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NRI トップ NRI JOURNAL DXに求められる実践力――デジタル化の「実践力」が、企業の競争力を左右する

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未来へのヒントが見つかるイノベーションマガジン

クラウドの潮流――進化するクラウド・サービスと変化する企業の意識

DXに求められる実践力――デジタル化の「実践力」が、企業の競争力を左右する

システムデザインコンサルティング部 沼澤 優

#DX

#AI

#データアナリティクス

2020/11/06

近年、デジタルトランスフォーメーション(DX)に取り組む企業が増えています。しかし、その多くは実行段階で頓挫し、満足できる効果を得られていません。
NRIでは、DXの導入によって企業の抱える課題を解決し、DXを実効あるものとするためには、「実践力」こそが重要であると考えています。今回は、数多くの企業のDX導入に立ち会い、支援を行ってきた野村総合研究所(NRI)の沼澤優に、DXにおける課題とこれを突破する実践力について話を聞きました。

業務プロセス改革なくしてDXなし

DXが実行段階で頓挫する原因の一つは、デジタルの導入そのものが目的になっている点にあります。デジタルを導入すればこれまで得られなかった効果を手に入れることができる、そのような誤解があるのです。しかし、デジタルは万能ではなく、企業が適用できる技術の一つでしかありません。デジタル化を進めていくうえで、その技術が業務の中のどの部分に使えるのか。どのように業務プロセスを改革していくのか。そのとき、現場の働き方や組織の構造はどう変わるべきなのか――それらの見極めが大切です。
例えば、これまで人間がやってきた判断業務を全てAIに任せようとする場合があります。しかし、常に100%の精度で答えを出すことができる完璧なAIは存在しません。そうなると、AIに過度な期待を持っている人は、「間違いが生じるようではまだAIには任せられない」と感じてしまい、その先に進めなくなってしまうのです。
しかし、たとえ100%の正解率でなくても、リスクの少ない仕事であればAIに任せて業務削減効果を得ることは十分に可能です。例えば、企業の与信判断にAIを活用する場合は、少額取引でリスクの少ない顧客への対応をAIに任せて業務を削減し、大規模でリスクの大きい顧客への対応は人間が入念に行うことが適切でしょう。
既存の業務プロセスや物事の判断基準を一切変えることなくデジタル技術を導入しても、期待する効果を得ることはできません。大切なのは、会社の業務内容の中で、何がAIに適していて任せることができるのかを判断したうえで、人が得意なところは人が対応する、そんな柔軟性を持った業務プロセス設計を行うことです。

小さく始めて育てることが実践力につながる

企業には顧客情報や取引情報、生産などで利用している設備の稼働情報など膨大なデータが蓄積されています。そのため、AIなどのデジタル技術さえ導入すれば、これらの豊富なデータを活用してすごいことができるのではないかという期待を持ってしまいがちです。しかし企業が持っているデータの多くは、デジタル化を前提に蓄積されてきたものではありません。デジタル化を期待通りに機能させるためには、デジタル化のためのデータ蓄積を数年にわたって行う必要があります。しかし、それまでの間は成果が得られないというのでは、デジタル化に対する企業のモチベーションを保ち続けることは難しいでしょう。
そこで私たちが提案しているのは、デジタル化による業務プロセス改革を小さく早く始めるという考え方です。
現在持っているデータで、どこまでデジタル化を実現することが可能なのか。初めは小さく限定された業務であっても、デジタル化の果実を得られる部分を迅速に見極め、そこから始めていきます。例えば実際のデータでAI活用を試してみた結果、うまくいかない場合にはすぐに見切りをつけ、データ蓄積から再スタートさせることもあります。
デジタル化による新しい業務プロセスは、現場の担当者自身がどのような業務が最適なのかをイメージできていないことも多く、実際にやってみないとわかりません。そのため、負担の少ない形でスタートを切り、失敗を容認できる環境でデジタル化の実体験にもとづく軌道修正を重ねて育てていくことこそが、デジタル化の実践力につながると考えています。

DX事例(株式会社三井E&Sマシナリーの場合)

NRIが顧客企業と取り組んだデジタル化の事例として、株式会社三井E&Sマシナリー(以下「三井E&Sマシナリー」)による社会インフラ診断の高度化サービスをご紹介します。
三井E&Sマシナリーの業務の一つに、路面のひびや路面下の空洞を検査するためのシステムの提供や道路の点検などの社会インフラ診断があります。現場では、センサーのついた車を走らせて路面状況を計測し、データを解析することで修理が必要な場所を割り出しています。これまで、このデータ解析は全て技術者によって行われてきました。
しかし昨今、道路やトンネルなど社会インフラの老朽化に伴い、それらを維持管理するための調査・点検の必要性が高まる一方、データを解析する技術者の不足が深刻化しています。現状のままでは、計測したデータがあっても、技術者がボトルネックでその解析に時間を要し、その間に事故が起きてしまう可能性があるため、調査・点検の効率化が強く求められています。
この問題の解決を目的として、三井E&Sマシナリーの非破壊検査技術とNRIのAI技術(画像解析)を融合し、「路面下空洞」や「路面・トンネルのひび」を自動抽出・解析する新サービスを開発、2020年度から順次運用を開始しました。三井E&Sマシナリーが保有する複合探査車が収集するデータを、NRIが保有するクラウド上のAIが解析することで、これまで技術者が行っていた仕事のスピードを飛躍的に高めようとするものです。社内で保有しているデータに、外部の技術をプラスすることでデジタル化が加速した好例と言えるでしょう。
ちなみに、この取り組みも初めからうまくいったわけではありません。取り組みを進めるなかで、道路の舗装の種類によってAIの検知精度が異なることや、マンホールの模様を道路のひび割れと誤検知してしまうこと、ネットワークの脆弱な山間部ではクラウドへの大量データ転送が難しいことなど、さまざまな課題に直面しました。こうした課題に直面するたびに業務プロセスや利用データ、解析システムなどの改善を積み重ねたことで、デジタル化の実現に至っています。
この事例は、単に三井E&Sマシナリーの業務改革にとどまらず、今後、日本中の自治体における道路やトンネルなどの社会インフラ保全活動そのものを抜本的に変える可能性を秘めています。
NRIでは、こうした「お客さまのDXの実現」を通じて、SDGs(持続可能な開発目標)などで提唱される社会課題をお客さまとともに解決し、持続可能な未来社会を実現していきたいと考えています。

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お問い合わせ

株式会社野村総合研究所
コーポレートコミュニケーション部
E-mail: kouhou@nri.co.jp

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