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NRI トップ NRI JOURNAL 経営者としてのコミュニケーション戦略

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クラウドの潮流――進化するクラウド・サービスと変化する企業の意識

経営者としてのコミュニケーション戦略

執行役員 コンサルティング事業本部 副本部長 森沢 伊智郎

#経営

#社内コミュニケーション強化

2021/01/19

自らの存在意義=パーパス(Purpose)を重視する経営が大きな潮流となっている。
自社のコアコンピタンスを再検証し、社会という第三者視点から自社の存在意義を規定するパーパスは、企業の原点を明確化し、現在のような不透明な経営環境下で意思決定を行う際の羅針盤となる。また、世界的に社会貢献への意識が高まる中で、報酬やキャリアの獲得などとともに働く企業を選択する重要な理由の一つとなる。

対従業員のコミュニケーションの難しさ

一方で、パーパスは短く、分かりやすい言葉で表現されるため、細かい解釈や運用は現場に委ねられる。そのため、従業員一人一人への浸透が十分でない場合、理想と現実のギャップや解釈の違いが顕在化し、実践する現場に混乱や迷いを誘発する。
多くの経営者はこういったパーパス導入の意義と難しさを十分に理解しており、自ら率先して実践に努めるとともに、従業員に向けてさまざまなメッセージを発信している。しかし、従業員からは「経営の意図が分からない」「現場が見えていない」といった声をよく耳にする。経営者が重視しているほどには、経営者の声は従業員に届いていない。
こういった現象はパーパス導入に限ったことではない。あらゆる企業で頻繁に発生している。変化の激しい経営環境下で多くの企業が変革に取り組む中で、経営者と従業員とのコミュニケーションの重要性はますます高まっているにもかかわらずである。

あらためて考えてみると、経営者と従業員のコミュニケーションは驚くほど進化していない。
経営者が直接、従業員に情報発信する機会は年に数回、その方法はメール、社報、イントラ上の大量の文字や上長からの伝達である。従業員意識の把握についても、年に数回のアンケートや組織長からの報告に頼っている。

進化する対従業員コミュニケーション

世の中を見れば、コミュニケーションの手段は多様化し、急速に進化している。従業員の大半はスマートフォンを保有し、ソーシャルメディアやそこで活用されている技術を使えば、従業員に動画やアニメーションを駆使した分かりやすいメッセージを直接、高頻度で簡単に発信できる。アンケートの実施・分析も簡略化してきており、書き込みなどテキストのAI分析精度も実用レベルにある。経営者が直接、従業員に情報発信し、その反応を把握できるコミュニケーションプラットフォームを構築し、従業員の状況や理解度に合わせた従業員経験(EX:Employee Experience)を個別に提供することも実現可能である。
各国のリーダーや経営者を見ても、この環境をうまく活用している。トランプ大統領や大阪府の吉村知事などはその代表格であろう。
トヨタ自動車の豊田章男社長もソーシャルメディアを戦略的に活用している。「トヨタイムズ」というWebサイトやYouTubeと連携した仕組みを構築し、株主総会や決算発表だけでな く、労使交渉や年頭挨拶までも動画でそのまま発信している。またその内容も、当たり障りのないものにとどまらず、自分が感じている危機感や不満が正直に表現され、強さやリーダーシップのみならず、弱さ・本音をさらけ出しながら自らの思いをそのまま伝えている。トヨタイムズを通して会社の戦略を理解し、今まで以上に自分の会社に誇りを持てるようになった従業員も多いと聞く。
むろん従業員と直接コミュニケーションをとる機会を拡大していくことには、批判の集中や、情報の漏洩などのリスクも存在する。グーグルでは、10万人を超える従業員に対してCEOが直接語り掛けるTGIFというイベントが毎週金曜日に行われていたが、会議内容の流出により月一回に開催頻度を縮小した。ただ、このイベントが完全に中止されなかったのは、その効果と必要性を経営者自身が実感しているからであろう。

経営者に求められる対従業員コミュニケーション戦略の再構築

先進的な経営者は、企業への求心力を高め、経営判断のスピードを高める武器として従業員とのコミュニケーション戦略を再構築してきているのである。

ある経営者と議論した際に、変革を行う際に最も腐心することは何かと尋ねたことがある。その方は、従業員がどこまで耐えられるかを見通すことが最も難しいと答えた。確かに、従業員が今どれほどの危機感を持ち、何が不安なのかといった社内の温度感を把握できていなければ、どんな経営者も裸の王様となる。変革を繰り返す経営者にとって、ソーシャルメディアなどを積極的に活用し、自らの意志や考え方を従業員に直接伝え、従業員の生の声をリアルタイムで収集するコミュニケーションプラットフォームは必須アイテムになるはずである。新型コロナウイルスにより、さまざまな変化が加速され、経営者と従業員のコミュニケーションを高めることが求められている今は、経営者としてのコミュニケーション戦略を見直す絶好の機会ではないか。

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