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広告をデータで変える(後編)――新事業「インサイトシグナル」の立ち上げを支えた信念

マーケティングサイエンスコンサルティング部 インサイトシグナルチーム 松本 崇雄

2021/01/14

シングルソースデータを活用して広告効果を科学的に測定するサービス「インサイトシグナル」。2007年に誕生し、現在ではマーケティング戦略を支えるツールとして200社以上の企業に導入されています。サービスを立ち上げた野村総合研究所(NRI)の松本崇雄は「データで広告を変えたい」という強い思いを抱いていました。今回、インサイトシグナルというサービスがどのように生まれたのか、経緯を2回にわけて聞きました。

前のページ:広告をデータで変える(前編)

スキャナー5000台の配布と回収から得られた「お客様の信頼」

松本 崇雄

今でこそ多くのお客様にご利用いただいておりますが、事業がすぐ軌道に乗ったわけはありません。インサイトシグナルは広告運用にインパクトを与えるサービスであるということを伝える活動が必要でした。
「広告の評価は数値で判断できるし、PDCAを回せるということを、まずは改めて認知していただく必要がありました。そこでビジネスモデル特許取得のほか、広告関連団体や企業、教育機関などで講演やセミナー、イベント実施、メディアへの記事執筆などを行い、データ分析の考え方を発信しました」。
こうした活動の一つとして2007年にNRI主催の「マーケティング分析コンテスト」が始まります。以降、毎年開催されており、今では学生を中心に多数の参加者が能力を競う場として高い評価を得るまでに発展しました。また、2017年より、「広告効果」という視点で各社の広告を評価する「広告効果賞」という表彰活動を開始します。この活動は今までにない考え方や指標での取り組みであり、広告業界に一石を投じました。

一方、分析データを収集する目的で、一般の人たちからレシートを何万枚も集めて自動的に家計簿を作るサービスも立ち上げました。しかし、これは失敗に終わったと松本は言います。
「レシートを読み取るため、スキャナー5,000台を一般の方々に配布しました。機械を送り、使い方を教え、回収してまた別の人に発送する……地味な業務を延々と行いましたが、結局、収集データの整備のハードルが高く、事業化できませんでした」。
また、クリエイティブ調査用に新規でアプリを開発し、スマホをレンタルして回答させる、という活動も試行しましたが、これも失敗だったようです。
「2010年時点でのスマホの普及率はまだ10%程度。収益性も考えると、少し早すぎましたね。iPhone3Gを何百台も並べて設定したのも良い思い出です」
このように成功と失敗を繰り返していくなか、こうした活動や取り組みが徐々にお客様に伝わりだします。
「さまざまな活動をトライ&エラー、今でいうアジャイル型開発手法で継続的に実施してきたことがお客様の信頼につながり、NRIの広告効果測定サービスを利用してくださる企業が増えてきました」。

お客様の背景を洞察し、いかにデータに価値を与えるか

ここ数年で、広告業界もデータ活用が進んでいますNRIに入社してきた当時の「広告を変えたい」という思いは「形になった」と松本は思っています。
「これまで以上に重要になるのはデータの解釈です。現在は膨大なデータを簡単に収集でき、統計的な処理を行うサービスも増えています。競合企業が出てきたことも、この領域でデータ活用が一般化しつつある証拠です。ですが、この数値はなぜこうなったのか、データを紐解くのは一朝一夕にいくものではありません。次々と登場する新商品・サービス、一般生活者の動き、ニュース、流行、社会の動向など、あらゆる事象に関心を持って世の中を捉えること。そのうえで、お客様に本当に必要な分析結果は何か、有益な示唆は何か、を如何に洞察できるかが大切だと私は思っています」。

インサイトシグナルの強みは、まさにデータを解釈する知見や経験を蓄積してきた点。現在はデータ分析サービスを提供する会社も多数ありますが、NRIの強みはそのデータを解釈できる点にあると松本は強調します。
「チームの若手メンバーには、お客様の話を傾聴する重要性を伝えています。お客様から『今回は〇〇について知りたい』と要望をいただいたとき、言葉の額面だけを捉えるのではなく、その裏にある真意をきちんと洞察できているかを意識させます。世の中の動きはこうなのだから、背景にはこんなことがあるかもしれないと仮説を立て、私たちなりの分析も追加して提示する。その考え方が先方の真意を捉えていれば『気づいていなかった』とお客様に強く喜んでいただけますし、仮にずれていたとしても、そのずれた理由が知見としてたまるとともに『そこまで考えてくれたのか』と高い信頼を築くことにも繋がります」。

今後の取り組みについて松本は「一番の狙いは、広告業界において共通の指標を作り、デファクト化すること。『広告の効果であれば、NRIの○○値ね』というように誰もが語るようになるのが理想です。NRIはひとつひとつ実直に課題解決することは得意なのですが、指標やフレームを作り、啓蒙するという点に関しては、外資系のコンサルティングファームに比べ見劣りします」と語ります。
「そのため、さまざまな指標や見せ方を研究したり、セミナーの場などで直接お客様からご意見をいただいたりしています。また、コロナ禍における生活者の行動分析をきっかけとし、現在でも、独自レポートを作成し、約5,000名の方に毎週送付しています。現在は、レポートに対するご意見や反応について分析しているところです」。
このような活動が新たなフィージビリティスタディとして機能し、結論が見えてきたときこそ、『新しい指標化』が実現するときなのかもしれません。

  •  シングルソースデータ:同じ人に複数のメディア接触や広告出稿の事前と事後の2回、購買行動を尋ねて収集し、メディアの横断的な利用やメディア接触と購買活動の関係などを捉えることが可能となる。

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