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NRI トップ NRI JOURNAL 木内登英の経済の潮流――「世界で進む金融政策正常化と浮上する金融リスク」

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木内登英の経済の潮流――「世界で進む金融政策正常化と浮上する金融リスク」

金融ITイノベーション事業本部  エグゼクティブ・エコノミスト  木内 登英

#木内 登英

#時事解説

2021/10/08

世界の中央銀行の間では、新型コロナウイルス問題を受けて実施した大幅な金融緩和策を、徐々に解消していく動きが広がってきました。10月6日にはニュージーランド準備銀行(中央銀行)が、7年ぶりの利上げ(政策金利引き上げ)を実施しました。8月には韓国、9月にはノルウェーの中央銀行もそれぞれ利上げを決めています。経済が回復軌道を辿っていることに加えて、物価上昇率が上振れしていることや、住宅価格が高騰していること等が背景にあります。こうした動きが先行きの金融市場に与える影響には注意が必要です。

米国金融政策の注目はテーパリングから利上げへ

FRB(米連邦準備制度理事会)は、今年11月に資産買い入れの段階的縮小、いわゆるテーパリングを開始する可能性が高いとみられます。また、ECB(欧州中央銀行)も12月にテーパリングを開始する可能性があります。特にFRBの正常化策は、世界の金融市場が注目する一大イベントです。
前回の正常化局面では、2013年5月にFRBがテーパリングの実施を示唆したことが金融市場を動揺させる、テーパータントラム(癇癪)を引き起こしました。米国への資金回帰で新興国市場が混乱し、FRBは強い批判を浴びたのです。
FRBが再びテーパリングへと向かう中、同様の事態は今のところは見られません。それは、資産買い入れ策が、かつてほどには重要な政策と考えられていないためではないかと思います。短期の政策金利を直接動かす金利政策と比べて、資産買い入れ額の調整が長期金利の変化を通じて生みだす政策効果は不確実です。
世界の金融市場に与える影響は、今回はテーパリングではなく、それに続いて実施される利上げの際により大きく出やすいでしょう。FRBは、物価上昇率の上振れは一時的現象と考え、また住宅価格の高騰を必ずしも強くは警戒していないこと等から、他の中央銀行に比べて利上げの時期は遅れそうです。
9月のFOMC(米連邦公開市場委員会)では、メンバー18人のうち半数の9人が2022年に1回以上の利上げ、2023年末までに合計で4回以上の利上げを見込みました。しかし、実際の利上げ開始の時期は、楽観的な経済見通しに支えられたこのFOMCメンバーの見通しよりも後ずれするのではないかと考えられます。不動産市場の悪化や電力不足の影響などから中国経済は減速を強め、その影響は米国経済にも及んでくるでしょう。また、エネルギーを中心とした物価の上昇やコロナ関連の経済対策の効果が剥落してくることなどが、2022年の米国の成長率を予想以上に下振れさせる可能性があります。
前回2015年12月の利上げ開始は、テーパリング開始から24か月後、テーパリング終了から14か月後のことでした。これを今回のケースに単純に当てはめると、今年11月にテーパリングが開始される場合、利上げ開始の時期はちょうど2年後の2023年11月となる計算です。
こうした点を踏まえると、2021年から2022年にかけての世界の金融市場は、まだFRBの利上げ観測にまだ大きく攪乱されず、比較的安定した状態が期待できるのではないかと思われます。

コロナ対応で膨らんだ金融市場の歪みと「利上げタントラム」

問題は、FRBの利上げが市場に強く意識され始めると予想される2023年以降です。2020年3月の金融市場の混乱、いわゆるコロナショックに対して、FRBは政策金利を一気にゼロ近傍まで下げるなど、かなり迅速な対応を見せました。これが、金融市場の混乱を比較的早期に収束することに貢献したことは確かです。
しかし、この対応は結果的に過剰なものとなり、金融市場の行き過ぎを助長したのではないかと思われます。特に、コロナショック前から割高であったCLO(ローン担保証券)、CMBS(商業用不動産担保証券)などの証券化商品、ハイイールド債、投資適格債の中で最低位のBBB格社債など、高リスク資産の価格をさらに過大に押し上げたのです。
それらは、FRBが今後利上げを進めていく中で、調整されていく可能性が高いように思います。その調整が急速に起これば、それらを多く保有するヘッジファンド、ミューチャル・ファンド、MMF(マネー・マーケット・ファンド)などのノンバンク(シャドーバンク)に大きな損失を生じさせます。そして彼らは、顧客の解約要求に応えるために様々な金融資産を投げ売りすることを余儀なくされ、市場全体に大きな混乱を引き起こしかねないのです。
市場が備えて置かねばならないのは、テーパタントラムではなく、その先にある「利上げタントラム」の方でしょう。

FRBの利上げで3つのシナリオ

FRBの利上げと金融市場との関係について、大きく3つのシナリオが考えられます。第1は、FRBが利上げを進める中で、金融市場の大きな調整が起こってしまうこと、第2は、金融市場の動揺を回避するために、FRBが着実な利上げの実施をためらい、それが金融市場の歪みをさらに増幅させて、いずれ市場が自律的に大きな調整局面を迎えること、第3は、ある程度の市場の動揺を甘受しつつ、FRBが利上げを着実に進めていく中で、時間をかけて市場の調整が進み、いわゆるガス抜きがされることで深刻な金融市場の混乱が回避されること、です。
第3が金融市場の中長期的な安定の観点からは望ましいシナリオですが、それが実現する可能性は50%以下ではないかと思います。

「デジタル人民元」発行で世界の金融市場は2023年以降波乱か

さらに、FRBが利上げを進める過程では、新興国などからの資金流出が促されやすいと考えられます。かつてのテーパタントラム以上の混乱が生じる可能性も考えられます。米国経済の影響力低下と感染問題という経済外的要因によって、米国と新興国との間の経済格差は長期化し、それが金融政策姿勢の差を通じて国際資金フローに大きな影響をもたらしやすいためです。
そして、2023年以降の世界の金融市場を占う際に見落とせないのは、2022年に見込まれる中国の中銀デジタル通貨(CBDC)・「デジタル人民元」の発行です。中国には、これを人民元国際化の起爆剤とし、米国の通貨・金融覇権に挑戦する狙いがあると推察されます。発行当初は中国国内での普及が優先されるでしょうが、2023年以降は次第に国外での利用が広まっていくとみられます。
中国のインフラ投資構想「一帯一路」参加国をベースに、将来、中国経済圏が形成されていき、その中で人民元が事実上の基軸通貨の役割を果たすようになる場合を考えてみましょう。その際には、世界の外国為替市場での人民元の構成比は、2.2%(2019年9月)から約18%へと約16%ポイント上昇する計算となります。その分ドルの利用が減れば、ドルの構成比は同じく44.2%から約28%まで低下します。ドルと人民元の構成比の差は10%ポイント程度にまで縮小し、ドルの影響力は相当に低下する計算です。
2023年以降は、FRBの利上げとデジタル人民元発行をきっかけとするドルの地位低下への懸念が重なることが予想されます。その結果、米国を起点として、世界の金融市場に波乱が起きるリスクが高まることに、今から備えておく必要があるでしょう。

木内登英の近著

デジタル人民元

決定版 デジタル人民元

世界金融の覇権を狙う中国

プロフィール

木内登英

エグゼクティブ・エコノミスト

木内 登英

経歴

1987年 野村総合研究所に入社
経済研究部・日本経済調査室に配属され、以降、エコノミストとして職歴を重ねる。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の政策委員会審議委員に就任。5年の任期の後、2017年より現職。
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株式会社野村総合研究所
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