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「コロナに打ち克つ社会」に向け、日本はどのような出口戦略をとるべきなのか

未来創発センター 制度戦略研究室長 梅屋 真一郎

#時事解説

#政策提言

#新型コロナ

2021/12/01

主要国は、新型コロナウイルス対応を「コロナウイルスとの共存」へと方針転換し、社会経済活動の正常化を進めつつあります。ワクチン接種率が諸外国に追いついた日本においても、社会全体としての出口戦略を検討する時期が来たと考えられます。
「コロナに打ち克つ社会」に向けた道筋はどうあるべきか、出口戦略を策定する上で求められるものは何か、野村総合研究所(NRI)の梅屋真一郎に聞きました。

新型コロナウイルスとの共存へと舵を切る主要国

主要国における新型コロナウイルス感染状況を見ると、デルタ株の影響による新規感染者増は続いているものの、死亡者数は抑制される傾向にあります。
ワクチン接種が先行したイスラエルでは、新規感染者の40%が接種対象外の11歳以下であり、接種対象年齢の拡大や若年層の接種増大が課題と考えられます。
また、デルタ株の強い感染力を踏まえ「コロナウイルスとの共存」に方針を転換する国・地域も非常に多くなっています。これは、厳格なロックダウンなどのコロナ対応を続けても、感染力の強いデルタ株による感染を抑制することは困難との認識によるものです。
このように「コロナウイルスとの共存」に方針を転換し、社会経済活動の正常化を進めつつあるのが主要国の現状です。

アフターコロナに向けて出口戦略の検討段階に入りつつある日本

日本のワクチン接種は急速に進み、2回目の接種を終えた人の比率はアメリカを追い越しています。これは、ワクチン接種先行国の成功要因を参考に、高効果ワクチンの見極めと確保、接種要員と場所の確保、トップの積極的な陣頭指揮など、必要な手立てを実行したことが功を奏したと言えます。
政府の見通し通りに接種が進めば、希望者全員への接種完了時点で総人口の8割が接種完了となる推定です。また、ワクチン未接種者と2回接種者では、人口当たりの新規陽性者数は約10倍の差があることが明らかになり、抗体カクテル療法の効果が高いことが確認されました。
ここに来てようやく、日本も出口戦略を見据える時期に入ったのです。

コロナと共存し、コロナに打ち克つ「コロナ・レジリエント社会」へ

コロナ対策の方針転換を行った国の多くは、首相など政府首脳レベルで、コロナの影響をコントロールしながら社会経済を正常化するという明確な意思決定を行っています。その上で、専門家や政府関係機関に具体策の検討を指示しています。
政府トップ自らが明確な意思決定を行い、目指すべきゴールを国民に約束することで、支持と理解を得ているのです。例えばシンガポールは、長期間のロックダウンや厳格な入国規制などの「ゼロ・コロナ」戦略をとり続けてきましたが、首相自らが、新たな戦略「コロナ・レジリエント社会」への転換を明確に宣言しました。
日本における出口戦略の策定においても、政治の判断で「コロナ・レジリエント社会」に変える決意を示すことが求められます。その上で、第1段階として「接種促進と医療体制整備による経済社会活動の段階的正常化」を目指し、次に「新たな流行発生でも経済社会活動を円滑に持続できる『コロナ・レジリエント社会』の実現」を出口戦略として考慮すべきです。

コロナ禍が日本の社会・経済に残した3つの深い爪痕とは

新型コロナウイルス感染症の蔓延は、日本の社会・経済に3つの深い爪痕を残しました。
1つ目の爪痕は、人手不足の一層の深刻化です。緊急事態宣言などの経済活動停止に際して非正規雇用労働者が「雇用の調整弁」として使われた結果、特に女性の雇用が失われましたが、少子高齢化に伴う日本の構造的な人手不足は解消されていません。さらに今後は、感染対策などに伴う対人サービス業の生産性低下や外国人労働者の入国が今後も制限される可能性が高いことから、より一層の人手不足が進むことになります。
2つ目は、対人サービス業を営む中小企業の債務問題です。この分野は、新型コロナウイルス感染症の影響が特に深刻であり、政府はさまざまな施策で中小企業を支えています。しかし、融資が中心であるため企業債務が大幅に増加し、債務返済困難な水準に達する例も見られます。これを放置すれば債務がさらに積み上がり、維持困難な企業の長期低迷を背景とした雇用不安が生まれます。
3つ目は、社会のデジタル化における決定的遅れの顕在化です。給付金や助成金などの支援策に係る膨大な申請に対し、オンライン手続きの不具合や、国と地方のシステムの不整合などが表面化しました。
この表面化した課題への取り組みは、「コロナに打ち克つ社会」を作る上での重要なポイントとなります。

日本の未来には、課題を逆手にとった社会変革が必要

「人手不足の深刻化」「対人サービス業を営む中小企業の債務問題」「デジタル化の遅れ」の3つの課題は複雑に絡み合いながら、長期にわたる混乱や低迷を引き起こす可能性があります。
これらの課題への対応として求められるのは、視点を変えた解決策です。
例えば、人手不足については、非正規職の雇用制度改革などを通じて、「成長戦略としての働く女性への投資」を行うことが求められます。対人サービス業の中小企業の過剰債務に対しては、事業者の退出促進、再編支援、雇用移動支援などによる産業再編の促進が必要です。そして、社会のデジタル化の決定的な遅れに対しては、税・社会保険手続のデジタル化・電子インボイスの導入や、マイナンバーや企業番号など共通IDのインフラ整備を行い、制度面からデジタル化を促進することが必要です。
アフターコロナの日本にとって、現状維持はワーストシナリオです。3つの課題の解決を通じて「変わる」ことこそ、日本の未来に必要な取り組みであると考えます。

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株式会社野村総合研究所
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E-mail: kouhou@nri.co.jp

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