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NRI トップ NRI JOURNAL 「ITロードマップ2021年版」〜情報通信技術は5年後こう変わる!〜

NRI JOURNAL

未来へのヒントが見つかるイノベーションマガジン

クラウドの潮流――進化するクラウド・サービスと変化する企業の意識

「ITロードマップ2021年版」〜情報通信技術は5年後こう変わる!〜

IT基盤技術戦略室 長谷 佳明 権藤 亜希子

ITの高度活用

2021/05/10

野村総合研究所(NRI)では、ITの最新動向を解説するとともに5年先までの動向を予測する書籍「ITロードマップ」を毎年出版しています。最新刊である2021年版から、「シンセティック・メディア」と「ジェロンテック」について最新動向と今後の見通しを紹介します。

シンセティック・メディア―IT基盤技術戦略室 長谷 佳明

リアルな音声付き動画を低コスト、短期間で制作できるシンセティック・メディア

シンセティック・メディアとは、リアルな音声付き動画をAIによって作り出す動画合成技術です。事前に用意したテキストと人の映像から、その人が本当に話しているような動画を生成することができます。
2013年に米Digital Domainが台湾の歌手テレサ・テンの没後20周年を記念して制作したフルCG「バーチャル・テレサ・テン」は、多くのクリエイターを起用し、約16億円の費用と5カ月もの期間を掛けて制作されました。しかし、2019年にスタートアップのCannyがシンセティック・メディアを活用して作成した「フェイク・ザッカーバーグ」は、AIが公開データなどを24時間程度学習することで制作され、あたかもザッカーバーグが話しているかのような動画が格段に短期間で、そして容易に制作できたのです。
昨年より新型コロナウイルスヘの対応策として、教育や接客などの分野で動画活用のニーズが急拡大しました。さらに、デジタルサイネージを活用した動画による接客も急速に一般化しました。将来的に、シンセティック・メディアは、従来のスタジオ収録に代わる生産性の高い動画制作技術として発展する可能性を秘めています。

金融・不動産分野にも広がるシンセティック・メディアの活用シーン

新華通訊社は2018年からシンセティック・メディアによる「AIアナウンサー」を活用しています。AIアナウンサーは多言語化が容易であり、24時間対応できるため速報制作にも適しています。
また、英国のメディア大手WPPは、社内教育用コンテンツの多言語化にシンセティック・メディアを活用しています。従来は1万ドル×20言語の製作費が必要でしたが、シンセティック・メディアの活用によって、コストは全体で1万ドルに抑えられ、制作時間も大幅に短縮されました。
シンセティック・メディアは、金融業界では鮮度の高い情報をパーソナライズした「音声付きニュース動画」の効率的な作成・提供に、また保険代理店では新商品のポイントを顧客属性に応じてわかりやすく説明する営業支援動画の作成にも有効と思われます。

シンセティック・メディアの課題と展望

現在のシンセティック・メディアでは、現状のAI技術で顔と声をほぼ違和感なく再現できますが、シネマクオリティにまで品質を向上させ、顔の陰影や質感を大画面で忠実に再現するためには、専門施設で顔のデータを大量に取得する必要があります。
一方で、シンセティック・メディアを悪用し、有名人を装ったディープフェイク(偽動画)が増加する恐れもあります。このためシンセティック・メディアを取り扱う研究者や企業は、本人の明確な同意なしにシンセティック・メディアを制作しないことなどを定めた、倫理ガイドラインを設け始めています。2020年には、ディープフェイクをAIによって見破るコンテストがFacebookなどの主催で実施されましたが、正答率は最も高いものでも65%でした。今後はディープフェイクを見破るためのAI技術も必要となります。

ジェロンテック―IT基盤技術戦略室 権藤 亜希子

高齢者本人や介護者を支援するジェロンテック

ジェロンテックとはGerontology(老年学)とTechnology(技術)を組み合わせた用語で、高齢者が直面する問題を解決するためのテクノロジーを意味します。近年、認知機能が低下した高齢者の増加が社会問題として広く知られるようになりました。2025年には高齢者の5人に1人が認知症になるという厚生労働省の推計もあり、海外に先んじて社会変革のタイミングが到来しています。

金融ジェロントロジーにおけるテクノロジー活用

金融ジェントロジーとは、個人の資産選択や資金管理といった金融の問題に、ジェントロジーの知見を活かす研究分野です。
認知機能の低下に関連して、高齢顧客とその家族には「認知症になるとお金が引き出せなくなると聞いたが、自分(自分の親)は大丈夫か」、金融機関には「高齢者が親族と名乗る同伴者を連れて窓口にきている。取引をしてよいのか」といった悩みが増加しています。こうした社会的課題意識の高まりと、技術の進歩により、「支出手続きのサポート」「資産の保護」「認知症保険」など高齢後期に向けた取り組みが促進されています。信託銀行は、代理人による高齢者の出金サポートサービスの提供を相次ぎ開始し、保険会社は認知症保険の付帯サービスとして、認知機能アセスメントツールを提供するなど、実用化も進んでいます。

今後の注目領域は認知機能アセスメント技術

タブレット端末などを通じて手軽に測定できる認知機能アセスメント技術は実用化が進む一方で、更なる研究が進んでいます。自然言語処理に特化したデータ解析の企業であるFRONTEOが開発する会話型認知症診断支援AIシステムは、独自のヘルスケアデータ解析AIである「Concept Encoder」により、診察場面での会話内容から認知機能の低下傾向を察知します。アップルと製薬会社のイーライリリーにおいては、Appleウォッチなどのウェアラブルデバイスで取得した心拍数や歩数、睡眠時間といったバイタルデータと、スマートフォンで取得したメッセージの送受信やアプリの利用状況といった生活実態を示すログデータを用いた試みも行われています。これらの認知機能アセスメント技術は、本人に「アセスメントを受けている」ことを過度に意識させることなく、認知機能の低下傾向を察知することができるため、活用場面の一層の広がりが期待できます。

複数業界へ波及するジェロンテックの今後の展望

労働力人口に占める高齢者の割合は年々上昇しており、仕事の担い手としての高齢者の存在感が増しています。雇用者側には、これまで以上に高齢の労働者に対し健康状態や安全への配慮が求められていくと考えられます。シルバー人材センターでは認知機能アセスメントツールを試験的に導入する例がみられるようになってきています。高齢者は任意でアセスメントを受けることができ、認知機能が低下傾向にある場合には、危険を伴う活動を避けられるよう作業内容が変更されるほか、生活面のアドバイスを受けます。
金融審議会においては、高齢顧客へのデジタル技術を活用した柔軟な顧客対応について議論がなされ、例えば高齢者ごとの認知判断能力に応じた不相応な取引の検知など、高齢者の能力・状況に応じたきめ細やかな対応が検討されています。
認知機能の変化を理解し適切に対応できる一般スタッフや、「銀行ジェロントロジスト」のような専門スタッフの育成が急務であり、VRや認知機能アセスメントなどのテクノロジーの活用もこの一助になると期待されます。

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株式会社野村総合研究所
コーポレートコミュニケーション部
E-mail: kouhou@nri.co.jp

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