2021/08/12
「インフラシステム海外展開戦略2025」(新戦略)で打ち出した目標の実現に向けて、野村総合研究所(NRI)では企業、業界、社会の観点で5つの戦い方があると考えています。そのために、どのような官民連携が可能であるかについて、内閣官房の阿部一郎参事官、NRIの又木毅正、佐竹繁春、安本祐治、川手魁が議論しました。
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3レイヤーでの5つの戦い方
――日本がインフラ輸出を加速させるために、NRIではどのような政策提言をしていますか。
又木 NRIではこれまで、デジタルトランスフォーメーション(DX)の進展について、各社が業務を効率化するDX1.0、業界全体のビジネスモデルを変革するDX 2.0.社会のパラダイム変革するDX 3.0という整理をしてきました。インフラの海外展開もそれと同じように、企業、業界、社会という3つのレイヤーから見て、大きく5つの戦い方があると考えています。①研究開発力・コスト競争力の強化、②ものづくり・保守の匠ノウハウの形式知化、③セグメンテッド・プラットフォームの構築、④社会課題解決起点の事業構想力・実現力の強化、⑤業界・国籍横断の企業連合による事業投資・継続的関与、です。
阿部 最初の企業や業界での研究開発力・コスト競争力については、私たちも現地化して価格競争力を高めること、次世代技術も含めて日本のコア技術を育てることの2つが大事だと考えています。コスト競争力は民間で取り組むところが大きいので、政府側でできるのは、現地化の際にパートナー探しやマッチングなどの支援かもしれません。他方、研究開発力では内外一体化で、エネルギー、環境、量子コンピュータなど国内のイノベーション戦略にも取り組んでいきたいと思っています。 社会課題のレイヤーは、開かれたインド太平洋やカーボンニュートラルなど政策的な要請と、企業のビジネスが重なる領域です。日本らしい脱炭素の貢献方法、サプライチェーン構築などを官民で進めていけると思います。
官民連携の新たな可能性
――官民連携が進化していく可能性はありますか。
川手 スマートシティにおいて、社会課題を起点に研究開発・実装を進める「リビングラボ」の概念が官民連携の好例と考えています。国籍横断で、産・官・学・民が一体となって社会課題を特定し、解決策を考え、アジャイルに実装する場が各地で生まれつつあります。立ち上げ時の初期投資や企業誘致は民間企業の独力では難しい側面もあるため、日本政府や現地政府にもご支援いただいて場を作り上げ、最終的にはベンチャー出資のリターンで収益化するなど、民間中心の運営サイクルに移行していく形も考えられます。
佐竹 研究開発力やコスト競争力を高める施策として、金融、物流、医療、防災など重要なインフラ関連のDXビジネスに関しては、委託や補助をより柔軟に行ってほしいとのニーズが企業側にあります。現状の委託や研究開発案件の評価・採択は年1~2回。デジタル企業は小規模で、事業構想から実証、実装までのサイクルも短く、既存の補助制度、委託制度に間尺が合わなかったりします。たとえば、通年で応募可能にして、小さい金額を頻度高く出せる仕組みなどを整備できると良いのではないでしょうか。
阿部 政府側でも事業可能性実施調査のアジャイルな運用ができないかとかを検討しています。税金を使うので、成果をどう評価するかなど、詰めなければならないところはありますが、そうしたニーズに答えていくことは大事な点ですね。
単なる輸出から価値の共創へ
――従来のインフラ輸出は、オールジャパンで高速鉄道や発電所を売り込むイメージがありましたが、新しいテクノロジーなどは海外で先に実績をつくるなど、新しい輸出形態も考えられるのでしょうか。
安本 おそらく日本企業が関わるとしても、今後の開発場所は日本にこだわる必要はなく、分野やテーマに応じて選ぶ要素になると考えています。たとえばエネルギー分野であれば、風向や日射量など地形的に適した場所で開発したうえで、新興国に輸出したり、日本に環流させることもありえます。
阿部 新興国も進化しているので、日本で開発して世界で売り込むだけではなく、今後は現地で一緒にイノベーションをつくることも重要になっていくと思います。 私たちはこれまで、製造業を中心にASEANに進出して工場をつくり、現地の人事育成、産業育成などにより進出先の国から感謝され、日本も競争力を高めるモデルで成長してきました。インフラの世界でも製造業と同じように、現地のニーズに応えながら、現地に根付いて相手国と一緒に成長するモデルで、国同士の信頼関係をつくる方向になっていけばいいと思います。
又木 相手の国や都市のニーズを捉えたり、日本としての強みをつくるところは、一民間企業では対応しきれません。今後10~20年を見据えてどこに力点を置くか、官民で対話しながら、ともに推進していきたいと考えています。
※本記事内における参加者の所属、役職はインタビュー当時のものです。
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