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サステナブル・ファイナンスとデジタル通貨に関するNRIの取り組み

金融デジタルビジネスリサーチ部 井上 哲也、石川 純子

#サステナビリティ

#新型コロナ

2021/10/08

地球温暖化を抑制して持続的な経済社会を形成すること、経済活動のデジタル化を通じて利便性や成長力を強化すること、この2つはポストコロナの日本経済の最優先課題です。野村総合研究所(NRI)は、これらの課題に対しさまざまな角度から企業や政府の取り組みを支援しています。気候変動対応に必要な資金を円滑に供給するサステナブル・ファイナンスと、支払・決済を効率化し高度な金融サービスを実現するデジタル通貨をどう定着させてゆくべきか、各々のテーマに詳しい井上哲也と石川純子に聞きました。

日本経済のポストコロナの最優先課題

ここでは、日本だけでなく主要国でポストコロナの経済と金融の最優先課題であるサステナブル・ファイナンスとデジタル通貨について、「日中金融円卓会合」と「通貨と銀行の将来を考える研究会」の議論をもとに、国内外における最新動向や日本への意味合いと、政策や制度面でのNRIの活動を紹介します。
NRIは、中国のシンクタンクである「中国金融40人論壇(CF40)」と共同で、両国の経済や金融の課題を考える場として、「日中金融円卓会合」を開催してきました。
2021年6月5日にリモート開催した第12回会合では、日中両国の長期的な経済政策の柱として重要性が急速に高まりつつある「サステナブル・ファイナンス」を取り上げました。そこでは、グリーン金融に関する調査研究とその成果の政策面での実践でどのような進展があるか、金融セクターの民間事業者はどのような役割を果たしうるか、これらの面で日中両国はいかに協力すべきかについて議論しました。議論を通じて、両国はサステナブル・ファイナンスに関する共通の価値を有し、そのアプローチにも共通する有効な選択肢が存在することが確認されました。

サステナブル・ファイナンスに関する「日中金融円卓会合」での議論

中国側講師のうち、CF40メンバーであり、中国銀行間市場交易商協会副秘書長の徐忠氏は、中国でのグリーンボンド市場の良質な発展を促進する取り組みを民間の視点から説明し、国際基準と整合的なグリーンボンド市場の整備が必要であることなどを指摘しました。
同じく中国側講師であり、安信証券首席エコノミストの高善文氏は、中国政府による素材産業の効率化に向けた産業政策が二酸化炭素の排出量削減に効果的であり、結果的に中国経済の「グリーン化」と素材生産の高付加価値化や需給バランスの適正化に貢献したことを紹介しました。
一方、日本側講師のうち金融庁の岡田大氏は、金融機関における気候変動リスク管理の強化と、共通シナリオに基づく頑健な事業戦略の策定を促進することの重要性を指摘するとともに、金融機関が取引先との対話を通じ、気候変動に対応する新たなビジネスを構築し地域社会の持続可能な発展に貢献しうるよう促す役割を果たすことへの期待を示しました。
同じく日本側講師の日本銀行の清水季子氏は、中央銀行が直面する気候変動対応の課題として、データの整備やリスクの計測方法の確立を挙げるとともに、金融政策目的で保有する資産をグリーン化する場合の中央銀行のマンデートとの整合性や資源配分に関する市場中立性の確保が重要な論点であると説明しました。

金融機関における気候変動リスクのシナリオ分析を巡る動き

金融システム安定のための国際的な会議体である金融安定理事会(FSB)の下に設置された気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)は、2017年6月に、気候変動のリスクや機会についてシナリオ分析を通じて把握することが、企業戦略の立案のために有意義であると提言しました。その後に、国際機関によるシナリオの策定が進んだほか、リスク管理におけるシナリオ分析の有用性に関する理解が広がるなど、この提言は大きなインパクトを与えました。
国内の大手銀行でもシナリオ分析が導入され、2019年4月に三井住友フィナンシャルグループがシナリオ分析の結果を初めて公表した後、2020年10月には、大手3行の結果公表が出揃いました。その後も各行は、対象セクターの拡大やリスクの種類の追加などシナリオ分析の精度を上げる取り組みを続けています。
TCFDの提言は外部シナリオの活用を基本としていますが、2017年に金融監督当局や中央銀行の自主的な取り組みとして設立された気候変動リスク等に係る金融当局ネットワーク(NGFS)は、2020年に初の社会共通シナリオを公表し、翌2021年6月には初めて社会共通シナリオと整合的な各国のシナリオデータを公表しました。このシナリオは、気候変動に伴う金融リスクを金融監督当局や中央銀行が把握する際のツールとして活用されることが展望されるほか、金融機関と事業法人の双方における事業戦略の策定にも資することが期待されており、当局による金融監督と金融機関や事業法人の行動変容の双方にどのような変化をもたらすかが注目されています。

中央銀行デジタル通貨に関するNRIの取り組み

NRIは、中央銀行デジタル通貨(CBDC)の可能性とそれにともなう金融サービスの変化を展望するために、研究者や実務家を招聘して「通貨と銀行の将来を考える研究会」を2020年7月から開催してきました。その第1フェーズでは、海外の主要国における議論を参照しながら、日本の金融経済の特徴に照らしたCBDCの意義や課題を議論しました。その成果は2021年4月に「中間報告」として対外公表するとともに、5月には研究会メンバーをパネリストとするリモート版フォーラムを開催することで、政策当局や金融機関、業界団体等の専門家と幅広く共有したところです。
第1フェーズの研究会で主な論点となったのは、着実に進行する家計のキャッシュレス化や企業間取引のデジタル化に対してCBDCがどのような貢献をなしうるかという点であり、CBDCの導入後も家計や企業に対する金融サービスの提供は民間事業者に委ねられるだけに、CBDCが民間事業者のイノベーションを促進しうるような設計や枠組みの重要性が確認されました。
また、クロスボーダーの支払は、経済活動のグローバル化に伴ってニーズが拡大しているにも関わらず、コストの高さや決済に要する時間の長さなどが問題視されているほか、銀行を通じた支払ネットワークであるコルレスバンキングもコスト高などのために縮小の兆しもみられます。このため、主要国の中央銀行は国際機関を中心にクロスボーダー支払の効率化の取り組みを進めていますが、研究会ではCBDCの活用による課題の克服の可能性も取り上げられました。

支払・決済のデジタル化に向けて「ともに考える」役割を果たす

CBDCに関する議論の焦点はwhyからhowへと徐々にシフトしています。海外の主要国でも、ユーロ圏や英国、スウェーデン、中国では、技術開発と並行してCBDCの設計や枠組みに関する検討も本格化しつつあります。同時に、国際決済銀行(BIS)や各国の中央銀行による共同研究を通じて、国際標準の策定に向けた動きもみられます。CBDCの意義は支払・決済の効率化や高度化に止まらず、デジタル技術や金融サービス、さらには国際通貨自体の競争という側面を持つだけに、日本での議論も海外主要国の動向を意識することが必要です。
こうした中で日銀が2021年4月から概念実証を開始したことについても、金融機関などの民間事業者はCBDCの導入に向けた時間的イメージの明確化と捉え、CBDCの下での新たなビジネスモデルを模索する動きもみられるようになりました。
CBDCを日本のように複雑で高度に発達した金融システムに導入し、その成果を十分に発揮する上では、中央銀行と民間事業者との間での役割分担のあり方が焦点となります。なかでも、取引や利用者に関するデータの収集や還元の仕組み、CBDCの移転や登録において民間事業者が担う仲介機関の役割、CBDCと銀行預金との安定的な関係の構築などが重要です。これらの点に関して。日本の環境に即した望ましい対応案を示すべく、「通貨と銀行の将来を考える研究会」は2021年7月から第2フェーズの議論を開始しました。 こうした研究会の活動を含めて、NRIは支払・決済のデジタル化に向けた官民双方の取り組みで「ともに考える」役割を今後も果たしていきます。

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株式会社野村総合研究所
コーポレートコミュニケーション部
E-mail: kouhou@nri.co.jp

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