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データサイエンティストにプログラマーの落とし穴を踏ませないために

未来創発センター長 桑津 浩太郎

#データアナリティクス

2021/11/19

データサイエンティストと、その前提であるビッグデータに注目が集まったのは2010年以降といわれる。ネットを介したデータの膨大な蓄積が、デジタル技術によって新たな視点やアプローチを生み出し、それまでの「統計解析」のイメージから、情報科学、アルゴリズムなど幅広い分野を対象として、新たに科学的、社会的に有用な知見を導き出す、現在の「データサイエンス」に姿を変えるに至った。

ますます高まるデータサイエンスの重要性

多くの大学にデータサイエンス学科やコースが新設され、マーケティング部門を中心に専門職としてのデータサイエンティストが育成、配属されることで、データを取り扱う職種として幅広い認知を得て、官公庁や企業、大学などにおいて欠くことのできない存在となっている。
また、保険の高度専門職アクチュアリーのように、これまでの業務の中にデータサイエンティストとしてのスキル・能力を強く求められるなど、既存職種に対しても影響を与えている。
デジタル技術の進展や企業のDXに加え、社会全体のDXが進展することで、販売やサプライチェーン、会員特性などの典型的な解析対象だけでなく、人の活動全般、ネットワークの利用、再生可能エネルギーなどをめぐる消費、生成、分配など、新たな社会、経済活動を支える機能階層として、データとそれに対するデータサイエンスのアプローチが重要な役割を占める。
注目すべきアプローチの一つは、スマートシティやBeyond 5Gなど、社会や産業活動そのものを大規模なデジタル空間上に投影、もしくは再現するデジタルツインによるものであり、デジタルサイエンスは、モデル化そのものから予測の高度化やモデルに対する制御など、現実社会の活動とデジタルをつなぐ機能としても新たな役割を獲得すると思われる。

日本企業におけるデータサイエンスへの認識の欠如

一方、日本の産業界を見渡すと、欧米のようにデータサイエンティストからスターが生まれ、産業界のリーダー役となったり学生が目指す職種としての高い評価を得たりしているのと比べると、十分とはいいにくい状況となっている。
データサイエンスの登場と広がりは、過去の少人数の分析、統計の専門家だけでなく、学術領域の最先端人材、業務としての分析・評価を担うミドル層、さらには裾野としての若手人材から形成される一大職種となりつつある。にもかかわらず日本企業の一部では、依然として特殊な専門家として、高度ではあるがニッチ人材の扱いと認識している例もあると感じられる。
この状態は以前から指摘されているが、プログラミング人材と同じ構図であり、中期的に日本企業の弱点の一つとなりかねない問題と考える。
データサイエンスは、学問として最先端の領域を研究する人材だけでなく、ツールや環境整備によって、企業の現場や業務に日常的に使われる、一般的なスキルとしての側面も強まっていく。むしろ、限られた人だけのものではなく、すべての人材が基本的なバックグラウンドの理解と最低限のスキルを習得することが重要になっていく。
一方、プログラマー問題と重ねて考えると、日本社会における浅薄な理系・文系の二元論「ぼくは文系だから……」「解析は理系の人の仕事……」と村社会的なあうんの呼吸、「論理的な説明」を回避しがちな風土の二つが背景にあると愚考する。少なくともプログラムについては、学校教育への取り込みが進んでいるものの、理系・文系を問わず、大学の卒業生が当然のようにプログラミングに一定の理解を有することを期待するには、まだ、相当の時間を要すると思われる。そして、このままでは、データサイエンティストも同じように少数派のまま、特別な人たちとして、祭り上げられてしまうことが懸念される。
データサイエンスは「理系の人」の特別な学問に閉じるものではなく、一般的な理解・スキルとして必要なものと位置付ける段階にある。大昔の読み書きそろばん(+英語)は、PCにおけるワード/エクセル/パワーポイントへと発展してきたが、今後はコミュニケーションスキル(遠隔、異文化、異なるチームなどを対象)、アナリティクス・データサイエンス(解析して、論理的に説明)、映像表現(文字に束縛されない表現力)が、企業の人材に求められるスキルとなってくると思われる。
コロナ禍の影響を考えても、コミュニケーションと映像表現は、理系・文系の区別なく、日本企業が自発的にスキル取得を進めていくことになると思われる。
一方、「物事の仕組みと変化を、定量的に計測して、構造を把握し、論理的に説明する」ためには、データサイエンスに関する素養・スキルが必須となるが、現状のままでは、コミュニケーションや映像表現と比較して、取り組みが遅れてしまうことが懸念される。
エクセルは理系の人だけが使う理系のツールではない。アナリティクス、ビッグデータもまた、理系のツール、特別なモノと位置付けてはならない。この手の思考停止は、日本企業の競争力にプログラマー問題のときと同じ足かせをはめることになってしまう。

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