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NRI トップ NRI JOURNAL 日本の物流業界が生き残るために 前編

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日本の物流業界が生き残るために 前編

――カーボンニュートラルを実現する究極のオープンな共同物流システムとは

産業ITイノベーション事業本部 兼 システムコンサルティング事業本部
主席研究員 藤野 直明

#DX

#運輸・物流・倉庫

#グローバル

2021/11/02

1990年代から日本の物流業界の課題解決に取り組むとともに、製造・物流・小売を含む業界横断の仕組みづくりを提言してきた野村総合研究所(NRI)の藤野直明。最近では、政府による「2020年代の総合物流施策大綱」の策定に検討メンバーとして参加し、日本がとるべき物流施策をまとめました。物流DXの推進が鍵と言われる昨今、日本の物流業界が抱える本質的な課題と将来像、そして解決のための具体策は何なのか。藤野の提言を2回に分けてお届けします。今回は、物流のイノベーションとしてのフィジカルインターネットです。

究極のオープンな共同物流システム

人手不足、激務、デジタル化の遅れなど、日本の物流業界は多くの課題に直面しており、現状をひと言で表現すると「すでに危機的な状況」にあると藤野は言います。日本の物流を持続的に機能させていくには、各社による小手先の業務改革ではなく、業界の構造的閉塞を打破する「創造的破壊と新結合」が期待されると藤野は繰り返し述べています。では、その目指すところはどのような姿なのでしょうか。 「物流の理想的な将来像は、米国ジョージア工科大学のブノア・モントルイユ教授らが提唱するフィジカルインターネットだと思います。これは簡単に言えば『究極のオープンな共同物流システム』です。私も参加した政府による『2020年代の総合物流施策大綱』でも、この考え方について紹介しています」

「標準化」が欠かせない理由

フィジカルインターネットとは、あたかも通信分野のインターネットのように、物流分野において容器サイズや企業間通信プロトコルを標準化して、物流資産効率を最大にしつつ顧客のニーズに応えモノを運ぶ仕組みです。これがなぜ日本の物流の将来像になるのでしょうか。藤野は国際海上コンテナ輸送を例に、「標準化」について説明します。
「まず容器サイズの標準化は、現在の国際海上コンテナ輸送における輸送容器の標準化を流通過程まで適用しようという考え方です。40フィートコンテナから、コンビニなどで活用されている折りたたみコンテナのサイズまで多階層で組み合わせが利くように再設計し、同時に業種横断、業種共通で、かつ国内外すべての物流に適用します」
続いて、企業間通信プロトコルを標準化について次のように話します。
「国際海上コンテナ輸送では“国際標準のEDIメッセージや各種の規約”が既に定着しています。国際物流は多様な主体から構成され、また多数の国が関わるため、非常に複雑な業務プロセスを国際的な標準化によりカバーする必要がありました。1990年に、これらをほぼカバーするメッセージの国際標準化が実現しました。いわば“ソフトなインフラ”です。企業間インターフェースの標準化は、単に物流効率化を推進するだけでなく、実は既に物流業界のビジネスモデルの変革や産業構造変化にも大きな影響を与えました」

こうした柔軟なアウトソースや多様なサービスビジネスとの連携によって、倉庫やトラックなど物流資産のシェアリングや、計画的な取引、さらに各種の国際標準を活用した柔軟でいつでも組み換え可能な提携・パートナーシップが格段に進展。この結果、物流業界の生産性は飛躍的に向上したと藤野は言います。
荷主は、通常3PL(サードパーティー・ロジスティクス)やIFF(国際フレイトフォワーダー)、NVOCC(国際一貫複合輸送業者)へ国際物流の管理を委託します。さらに3PLやIFFなどは、国際標準を活用することにより、海外のIFF企業などとの企業間連携により、きめ細かで複雑な業務の遂行が容易にできるようになりました。具体的には、複数のキャリア(船社、航空貨物輸送、トラック、鉄道他)や倉庫業者、通関事業者(カスタムブローカー)を組み合わせて緻密な輸送計画を立案し、ブッキング(船腹予約、いわゆる輸送手配)業務、さらに輸送のトラッキング(輸送の予実確認他)業務などトータルな国際物流業務サービスを高度に行っています。もちろん、現在ではコンテナ船の船会社は、自社コンテナを輸送するだけではなく、柔軟に他社のコンテナも輸送していることはご存じのとおりです。フィジカルインターネットが目指す「シームレスな物流資産のシェアリングと物流のコンソリデーション(統合・混載)」は、国際海上コンテナ輸送では既に現実なのです。

グローバル市場への円滑な展開

国際標準に基づいた企業間のインターフェースを基礎として、多数の企業間連携によるサービスビジネスが実現しているということは、同時にこれらのサービスビジネスがグローバル市場に容易に拡張できる事業であることを意味します。
「例えば、シンガポール港湾局(PSA)が設立した外部サービス会社PSAインターナショナルは、国際標準に対応した高度なコンテナターミナルのオペレーションシステムを90年代には既に構築していました。その後、民営化を経て、このターミナルオペレーションシステムを活用することし、世界16カ国、40ほどのコンテナターミナルで運用サービスを展開しています」
藤野は、こうした現在の国際海上コンテナ輸送におけるオペレーションの高度化やビジネスモデルの変化を例に、容器の標準化や通信プロトコルの標準化を推進することで、業種横断かつ国内外すべての物流に適用して「究極のオープンな共同物流システム」を実現することが、目指すべきフィジカルインターネットだと強調します。

産業の融合、創造的破壊と新結合が起きる

国際物流の例が示すように、フィジカルインターネットに向けた標準化が進むと、物流や小売などの業界領域が融合し、輸送、ロジスティクス、SCMなどの業務モデルやビジネスモデル、産業構造が自然に変わっていきます。藤野は具体的に説明します。
「現在、輸送事業者は、消費者間を基本とするドア2ドアのC2C、ECなどのB2C、主に荷主企業の倉庫間輸送であるB2B、に区分した事業をそれぞれ行っています。これらは基本的に異なる仕組みとして設計され、運用されています。また現在の物流では、商品の所有権の移転と実際の商品の移動はほぼ必ずセットになっています。しかし、フィジカルインターネットが進めば、この通念(パラダイム)は変わっていくと思います」
どういうことなのか、食品産業を例にします。これまで食品製造業は、自社工場で製造した製品を工場併設倉庫に移し、さらに全国2カ所程度のメーカー物流センター(いわゆるマザーセンター)に在庫を集約、その後全国数か所の物流センターに製品混載で輸送します。さらに卸売業の各地域の汎用センターに納品され、そこから卸は小売の専用センターにオーダーに応じ輸送します。小売りの専用センターでは、店舗別通路別棚別の単品バラピッキングを30万分の1の精度で行い各店舗へ納品されます。店舗ではネットスーパーの注文が入ると、顧客の注文に従い再度単品バラピッキングを店頭で行い消費者個人宅に届けています。

この流れがフィジカルインターネットになると、工場で製造した商品全てを一括して物流会社の倉庫に納品し、モノは動かずに所有権だけが卸や小売に移動して、店舗や消費者から注文が入ったタイミングではじめて物流センターでピッキングがなされ出荷配送されます。商品は基本物流会社の倉庫に入ったまま、最小限の移動で済むわけです。いわば物流サービスのクラウド化と言ってもよいかもしれません。
「工場と消費者との間を最適な物流でつなぎ、所有権の移転とモノの移動、つまり物流は切り離し無駄なモノの移動は行わない。こうなると製造・物流・小売までの流通や物流産業の構造が変わり、流通の役割自体も問われることになるでしょう。製造・物流・小売が融合し、創造的な破壊と新結合が生まれる。そして爆発的に進化したコンピュータパワーを活用したAIや各種最適化プログラムを駆使した多様な物流関連サービスが登場し、各種のシェアリアングサービスが拡大する。モノの流れの最適化が計画的に行われ、何よりカーボンニュートラルへ貢献できる新しい産業構造へ発展していくことになるでしょう」と、藤野は展望します。

次のページ:日本の物流業界が生き残るために(後編)

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E-mail: kouhou@nri.co.jp

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