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広告をデータで変える(前編)――新事業「インサイトシグナル」の立ち上げを支えた信念

マーケティングサイエンスコンサルティング部 インサイトシグナルチーム 松本 崇雄

2021/01/13

シングルソースデータを活用して広告効果を科学的に測定するサービス「インサイトシグナル」。2007年に誕生し、現在ではマーケティング戦略を支えるツールとして200社以上の企業に導入されています。サービスを立ち上げた野村総合研究所(NRI)の松本崇雄は「データで広告を変えたい」という強い思いを抱いていました。今回、インサイトシグナルというサービスがどのように生まれたのか、経緯を2回にわけて聞きました。

その広告に根拠はあるのか

それまで勤めていた企業から松本がNRIに転職したのは2006年。
「データで広告を変えたいと思っていました。前職ではWeb、モバイルなどデジタル領域の新事業をいくつも立ち上げてきました。とりわけ、広告の仕事に関わる中で、この領域において絶対にデータが必要になる時代が来ると確信しました。ただ、前職において『広告にもデータが重要』と叫んでみたところで大きな波は作れないだろうと考えました。そのようなときに、世の中を変革していくことが使命であるNRIならば、自分の理想を実現できると考え転職しました」。

デジタル化が浸透した昨今は、さまざまな分野でデータ活用が進んでいます。しかし当時の広告業界では、データを根拠に広告を発信するより、有名クリエイターが感覚的に作った広告をマスメディアに投入するほうが良いとされていました。
「もちろんその考え方が正しい面もあります。一方、本当に広告で人を動かすとはどういうことか。そこをデータで紐解けないかとも感じていました。広告が好きか・嫌いか、を問うような測定データは山ほどある。それだけではなく、例えば、ある広告を目にした人には、その後の気持ちや行動にどのような変化が起こるのか、また、その広告を目にしていない人とでは、態度に違いがあるのか。その変容を正確に数値で表したかったのです」。

2年間におよぶ「ヒアリングマラソン」と「フィージビリティスタディ」

こうした強い思いを抱いていたものの、具体的なサービスのイメージは固まっていなかった松本は、当時、マーケティングの「見える化」事業を検討していたNRIのコンサルタントである塩崎潤一(現マーケティングサイエンスコンサルティング部長)と出会い、サービスのかたちについて議論を重ねました。その結果、まずは顧客となる広告主のニーズ把握が先決と考え、NRIのお客様に話を聞く「ヒアリングマラソン」を開始しました。
NRIには多業種にわたり多くのお客様企業がいますが、松本たちがヒアリングを実施しようとしたとき、広告宣伝やマーケティング関連部署とのコンタクト先が比較的少ないことに気づきます。
「先方のアポイントを取るには具体的なお客様のお名前が必要で、『〇〇部御中』と手紙を送ってもなかなか開封していただけない。とはいえ、当時、今のような名刺管理アプリのようなものもない。そのため、雑誌、新聞、ウェブサイトなどから、情報を地道にチェック。イベントや講演、関連団体などにも積極的に参加し、ひたすらお名前を拾い出しました。郵送はもちろん、電話もかけ、多くのヒアリングの実施と、人的ネットワークを構築しました」。

また、新しいアイデアや崇高な理念があっても、結果が見えなければ誰も振り向いてくれません。そのため上記の人的ネットワークに対し、徹底的なフィージビリティスタディをスタートしました。
「テスト調査をおこない、実際にデータを取得、分析してお客様に意見を伺う。その結果を元に、さらにデータの取り方を変え、分析方法を見直し再度意見を伺う。こうした活動を2年ほど続けました。自分たちで事業を作る、ということは通常のコンサルティング案件と異なり、一社が納得すればよいのではなく、多くの企業に納得いただかなくてはなりません。ここが難しいポイントでした。ですが、多くの企業の広告宣伝、マーケティング担当の方のお話を聞いているうちに、彼らが本当に知りたい広告効果はどんなことか、それを数値で示すにはどうすればよいかが少しずつ見えてきました。そこから、ようやく私たちの事業が始まりました」。

「差分の差分」による分析手法とブラックボックス化せず納得感を優先した「インサイトシグナル」

2年以上にわたる試行錯誤を重ね、ようやく新たなサービス「インサイトシグナル」が生まれるのですが、多くのフィージビリティスタディから事業化するにあたり2つのポイントがあったと松本は言います。
「まずは広告効果を測る目的、つまり評価結果を出すことではなく、何に使うのかを重点的に考えました。インサイトシグナルでは、商品認知や購入意向などの目標関数を、広告の出稿前後で同じ人に、同じ質問をします。また、同時に同じ人の日々のメディア接触状況を把握し続け、広告に触れたか、触れていないのかを判別できるようにします。そうすることで、広告に触れた人の出稿前後の変化と、広告に触れていない人の出稿前後の変化を比較することができます。これを「差分の差分」といい、分析の骨格に据えることで公正な結果と次に何をすればよいのか、というPDCAに活用できるのです」
これまでは、広告の効果を広告認知率や好感度で測ることがよくある方法でしたが、これでは好感度の高いタレントを使って、大量にテレビCMを流せばいいことになってしまいます。また、商品が売れたかどうかで判別しようとしても、販売価格や店頭への配架率、季節要因や商品力そのものなど、広告以外の要素が多分に含まれてしまい、的確な分析ができません。この「差分の差分」という方法を取り入れることで、純粋な広告の「量」と「質」で効果を測定できます。購入意向につながらない無駄な広告が一目瞭然となる一方で、もっと広告を出稿すればさらに売れた、どのようなメッセージが購入意欲を高めたか、ということも分かるようになりました。
「次に重要だったのが、分析をブラックボックス化しないことです。新しい考え方を啓蒙していく場合、あまりにも難しいロジックや手法にしてしまうと、各社において分析結果を取り入れづらい。担当者一人が納得すればいいのではなく、他のメンバーや部署の方に説明する場面もあるため、できるだけ分かりやすくことが重要でした」
統計学的にこの手法が全てを厳密に言い当てているわけではないし、今後もいろいろな挑戦が必要だというが
「原点は、お客様がどう使うか、が何よりも重要ですね。そのためこの2年だけでなく、今もこれからもずっとヒアリングは実施し、改良を重ねています」

  •  シングルソースデータ:同じ人に複数のメディア接触や広告出稿の事前と事後の2回、購買行動を尋ねて収集し、メディアの横断的な利用やメディア接触と購買活動の関係などを捉えることが可能となる。

次のページ:広告をデータで変える(後編)

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