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NRI トップ NRI JOURNAL 2025年インフラシステム輸出34兆円をどう実現するか(前編)

NRI JOURNAL

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クラウドの潮流――進化するクラウド・サービスと変化する企業の意識

2025年インフラシステム輸出34兆円をどう実現するか(前編)

――日本の新戦略と産業界からの提言

内閣官房副長官補室 経協インフラ室 参事官 阿部 一郎氏
アーバンイノベーションコンサルティング部 グループマネージャー 又木 毅正
社会システムコンサルティング部 グループマネージャー 佐竹 繁春
サステナビリティ事業コンサルティング部 安本 祐治
アーバンイノベーションコンサルティング部 川手 魁

#DX

#価値共創

2021/08/10

2020年12月に政府より発表された「インフラシステム海外展開戦略2025」、野村総合研究所(NRI)は本戦略策定を支援してきました。昨今のインフラ輸出における環境変化や日本の競争力について、内閣官房の阿部一郎参事官と、NRIの又木毅正、佐竹繁春、安本祐治、川手魁に聞きました。

国際的な環境変化を踏まえた3つの戦略目標

――「インフラシステム海外展開戦略2025」(新戦略)の目標やこれまでの戦略との違いを教えてください。

阿部 以前の「インフラシステム輸出戦略」は2013年、第二次安倍晋三内閣の初期にインフラシステムの海外展開を支援するために策定されました。2010年のインフラ受注実績は10兆円。そこから2020年に30兆円という目標を掲げて経済成長の実現を目指しました。 新興国のビジネス環境、国際情勢、地球温暖化対策など、その後の国際的な環境変化を踏まえながら2020年12月に発表した新戦略は、①カーボンニュートラル、デジタル変革への対応を通じた経済成長、②展開国の社会課題解決・SDGs(国連の持続可能な開発目標)達成への貢献、③「自由で開かれたインド太平洋」の実現という3本建てにしました。インフラ輸出の受注実績は2013年以降、着実に伸びていましたが、やはりコロナ禍の影響を受けました。とはいえ、チャレンジな目標として2025年34兆円を掲げています。

――中国が海外でのインフラ投資に積極的だという話をよく聞きますが、競争環境はどのように変わっていますか。

阿部 たとえば発電プラントをASEANに売り込む場合、従来であれば、欧米企業がライバルでしたが、そこに中国企業などが加わり、各地域の地場企業も力をつけています。競争相手が増えれば、入札価格は下がります。さらに、新興国ではハード面だけでなく、人材や法制度などソフト面でもレベルが高まっているので、競争がさらに激しくなっています。

又木 デジタル分野を見ると、ASEANでは、アメリカのウーバーと同じような配車サービスをスタートアップ企業の「グラブ」が行っており、ウーバーの東南アジア事業を買収するまでに成長しています。現地ではこのようなスタートアップが続々と登場し、スピード感を持って事業に取り組んでいます。

インフラ領域のデジタル化はまだ創生期

――新戦略には「デジタル変革への対応」とありますが、日本はデジタル化では出遅れている印象があります。どのように輸出競争力をつければよいのでしょうか。

佐竹 確かに電子決済など、新興国のデジタル系企業が日本を追い越している領域があります。その一方で、防災などは日本に一日の長があります。このような、他国に勝てる領域を見つけていくことが大切です。

又木 ハードを中心にしたインフラは、先端的な技術を除けば、価格競争力のある新興国企業との差は大幅に埋まっています。ただし、安心・安全な運行など命に関わる領域でのオペレーション力、人の中に内包されている経験知に基づく能力などは日本の強みになるはずです。また、これまでのデジタル化はB2C領域で先行し、インフラ領域のデジタル化は世界的に動き始めたばかりです。日本が強い設備、技術、保守やオペレーションを核に、その周辺でプラットフォームをどう形作るかが勝負になると考えています。

川手 新戦略の中でも「現地企業やパートナー国企業との協業」という言葉があるように、日本企業だけですべてのインフラを担う必要はありません。たとえばスマートシティであれば、日本企業は街の企画・投資・運営といったコアとなる部分を担当し、個別のデジタル技術が必要な部分はそれに強い現地企業と連携する形も考えられます。多様な座組の中で、インフラを総合的につくる考え方が必要と思います。

既存の強みを組み替えて日本らしさを発揮する

――インフラにおける「環境」への対応を日本はどう進めるべきと考えていますか。

安本 環境問題は大きく潮目が変わってきています。例えばエネルギー分野では、従来の発電所における関連技術やオペレーションノウハウといった日本企業がこれまでに培ってきた強みを、デジタルを活用しながら、今後の潮流に合わせてうまく転換していくことがポイントです。 今後、中長期的にカーボンニュートラルの実現を目指すときには、水素などの新エネルギーの活用が欠かせません。たとえば、水素関連技術の特許取得状況は、日本企業は世界トップレベルです。ただし、その商用化には今までにないサプライチェーン全体での追加投資が必要となります。これは民間企業の自助努力では難しく、官民連携により一体的に推進することが鍵になると考えています。

阿部 デジタルやカーボンニュートラルについて日本は弱いという印象があるかもしれませんが、そうではなく、日本らしい強みや、技術、ネットワークなどをうまく組み合わせることが大切です。大きな環境変化の潮流の中で、企業も自社の強みや弱みを見極め、チーミングを考えていくでしょうし、日本政府も日本らしい脱炭素、日本らしい課題解決を、うまくマッチさせる。戦い方が変わるので、日本の強みの出し方を組み替えることが重要です。 また、売り切り型のインフラ輸出では継続性がなく、現地に根付きません。それでは目標に掲げたSDGsにつながらないので、今後は現地でのビジネスの持続可能性をより重視して支援をしたいと考えています。

  • 「チーミング」とは、新たなアイディアを生み、その答えを探し、問題を解決するために、絶えずチームワークを模索して人々を団結させる動的な活動のことを指す。ハーバード・ビジネス・スクールのエイミー・C・エドモンドソン教授が提唱。

※本記事内における参加者の所属、役職はインタビュー当時のものです。

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株式会社野村総合研究所
コーポレートコミュニケーション部
E-mail: kouhou@nri.co.jp

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