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実証実験が進むデジタル人民元の動向と日本への影響

金融イノベーション研究部 主席研究員 井上 哲也

ブロックチェーン

井上 哲也

2021/04/02

野村総合研究所(NRI)では、日中両国の金融経済と政策対応を議論する場として、中国の民間シンクタンク「中国金融40人論壇」と共同で、2012年から「日中金融円卓会合」を開催しています。
2020年11月の第11回会合では、両国で動きが活発になってきた「中央銀行デジタル通貨」を取り上げました。デジタル人民元の特徴や動向と日本への影響について、金融ITイノベーション事業本部の井上哲也に聞きました。

中国金融40人論壇と毎年開催している「日中金融円卓会合」

中国金融40人論壇(CF40)は、2008年設立のシンクタンクです。非営利の民間シンクタンクですが、政策当局と密接に結びついていることが特徴です。

CF40にとって海外活動はNRIとの「日中金融円卓会合」が初めてであり、その後、BrookingsやBruegelなど国際的に高名なシンクタンクともコンファレンスを共催し、影響力を持つシンクタンクとなりました。なかでも、中央銀行デジタル通貨(CBDC)を早くから主要な研究テーマの一つに据え、関連するセミナーや文献の公表を行うなど、中国のCBDC、いわゆるデジタル人民元の導入に中心的な役割を果たしてきました。その研究成果は欧米の資料でも引用されることが多く、世界的な権威となっています。

「日中金融円卓会合」は、2012年から毎年1回程度のペースで開催、議論を重ねてきました。テーマは、両国のマクロ経済にとって重要なさまざまな政策課題で、CF40の選んだテーマはどれも、そのときどきの中国の政策課題を色濃く反映したものでした。中国の金融経済の動向は日本への影響が不可避であるため、NRIとしては重要顧客との関係でもいち早く知ることに意義があります。

中国での中央銀行デジタル通貨開発の背景は「金融排除」の対策と民間企業による情報の独占の排除

中国では、現金の残高がGDPの1割を切るなど、その利用がマクロ的に減少傾向にあり、特に都市部では日常生活における使用機会が減少しています。背景には偽造の多発などによる「信認」の低下がありましたが、近年ではキャッシュレス支払いの拡大によって拍車がかかっています。そうした現象が、電子商取引等に対応できないデジタル弱者や農村地域の居住者に対する、新たな「金融排除」を生みつつあるとして、その救済が政策課題として浮上していました。

また、中国では、キャッシュレス支払いの拡大を推進してきた巨大IT企業が利用者や取引内容に関するデータを独占的に集積することが、競争やイノベーションを阻害しているのではないかとの懸念も指摘されてきました。

世界における中国経済のプレゼンスを踏まえると、長い目で見れば人民元が国際通貨としての地位を高めることは自然であり、デジタル通貨もその利便性の面から、こうした流れを促進しうるものです。ただし、近い将来を展望した場合には、中国のCBDCが巨大市場での実績に基づく信頼性やコスト競争力によって、高速鉄道や5G技術のビジネスモデル同様、諸外国におけるデジタル通貨導入の基幹技術として国際競争力を発揮する可能性の方が重要ですし、それは、中国発の金融サービスの競争力強化にもつながります。

すでに実証実験も進むデジタル人民元開発の経緯と用途の拡大

中国人民銀行におけるデジタル通貨の開発は、周総裁(当時)の指示により本格化し、2016年頃には基本的な構想がまとまっていたと推察されます。すでに実証実験も進んでおり、2020年4月以降には、深圳、雄安、成都、蘇州など少なくとも4か所で、ウォレット等の利用を伴う実証実験が開始されました。中国商務省は、これに加えて22年の北京冬季オリンピック会場での実用化を先行させる方針を示しています。

今年に入ってからは、深圳や蘇州での実証実験でも、5万〜10万人の一般市民に、抽選で総額1,000〜2,000万元のデジタル通貨を配布し、地域の実店舗だけでなく、電子商取引での利用も容認するなど、より大規模かつ実用に近い高度な内容になっています。

これらは個人が利用するデジタル通貨ですが、中国人民銀行は、企業などによるデジタル通貨のクロスボーダー利用の可能性も模索し、貿易金融ブロックチェーンプラットフォーム等の実現に向けた開発も進めています。

「日中金融円卓会合」第11回会合ではCBDCを政策的な視点から議論

2020年6月の「日中金融円卓会合」第10回会合では、当初デジタル通貨がテーマとして浮上していましたが、コロナ問題に関連したテーマに変更となりました。そこで11月にオンラインで開催された第11回会合では、CBDCを政策的な視点から議論しました。

講師として会合に参加したCF40常務理事会副主席の謝平氏は、CBDCの基本的ロジックとして、商業銀行が100%準備預金を通じて中央銀行からCBDCを購入する「需要主導型」で「二層構造」であること、Peer-to-Peer的な利用者同士の支払いを認める「口座との疎結合」であることが、主要国の議論では多数派であり中国にとっても適切だとの見解を示しました。

そして、CBDCは中国の支払い・決済インフラを改善し、公正な競争の促進と公共の利益の保護に寄与しうるとした上で、制御可能な匿名性、法貨としての一般的受容性、マネーロンダリングやテロ資金、脱税の防止、オフラインでの支払いといった面でのメリットを評価しました。

日本側講師の日本銀行決済機構局FINTECHセンター長である副島豊氏は、日本のCBDCに関する取り組み方針について、国内外の経済でデジタル化が進展し、CBDCに対するニーズが急速に高まる可能性もあり、現時点で導入を決定した訳ではないものの、今後の変化に対応するための準備を進めることが重要であると指摘しました。

デジタル人民元がもたらす日本社会・経済への意味合いとは

日本では支払い・決済における銀行券の役割は、依然として大きいものがあります。その背景には、偽造の相対的な少なさ、銀行券の入手の容易さといった客観的要素に加え、支出に関する保守的な姿勢、キャッシュレス手段のセキュリティに対する不安、匿名性の重視といった主観的な要素がうかがえます。

とはいえ、諸外国に比べて低いとされるキャッシュレス化も、家計の消費支出の1/4を占めるようになるなど、着実に進展しています。また、金融機関と事業法人の相互で、「お金」と「財やサービス」、「情報」の流れを一体で処理したり、スマートコントラクトを活用したりするといったデジタル通貨に固有の特徴を生かしたソリューションを目指す動きが活発化しています。

一方で、アリペイの例が示すように、中国からのインバウンド旅行者のニーズを反映して、日本でも中国のCBDCを用いた支払いや決済が観光地等を中心に浸透していく可能性は存在しますし、日本でCBDCの導入が明確になった場合、実績やコストで優位性を持つ中国発の技術にどう対応するかという課題もあります。

NRIでは、社内で「通貨と銀行の将来を考える研究会」を組織し、CBDCに関するさまざまな検討を行っています。日本でのCBDCの展望や課題に関する2020年度中の議論の成果を、中間報告の形で間もなく公表する予定です。

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株式会社野村総合研究所
コーポレートコミュニケーション部
E-mail: kouhou@nri.co.jp

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