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~ウイルスが持ち込まれても、広がることができず、自然に消えていくために~

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安心・安全に過ごせる「空間デジタル・ヘルスケア」
~ウイルスが持ち込まれても、広がることができず、自然に消えていくために~

戦略IT研究室 佐野 則子

DX

2021/03/31

コロナ禍中に乗り物や建物内で過ごしたときに、「この場所にずっといて、果たして安全なのか」と感じたことはありませんか。鉄道利用等に関する調査を実施した野村総合研究所(NRI)の佐野則子は、今後の事業の創出や活性化のためには、ヘルスケアに配慮した空間づくりや、安心・安全であることを伝える工夫に、デジタルの活用が不可欠になると指摘します。佐野則子が提案する「空間デジタル・ヘルスケア」について聞きました。

感染が発生しても、自然に消えていく仕掛け

――「空間デジタル・ヘルスケア」とは、何を指しますか。

感染症を引き起こすウイルスが広がりにくい、安全な空間をテクノロジー(デジタル)を使って効率よく整え、空間の状況を利用者にわかりやすく伝えている状態を実現しよう、という考え方です。

――なぜ新しい空間づくりが必要だと考えたのでしょうか。

コロナ禍によって、新しいニーズや課題が出てきたからです。従来の移動空間に対するニーズは、混雑がなく、振動が少なく、心地よく過ごせること。建物空間であれば、建築資材などによる健康被害がない、温度や湿度などの快適さでした。一方、コロナ第2波収束期の2020年9月にアンケート調査を行ったところ、鉄道(新幹線以外)の車両内については回答者の8割強の人が、駅ビルについては7割強の人が「手による接触」「利用ルール」「混雑」「換気」「消毒」の5項目すべてに高い不安を感じていました。これらは、空間における課題です。

――そうした不安は、コロナ禍が収束すれば自然に解消しませんか。

確かに、新型コロナウイルス感染症の収束によって不安が一時的に解消される側面はあります。ですが、感染症を引き起こすあらゆるウイルスを根絶しない限り、感染症の波とそれに伴う不安は繰りかえし起こる可能性があります。今回のコロナ禍をきっかけに、リモートワークを含めて新しい生活様式や、感染しにくい行動をとろうという意識変容が生まれ、生活者は変化しています。さらに日本は少子高齢化社会に突入し、人手で行う感染対応は持続可能とは言えません。デジタルなどのテクノロジーを活用して、ウイルスが持ち込まれても、広がることができず、自然に消えていく仕掛けや仕組みが必要です。

利用者に空間の状況をわかりやすく伝える

――具体的にどんな施策が可能でしょうか。

移動空間における混雑緩和やマナーの監視に役立つ方法として、たとえば、北京の地下鉄は車両内にAIカメラを設置してマスク着用をモニタリングしたり、ドア上のスクリーンで前後車両の混雑状況などを表示しています。また、アメリカのアムトラックは、スマートフォンやウェブでの指定席予約で、感染状況に応じて、物理的距離を確保するために予約できる席数を調整でき、利用者も満席状況を把握できます。手による接触への不安解消の一例として、インド鉄道は抗ウイルス素材で車内をコーティングし、QRコードを用いて切符を触らずに点検できるようにしています。

建物空間の場合、2008年の北京オリンピックで使われた北京国家水泳センター(ウォーターキューブ)では、スマートフォンで施設内の空気質(CO2濃度)を確認できます。施設管理者向けですが、カスタマイズにより、利用者にスマートフォンやサイネージで見せることもできます。また、香港国際空港では、センサーで収集した建物内の温度や空気質のデータでAIが空間の状態を予測し、オペレータに最適な換気・空調設備の操作内容を提示しています。これを応用し、施設内のデータをもとに消毒、換気、混雑状況を制御する設備を入れると同時に、利用者へ簡単な情報を見せるなどして、ヘルスケアに配慮した空間をつくることができます。

万全の対策を講じても、それを知らせなければ、利用者の不安は払拭されません。現在、再開発の際にスマートビル化する動きが加速し、最新のテクノロジーを使って快適な空間をつくろうとしています。ウイルスは人間の目では確認できないので、その空間がどういう状態なのかを適切に伝えることも、空間デジタル・ヘルスケアを考える際のポイントとなります。

一時的な対策ではなく、事業の存立基盤にする

――空間のヘルスケア対策は利用者には喜ばれると思いますが、関連企業にとって新たな投資が負担になりそうです。

例えば、再開発のような長期間かかる新事業で、感染予防対策による関係者間の意識のズレから構想が揺り戻しを受けたり、既存事業でも利用者の意識変容や、感染拡大で事業が影響を受けることを考えれば、今後は感染を拡げにくい仕組みにしたうえで、新しい事業をつくっていくスタンスが求められます。

空間のヘルスケア対策は、感染予防対策のみに役立つのではなく、通常時にも利用者が経験する感動や満足感などの感情・心理的な価値(体験価値)を高めるためにも役立つ方法を考えれば、攻めの投資になります。たとえば、北京の地下鉄は窓にタッチすると情報が表示されるのですが、混雑緩和に役立つ情報などに限定せず、次の駅の商業施設の案内やタクシーの配車予約機能など、新しいサービスを付加すれば、乗車体験の向上につながります。考え方は、建物空間などでも同様です。

――事業の活性化と感染予防対策を両立させるのですね。

そうです。魅力的な新事業を創出したり、既存事業を活性化したりするためにも、ウイルスが広がりにくい、安全な空間をデジタルを使って効率よく構築し、空間の状況をわかりやすく伝える「空間デジタル・ヘルスケア」を事業の存立基盤として捉えていただきたいと思います。

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株式会社野村総合研究所
コーポレートコミュニケーション部
E-mail: kouhou@nri.co.jp

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