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サステナブルな都市に求められるもの

研究理事 コンサルティング事業本部副本部長 神尾 文彦

#サステナビリティ

2021/12/20

菅政権が2020年10月に「2050年カーボンニュートラル宣言」を表明して以降、企業・産業界において脱炭素に向けた取り組みは広がり、加速化している。これは都市(自治体)においても例外ではない。2050年にCO2実質排出ゼロを表明している「ゼロカーボンシティ」は、宣言時には166自治体であったのが、宣言後は492自治体(21年11月30日現在)にまで急増している。

ゼロカーボン推進が進む欧州の事例

省エネ機器の導入、再生可能エネルギーの導入拡大など、これまでも地球温暖化に向けた取り組みは行われてきたが、これからはCO2排出ゼロという具体的な目標に向け、実効力のある取り組みを推進していく必要がある。その際、日本に先駆けてCO2排出ゼロの目標を掲げ、それを達成しようとしている欧州の諸都市の試みは、日本の多くの都市にとって参考になろう。
たとえば、2025年にCO2排出ゼロを目指すデンマーク・コペンハーゲン市では、削減目標のおよそ半分(115万トン/250万トン)を達成すべく、都市インフラの改造を試みている。たとえば、移動距離の75%を徒歩・自転車・公共交通機関を使ってもらうために、駐車スペースを歩行者ゾーンに変えた。また、周辺自治体と500㎞にも及ぶ「自転車高速道路」を整備し、往復移動の41%を自転車で行うことを促した。また、異なるインフラ同士の連携も行っている。発電と地域冷房・地域暖房、廃棄物焼却を組み合わせて提供するグリッド(網目状)のシステムを整備し、ある部門の排熱を別の部門の吸熱に利用し、トータルで電力・エネルギー使用量を削減している。
また、2050年までにCO2排出量を1990年比で95%削減する目標を立てているドイツのフランクフルト市では、同市に集積するデータセンターの排熱を、新規に整備される住宅団地の暖房に充当するため、官民を超えた熱連携のインフラを整備することに決めたそうだ。
このように欧州の主要都市では、道路や上下水道、電力・ガスなど、「現在の」人や企業の活動を支え、活性化するインフラ(更新)投資から、「将来の」人々の行動や企業活動を変える新規投資へと舵を切ったことが分かる。
サステナビリティを実現する上で求められるのは、都市全体を管理するという思考である。これまでは人口や企業数を増やすこと、すなわち成長の実現を念頭に置きつつ、都市で活動する市民・企業それぞれに便益をもたらす施策を展開してきた。しかしながら、CO2排出量の削減をはじめとしたサステナビリティの実現にあたっては、活動量やキャパシティを抑制・調整しなければ達成できず、市民や企業、行政個々の削減努力だけでは成し得ないものだ。そこには、個々のプレイヤーを超えた「エリア」を念頭に置いた生活者・企業・来街者などの行動をマネジメントする力が必要となる。現在、コロナ対応の医療を、公・民・個人の枠を超えた地域の医療機関全体で連携して対応する必要性が叫ばれているが、まさにその考え方が多くの都市の施策で求められることになる。
これまで、都市は人口の多さや少なさで評価されることが多かった。これは、いわばこれまでの取り組みの成果を測るものにすぎない。これからは、サステナブルな社会に向けて都市が何に挑戦しようとしているのか、どのような成果を出しているのか、都市の姿勢そのものが評価されることになるだろう。

サステナブルな都市実現のための官民連携

サステナブルな都市を実現する上で、民間セクター(企業)の役割も大きくなる。CO2削減のマネジメントは、企業と連携しながら推進していくことが必要だ。たとえば、インフラのPPP/PFI(官民連携)は、空港、上下水道、住宅といった特定個別分野が中心であったが、これからはサステナブルな都市を実現するために、インフラ全体でサービスを管理し得る組織・体制を民間(企業)と一緒に創り上げていくことが求められる。もちろん、都市活動が脱炭素にどのように貢献するのか、どのような排出源と吸収源があるのかなど、地域のデータを収集・分析・予測する力(DXのノウハウ)も期待される。
実際、民間企業の本社や基幹工場、研究開発や人材育成の拠点が集積している企業城下町と呼ばれる都市では、行政と民間企業が協力して、脱炭素化を目指した取り組みが進められつつある。今後、持続可能な都市にふさわしい官民連携のモデルが広がっていくことを期待したい。

2021年9月にデジタル庁が本格始動した。また岸田政権は、成長戦略の柱の一つとして「デジタル田園都市国家構想」を掲げ、デジタルを活かした地方都市の成長・発展に取り組むこととした。30もの都市から提案を受けていた「スーパーシティ」の選定も今後行われる。多くの都市がデジタル化に本格的に取り組むことになるが、もっともデジタル化は技術や形態といった、ある種の手段を示すネーミングである。重要なのは、都市の資源・文化・個性に応じた発展の姿を地元主導で合意し、その実践をしていくことである。 カーボンニュートラルについても、日々の活動(フロー)として対応するだけではなく、サステナビリティに対応した次なる都市の経済やインフラ(ストック)へと転換する「号令」と捉えることが重要だ。サステナビリティに関する社会課題をデジタルの力で克服し、地球環境と人類の幸せに貢献できる都市を官民共働で創っていけるか、これからの取り組みこそが注目される。

  • 公共価格などの建設、維持管理、運営などを民間の資金、経営能力および技術的能力を活用して行う手法
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