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加速する脱炭素社会実現がもたらすもの

執行役員 コンサルティング事業本部 副本部長 森沢 伊智郎

CSV/CSR

サステナビリティ

2021/08/23

脱炭素社会の実現がもたらすもの

2015年のパリ協定の採択を契機として、脱炭素社会実現への取り組みが世界規模で活発化している。一方日本では、民間レベルではTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)により推奨された情報の開示、SBTやRI100への加盟などに取り組む企業が増加しているものの、市場を意識した個社ごとの取り組みの域を出なかったのも事実である。
2020年10月に菅首相が行った所信表明演説がこの流れを大きく変えた。2050年までに温室効果ガスの排出をゼロにすることを宣言し、温室効果ガスの削減について初めて明確な期限を示した。脱炭素社会の実現は、地球規模の社会課題を解決する重要な取り組みであると同時に、個別企業にはさまざまな課題解決を突き付ける。まるで、今までサボっていた宿題をいきなり明日提出しろと言われているに等しい状況が発生している。
国レベルでも、エネルギー構造の転換などの課題が山積している。脱炭素社会実現に明確な期限が示されたとたんに、既存の産業構造を大きく超えた範囲で社会システムの再構築とも呼べる大規模な変革が、大規模な投資を巻き込みながら同時進行を始める。あらゆる企業が新たな事業機会と構造的脅威にさらされることになるのである。

顕在化する企業活動への影響

金融の領域では他産業に先駆けて大きな変化が始まっている。ESG投資の活発化により、脱炭素に関する情報開示が市場からの信頼につながり、企業価値(株価)と直接結びつき始めている。また、融資や保険など金融サービスの審査にもその情報が活用され始めており、十分な取り組みや情報開示がなされていない企業は金融サービスの利用に支障をきたす可能性も指摘されている。脱炭素への取り組みは、ビジネス継続の最低条件になりつつある。
その他の産業においてもさまざまな影響が出始めている。化石燃料供給に関連する産業や、EV化によって不要になる自動車部品関連産業などは既存のビジネスの継続が危機に瀕している。その一方で、大転換に伴う活発な投資は多くの事業機会を創出しており、排出量の計測、削減、吸収、サプライチェーンの上流から下流までの再構築、排出権取引、エネルギー供給などの領域では、さまざまな新規事業が生まれている。
また、ユニリーバやフィリップスなどでは、脱炭素への取り組みが自社商品の売り上げ拡大につながる事例も出始めている。さらには、ミレニアル世代以降の就職先選定や購買行動において、企業の脱炭素への取り組みを強く意識するという調査結果も報告されている。これまで企業価値向上(IR)には効くが、トップラインには効かないコストとされてきた脱炭素への取り組みが、ついにトップラインにも影響を与えるCSV戦略として機能する環境が整ってきた。

国際的脱炭素経済競争による不可逆性

国際社会での脱炭素(気候変動)の議論は、1992年の「気候変動に関する国際連合枠組条約」に始まり、2020年以降の目標を定めたパリ協定の採択まで約20年以上の時間を費やしている。この間、先行する各国は、脱炭素への取り組みを自国や地域産業の育成と競争力向上につなげる準備を着々と進めてきている。
欧州では2019年12月に発表された「欧州グリーンディール」において、2050年までにEU域内の温室効果ガス排出をゼロにする目標を掲げ世界の取り組みをリードする一方で、炭素税、LCA(Life Cycle Assessment)、リサイクル規制といった分野での新たな国際競争ルールの構築を目指している。
中国も、2020年9 月の国連総会で習近平国家主席が2060年までのカーボンニュートラルの実現などを表明する一方で、新エネルギー車振興政策、再生可能エネルギーへの積極投資を進めている。
トランプ前大統領のパリ協定離脱で出遅れ感がある米国も、バイデン大統領就任により、パリ協定への復帰と脱炭素社会の実現に向けての本格的取り組みが始まった。GAFAMに代表されるデジタル時代の先進企業を中心に民間レベルでの取り組みが先行する形で進んでおり、急激な巻き返しに転じる可能性が高い。
米国が主導して約40カ国が参加した気候変動サミットの中でも、参加国から削減目標の引き上げが相次いで発表された。国家戦略と脱炭素社会の実現が強く結びつき、不可逆的でさらなる加速すら想定される環境が生まれている。

経営者に求められる覚悟

脱炭素への取り組みは、企業にとって大きな機会と危機をもたらす。そしてその変化は急激である。このような誰もが迷う局面においては、企業の存在意義を再認識し、進むべき道を明確なメッセージとして発信していく、経営者の覚悟とリーダーシップがあらためて求められる。

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特集:2050年カーボンニュートラルのインパクト

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