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木内登英の経済の潮流――「2022年世界経済の展望 -物価高騰と金融政策の正常化に注目-」

金融ITイノベーション事業本部  エグゼクティブ・エコノミスト  木内 登英

#木内 登英

#時事解説

2021/12/10

今年11月末に突如出現した新型コロナウイルスの新たな変異型「オミクロン株」によって、来年2022年の世界経済見通しに、俄かに不透明感が高まっています。また、こうした感染問題の帰趨に大きく左右される世界的な物価高騰、米国など主要国で始まった金融政策正常化の行方が、2022年の世界経済と金融市場を方向づけることになりそうです。

物価の高騰はいつまで続くか

各国間でばらつきはありますが、多くの国では今年の春頃から、物価の高騰が目立ち始めました。日本では、消費者物価上昇率全体は依然として前年比でゼロ近傍ですが、海外での原油価格・食料価格高騰の影響で、電力料金、ガソリン価格、食料品価格などが上昇しており、国民生活を圧迫しています。幅広い分野で見られる物価の高騰は、コロナショックからようやく立ち直りつつある世界経済に強い逆風となっているのです。
物価の高騰は様々な要因が重なって生じているものですが、その底流には、新型コロナウイルス問題を受けた、個人の消費行動の大きな変化がある、と考えられます。例えば、個人は感染リスクを警戒して外食、旅行、教養娯楽サービスなど、対人接触型サービスの消費を減らしています。その一方で、巣籠り消費の傾向を強め、家で食事をとり、また家具、家電、日用品、ネットショッピングなどへの消費を増やしているのです。大きく捉えれば、サービスからモノへの消費のシフトが起こっています。
コロナ禍のもとで新たに需要が高まった業種では生産、供給が追い付かず、需給ひっ迫で価格が上昇します。製造業での生産拡大は、原材料や電力への需要を一気に高め、商品市況や原油などエネルギー関連の価格高騰をもたらしています。さらに、感染リスクへの警戒が労働者の間に根強く残る中、運転手など物流に携わる労働力の確保が難しく、人件費を上昇させています。それが物流コストを押し上げ、エネルギー関連を含めて多くの製品に価格転嫁されているのが現状でしょう。
世界経済は、新型コロナウイルス問題をきっかけに生じた個人の消費行動の変化と、それが引き起こす新たな産業構造への移行期にあります。物価高騰は、その過程で一時的に生じる、「生みの苦しみ」と言えるでしょう。
価格や賃金の上昇に促され、企業は新たに需要が増加した財・サービスの生産を拡大させ、労働者はそうした分野へと移っていくことで、需給のひっ迫傾向は徐々に解消に向かう、と予想されます。そして、資源価格の高騰、物価・賃金上昇率の上振れ傾向は徐々に薄れていき、産業構造と価格体系は新たな均衡点へと至ることでしょう。
「オミクロン株」の出現を受けて、高騰を続けてきた原油価格が一時、ピークから1バレル20ドル程度も急落しました。そこには、世界的な物価高騰のリスクを、先行き緩和する効果が期待されます。来年春頃には、物価の高騰にもやや一巡感が出てくる、とみておきたいと思います。

2022年前半の世界経済は成長ペースを落とす

OECD(経済協力開発機構)が12月初めに公表した世界経済見通しでは、2021年の世界の成長率は+5.6%と2020年の-3.4%から大きく回復し、2022年も+4.5%と比較的堅調な回復が見込まれています。
実際のところ、2022年も世界経済の持ち直し傾向は続くことが予想されますが、OECDが予想したほどには順調でない可能性も考えられます。特に年前半は成長ペースが目立って落ちることも予想されるところです。その背景の第1は、「オミクロン株」の出現によって感染リスクが再び高まり、経済活動への悪影響が強まる可能性があることです。
第2は、中国の不動産不況の影響です。不動産開発大手の恒大集団の経営危機に収束の糸口が未だ見いだせない中、住宅販売の不振や住宅価格の下落などが、業界全体に強い逆風となっています。中国経済は不動産の依存度がかなり高い経済であるため、不動産不況は経済全体の不振に繋がる可能性が高い、と見られます。
他方、今や世界のGDPの18%(国際通貨基金の推計)を占める中国経済が、不動産不況をきっかけに成長ペースを顕著に落としていけば、世界経済への悪影響も避けられないはずです。
第3は、予想外に長期化する物価高騰の悪影響です。OECDの分析によれば、米国では向こう1年間の家計のインフレ期待は+5%弱であるのに対して、賃金の上昇期待は+3%弱です。両者を合わせてみると、実質賃金が1年間で2%低下する見通しとなり、物価の高騰が個人消費にかなりの打撃となっていることが示唆されています。状況は他の国でも同様でしょう。
一方、日本の実質GDPは、2021年7-9月期に前期比年率-3.6%(2次速報値)と大きく下落しました。緊急事態宣言の解除を受けて、個人消費はその後持ち直しており、2021年10-12月期以降はプラスの成長軌道を辿ることが予想されます。
しかし、リベンジ消費と呼ばれるような強い消費の回復は起きないでしょう。感染リスクに配慮して、消費者が引き続き慎重な行動を続けることや、既にみたように物価の上振れが消費者心理の回復を妨げる面があるでしょう。消費が構造変化を起こしたことで、外食、旅行などへの支出が新型コロナウイルス問題発生前の水準までは戻らないことも、消費の回復にマイナスの影響になるとみられます。さらに、日本経済を下支えしてきた輸出が、中国経済の成長鈍化などの影響から2021年7-9月期には前期比で減少に転じており、今後もしばらくマイナス基調が続く見通しであることも、2022年の日本経済の回復を緩やかなものとするはずです。

FRBはいつ利上げに動くのか

物価の高騰などを背景に、2021年には各国中央銀行の間で、金融政策の正常化の動きが強まりました。ノルウェー、ニュージーランド、韓国、メキシコなどでは中央銀行が利上げ(政策金利引き上げ)を実施しました。
その政策が世界の金融市場に大きな影響を与えるFRB(米国連邦準備制度理事会)も、11月には資産買い入れの段階的縮小、いわゆるテーパリングを行い、正常化に着手しています。
前回の金融政策正常化の局面では、FRBがテーパリングの実施を示唆したことが金融市場を動揺させる、テーパータントラム(癇癪)が生じました。米国への資金回帰で新興国市場が混乱し、FRBは強い批判を浴びたのです。
FRBが再びテーパリングへと向かう中、同様の事態は今のところ見られていません。それは、資産買い入れ策が、かつてほど重要な政策とFRB、市場ともに考えなくなったためではないでしょうか。短期の政策金利を直接動かす金利政策と比べ、資産買い入れ額の調整が長期金利の変化を通じて生みだす政策効果は不確実です。
世界の金融市場に与える悪影響は、今回はテーパリングではなく、それに続いて実施される利上げの際により大きく出やすいでしょう。そして金融市場の動揺は、世界経済にも悪影響を与えます。
金融市場では、FRBは2022年半ばから利上げを開始し、その後は2024年末までに合計で1.5%ポイントの極めて緩やかなペースでの利上げが行われると見込まれています。既に指摘したように、2022年の春頃に物価の高騰が一巡する一方、米国経済の成長鈍化が顕著となれば、利上げ開始時期はさらに後ずれする可能性もあります。この場合、FRBの利上げは2022年の世界経済、金融市場の強い逆風とはならず、成長率も年後半に持ち直していくことが見込まれます。
しかし、物価の高騰がさらに長引く一方、インフレ懸念の高まりから長期金利が大きく上昇するなど、金融市場が動揺する場合には、FRBは金融市場の安定確保のために、景気を犠牲にしても利上げを前倒しに実施し、さらに急速なペースで利上げを進めていくことを強いられるでしょう。それは、世界経済には強い逆風となり、世界は物価高騰と景気悪化とが共存するスタグフレーションの様相を強めていく可能性も出てきます。
これはあくまでもリスクシナリオですが、そうした可能性も念頭に置いておく必要があるでしょう。

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プロフィール

木内登英

エグゼクティブ・エコノミスト

木内 登英

経歴

1987年 野村総合研究所に入社
経済研究部・日本経済調査室に配属され、以降、エコノミストとして職歴を重ねる。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の政策委員会審議委員に就任。5年の任期の後、2017年より現職。
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