行動をとったのかを可視化・分析し、今後の施策につなげる提言を行いました。この分析に携わったNRIの高橋祐人、持丸伸吾、星貴博、青野将大、今井恒に、取り組みの狙いと分析結果、今後の可能性などについて話を聞きました。

携帯電話の位置情報を利用するメリット

水害に対する防災計画を策定する際には、人々が水害発生前後にどのようなリスク回避行動をとったのか、過去の実例を検証することが重要です。どのような出来事や情報が人々の行動を喚起したのかを知った上で検討しないと、せっかくの計画も机上の空論になりかねないためです。これまでも、災害発生地域の住民などに対してアンケートによる調査は行われてきましたが、この方法では回答者個々の経験(例:どのタイミングでどういう動機に基づいて避難したのか)を聞くことはできるものの、広く住民全体の避難行動を捉えることは困難でした。
そこで、われわれは携帯電話の位置情報データに着目。一定時間ごとの人の動きを分析することで、人々がどのような避難行動をとったのかを面的に捉え、より安全で効果的な避難につなげるための調査・分析を行いました。
このような取り組みに携帯電話の位置情報データを利用することには2つの大きなメリットがあります。一つは、エリア・時間別の人口の増減をはじめとして、アンケートでは集めることが不可能な圧倒的な量のデータを得られるという点。もう一つは、年代や性別などの属性についても得ることができる点です。1時間ごとに、どれだけの人が、どこからどこに移動したのかという事実は、携帯のデータだからこそ入手可能な情報といえます。
今回利用した「KDDI Location Data」は、各社が提供する位置情報データの中でも、①125メートル四方という空間解像度の高さ、②信頼性の高い属性情報(性・年代等)、という2つの強みを併せ持ったデータです(詳細: https://iot.kddi.com/services/iot-cloud-apimarket/location-data/)。また、エリア間を移動した人の移動手段の推測も可能など、素材としてのポテンシャルの高さが魅力でした。

明らかになった事実と課題

今回、具体的に分析を行ったのは、関東を中心に甚大な被害をもたらした2019年10月の台風19号に対する人々の行動です。台風の襲来時に、「自粛行動」と「避難行動」が適切にとられていたのか、利用許諾をいただいたauユーザーのGPS情報をベースに都内での動きを推計しました。
それによると、台風襲来前日の金曜夜は、雨が降り出していなかったにも関わらず、通常時と比較して出歩く人が約2割減少していました。これは、ニュース等による啓発の効果が表れたものと考えられます。翌土曜日の台風当日は、風雨が本格化する前で鉄道も運行していた朝の時点で約7割減、夕方には約9割減と大きく減少するなど、「自粛行動」については人々が適切な行動をとっていたことがうかがえる結果となりました。また、台風当日の「避難行動」について見ると、多摩川の氾濫危険情報発令後に地域住民の多くが移動を開始しており、氾濫情報が避難を促進する大きなきっかけになったと考えられます。

一方で、23区などの自治体がそれぞれに出す避難勧告と、住民の避難行動の相関関係は高くないことも今回の分析で明らかになりました。これは、避難勧告では河川氾濫の情報と比べてリスクを直感的に理解しにくく、ゆえに住民に危機感を与えられていない、といったことが原因として考えられます。過去の水害の場合も、警報レベルについて人々が十分理解していないなどの理由で、自宅にとどまった人々の存在が明らかになっています。
これらの結果から、外出しない・自宅にとどまるなどの自粛行動は大筋で適切に行われていたものの、避難行動についてはハードルが高く、避難勧告では避難を開始しない・氾濫危険情報が発令される直前まで避難せずに自宅で粘っている、といった傾向が示唆されました。今後の課題としては、例えば実家への避難などといった「ハードルの低い避難」についての避難啓発活動を行なう、などが挙げられるのではないかと考えます。

KDDI×NRIの分析ノウハウで無機質なデータを価値ある資産に変える

携帯電話の位置情報から避難傾向をとらえるという今回の試みには、多くの試行錯誤がありました。特に悩ましかったのは、データの扱いの難しさでした。位置情報データは無機質な数値データであり、特定の意味を持たせるように加工しなくては人々の避難行動の傾向を見いだすことが困難です。そのため、あらかじめ浸水危険度でエリアを分類するなど、課題解決の視点を踏まえて分析設計を進めることが不可欠でした。
また、位置情報は個人の行動に関する機微なものであることから、確実にプライバシーに抵触しない範囲で有用な集計データを作成することも課題でした。例えば、分析時に個人の特定に至らないよう適切なエリアごとに前集計を実施するなど、KDDIと密な議論を行なってデータの前集計を行いました。これらの経験から、KDDIのデータ加工技術とNRIの分析ノウハウを組み合わせることで、さらに多くの知見を得られるのではないかという手ごたえを感じています。
今回の取り組みでは、時間とエリアに絞って分析を行い、人々の属性については調査対象から外しましたが、年代や性別で避難傾向が異なれば、どの層にどのような啓発をしていくべきかの判断材料にもなります。今後は自治体などのニーズを踏まえて分析を実施し、施策に活かせる提言をしていきたいと考えています。

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株式会社野村総合研究所
コーポレートコミュニケーション部
E-mail: kouhou@nri.co.jp

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