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国を挙げたワクチン接種への取り組みこそが接種促進の鍵となる

未来創発センター 制度戦略研究室長 梅屋 真一郎

#政策提言

#新型コロナ

#価値共創

2021/05/27

野村総合研究所(NRI)は、イスラエル・イギリス・米国・カナダ・ドイツ・フランスの6か国における2021年3月末時点までのワクチン接種状況を取りまとめました。
調査の結果、対象とした6か国はワクチンの接種促進において先行する国と苦戦する国とにはっきりと分かれることがわかりました。ワクチン接種をスムーズに進めるポイントはどこにあるのか、日本は何を学ぶべきか、調査を行った未来創発センターの梅屋真一郎に聞きました。

  • イスラエルは、2021年2月未に調査取りまとめ。

ワクチン接種促進で先行するイスラエル・イギリス・米国

ワクチンの接種促進で先行するイスラエルは、2021年3月末の時点で人口100人あたりの接種回数が100回を超えており、これは1人につき1回は接種を受けていることを示しています。これに対して、フランス・ドイツ・カナダでは、20人に届くか届かないかの状況でした。
イスラエルではネタニヤフ首相の強力なリーダーシップのもと、ワクチンの早期確保・接種体制整備を行うとともに、ワクチン接種奨励キャンペーンを実施し、世界で最も接種が進んだ国の1つになりました。
イギリスでは、第二次大戦のスローガン「Keep Calm and Carry On」をパンデミックでも同様に呼びかけ、国を挙げた接種キャンペーンを実施して、かかりつけ医などでも接種できるように接種拠点を整備しました。
一方3月末時点においてドイツでは、ワクチン確保の遅れやワクチン接種のペースが遅いことで政府に厳しい批判が集まりました。フランスでも同様にEU経由でのワクチン確保が遅れ、さらにワクチンへの懐疑的な意見が多いこともあり、接種は思うように進んでいませんでした。(5月時点での付記:ただし、これらの国々もワクチン確保がようやく順調に進み始め、4月以降はワクチン接種が徐々に進むようになってきています。)

いち早くワクチンを確保、医療ITインフラを活用して接種を促進――イスラエル

イスラエルは、ネタニヤフ首相がトップダウンでワクチン調達に動きました。接種データをWHOと製薬会社に提供するとアピールし、予想される必要量以上のワクチンを前倒しで購入する契約を締結して米国FDAの承認前に初出荷分を輸入しました。そして、「2021年3月末までに全人口の55%にあたる500万人の国民へワクチン接種する」としていた目標を達成しました。
イスラエルは、約20年前からデジタルヘルスのインフラを整備しており、単一lDによる統一的なデータ管理を実現しています。この医療ITインフラがワクチン接種でも有効活用され、性別・年齢・居住地・病歴に応じた優先順位付けを自動的に実施し、ワクチンの接種量や接種者数に関する継続的なデータ収集を行っています。
そして、ワクチン接種奨励キャンペーンにより、ワクチンに関する安全性と効果検証の情報発信で接種に対する不安を和らげました。ネタニヤフ首相も最初にワクチンを接種し、「全国民が協力し、ルールを守り、ワクチン接種を受けに行けば、われわれはこの状況から脱出する世界初の国になることができる」と強いメッセージを発信しています。

いち早くワクチンを確保、医療ITインフラを活用して接種を促進――イギリス

イギリスは、2020年4月に政府、学界、産業界が一体となりワクチン・タスクフォース(VTF)を創設しました。VTFは、英国内で大量生産が可能かつ迅速なデリバリーが可能なワクチンの調達に注力し、早期に大量のワクチン調達に成功しました。
イギリスには、おもに税金で賄われる国民皆保険制度(NHS)があり、ワクチン計画の実行を監督するNHSのトップダウン体制により、ワクチン接種の規模を急拡大しています。オペレーションを担うNHS Englandは、新型コロナワクチンの接種を実施する主要運営組織で、2008年のHPVワクチン、2013年の帯状疱疹ワクチンの接種実施を通じて成功経験と専門知識を備えていました。こうした既存医療インフラを最大限活用した接種体制作りに加え、統合されたITシステムによる摂取情報の一元管理も実現しています。
世界でも最悪のコロナ・パンデミックに見舞われた国の1つとして、イギリスは強い危機感のもと、英国王室も積極的に関与するなど、まさに国を挙げた接種推進キャンペーンを実施しています。

硬直的な接種体制運用と政府によるコミュニケーションの混乱が苦戦要因――ドイツ

パンデミックに対するメルケル首相の早期対応は、国際的にも高く評価されました。しかし、その後のワクチン配布・接種キャンペーンは行き詰まっています。 その理由の1つが、ワクチン確保の問題です。EUでは、共同調達メカニズムを利用して、ワクチンを各国政府が集中的に調達した上で加盟国の人口に比例して分配される仕組みであるため、自国の判断だけでは思うようにワクチンを調達できずにいるのです。
また、ドイツは連邦共和国であるため、連邦政府は連邦レベルの規制・ルールのみを決定し、公衆衛生や疾病予防は州が担当します。ワクチンの供給には限りがあるため、連邦政府はワクチン接種の優先順位付けなどに厳格な規制・ルールを定めざるを得ず、これが州レベルでの混乱を引き起こしていると言われています。また、ワクチンの接種場所は都市部に集中しているため、特に高齢者の接種に大きな影響を与えています。これに加えて、アストラゼネカ社ワクチンの有効性に関連した報道や、これに対する政府の混乱した対応が不信を招きました。
現在、ドイツ政府は接種体制の見直しを行っており、今後劇的な改善が図られる余地はあるものの、さまざまな課題が表面化しています。(5月時点での付記:その後、ワクチン確保が進むにつれて、ドイツにおいても4月以降ワクチン接種が徐々に進むようになってきています。)

接種先行国の成功要因を踏まえた柔軟・臨機応変な対応を

新型コロナワクチン接種で先行する国の対応には、ワクチン確保、シームレスなロジスティクス、既存医療インフラを活用した接種体制の最大限の確保、国家リーダーの統一された強いメッセージとリーダーシップといった特徴が見られます。一方、ワクチン接種に苦戦する国では、これら4項目に課題が生じているほか、政府によるコミュニケーションの混乱、接種体制作りに関する柔軟性の欠如などの問題が見られます。
これから接種が本格化する日本では、ワクチン接種円滑化システム(V-SYS)やワクチン接種記録システム(VRS)の構築が進み、集団接種・個別接種の両方に対応した配送の仕組み作りも整いつつありますが、接種先行国の成功要因を踏まえて接種促進を図ることが肝要です。その中で、「ワクチン接種こそがコロナ禍から抜け出す最良手段」であることをトップを含めた政府からの強いメッセージとして発信することが求められます。また、状況に応じた臨機応変な対応も必要となってくるでしょう。

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株式会社野村総合研究所
コーポレートコミュニケーション部
E-mail: kouhou@nri.co.jp

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