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ポストコロナの近未来像と日本企業のとるべき道筋とは――NRI未来創発フォーラム2021を開催

#DX

#新型コロナ

2021/12/23

2021年10月13日、野村総合研究所(NRI)は「NRI未来創発フォーラム2021」を開催しました。今回は「デジタルが拓くポストコロナの未来像」をテーマに、ポストコロナの近未来像とデジタル化の果たす役割、日本企業のとるべき道筋などについて提言しました。また、特別講演や特別座談会では学術および経済分野のトップリーダーを招き、持続可能な社会の実現の要請に応えながら、いかにして日本企業はポストコロナ時代の経済を主導していくのかについて考察しました。

経済成長と持続可能な社会の両立に向けた「デジタル・ファースト経営」への転換

はじめに、NRI代表取締役会長兼社長の此本臣吾が「ポストコロナの未来と日本企業の戦略」と題した基調講演を行いました。

コロナ禍で、リーマンショック時を上回るダメージを受けた世界経済。ロックダウンが厳しかった国ほどGDPの落ち込みも大きかった一方、日本国内の上場企業の業績はリーマンショック時ほど落ち込んでおらず、此本はこれを「テレワークやビジネスのオンライン化により、コロナ禍の影響を比較的うまく吸収できた企業が少なくなかったためだろう」と分析します。

ロックダウンを行っても感染者数の抑制には限界があることから、先進各国は「ゼロ・コロナ」から「ウイルスとの共存」に方針を転換しています。日本でも、コロナ再流行のリスクのある間は、物理的な対人接触が減っても経済活動が無理なく維持できる社会を構築することが必要です。

2021年7月、10代~60代の男女約19,000人を対象にNRIが行った調査によると、コロナ禍の収束後もコロナ前の生活に完全には戻らないと答えた人が大半で、その主な理由として「完全に収束するとは思えないから」「今の生活様式に慣れてしまったから」を挙げています。
一方、都道府県別のデジタル経済社会度の評価指標「DCI」(デジタル・ケイパビリティ・インデックス)を見ると、この1年で都市と地方のデジタル格差が縮まったという特徴が表れています。これは、マイナンバーカードの取得や行政オンラインサービスの利用など、コロナ禍によってデジタル公共サービスの利用頻度が地方ほど高まったことによると考えられます。

さらに日本は今、「経済の低迷」と「地球規模の社会課題への対応」という2つの課題に対応するため、大きなパラダイム転換に迫られています。

労働生産性と就業率が今後も過去10年のトレンドで推移した場合、日本のGDPは2030年代にはマイナス成長となる可能性が高く、労働投入量に依存しない経済成長モデルにシフトしなければ日本経済は低迷し続けると予測されます。此本は「日本が経済の低迷から回復するには、モノの付加価値を高めるために労働生産性を向上させる『産業資本主義』から、プラットフォーム上のデジタルサービスが商品となり、デジタルデータが価値の源泉となる『デジタル資本主義』にパラダイムシフトすることが求められている。『デジタル・ファースト』へ変換することによって、労働人口が減っても成長が持続する、新たな経済成長モデルの実現が期待できる」と強調します。

続けて此本は、「世界では、企業活動が活発になるほど企業の外側に様々な問題が引き起こされている。これを解決し、事業の業績や持続性と公共利益を両立させることが企業経営に求められている」と指摘。 世界のCo2排出量は2020年に19.2億トン減と、戦後最大の下げ幅を示しました。この内訳を調べると、分野別では運輸部門のCo2排出量が劇的に減っていました。この要因はコロナ禍による人々の行動変容と、それを支えるデジタル化の効果であると推測できます。

オンライン化と可視化というデジタルの特長を組み合わせて新サービスを作ることで、Co2削減だけでなく様々な社会課題への貢献が期待できます。例えば、MaaS(Mobility as a Service:移動のサービス化)が進展すれば、NRIの試算では2030年には日・米・欧で3億トンのCo2削減効果が期待できます。EU委員会が出しているDESI(デジタル経済社会インデックス)とSDGsの達成度の相関を見ると、デジタル化が進んだ国ほど持続可能な社会への取り組みも進んでおり、経済成長と持続可能な社会の両立にデジタル化は大きな意義を持つと言えます。

地域社会のデジタル化とサステナビリティについては、電力のクリーン化を背景に経済成長と気候変動への対応を両立させているデンマークが参考になります。デンマークのカーボンニュートラル(CN)政策は都市のスマート化が前提で、国の CN達成目標を前倒しして地方都市が独自の目標を立て、気候変動対策を進めています。日本では本年6月に「地域脱炭素ロードマップ」が発表され、CN達成への工程や具体策が示されました。 此本は「デンマークでは、CN達成が国や地域の経済成長にいかに寄与するかという成長シナリオを示して市民の納得性を高め、QOL向上を目的の最上位に置くことで市民の動機付けも高めている。日本は地域や市民のイニシアチブで取組みが誘発されることが重要だ」と、今後の政権で市民目線の施策が打たれていくことを期待し、基調講演を締めくくりました。

企業に求められる新しくポジティブなビジネスモデルの再構築を

続いて、ハーバード・ビジネス・スクール教授のレベッカ・ヘンダーソン氏による特別講演「資本主義の再構築と日本の役割」がビデオ上映されました。

「地球異常化とも言うべき気候変動や格差拡大による社会不安が世界経済全体を脅かす今、世界第3位の経済大国である日本は気候変動という現実的なリスクに加え、人口減少による人不足という社会問題にも直面している」と前置きした教授は、「日本のビジネスリーダーたちはこれらの問題に取り組む必要があるのと同時に、これは日本にとって変革のための大きなチャンスとも言える」と強調し、その理由を次のように述べました。

「今世紀初頭、日本経済は急成長を遂げてきたが、それは続かず、時価総額による世界のトップ企業100社に日本企業は1社しか入っていない。日本は、気候変動や格差による脅威を成長の原動力として、新しくポジティブなビジネスモデルを構築する理想的な立場にいる。」

そして、直面する環境問題や社会問題に対応するためには、企業のシステム変革や成長が必要であり、そのためには「①パーパスを抱く ②共有価値を創造する ③協力体制を作る ④金融の回路を見直す ⑤仕組みを創り変える」という5つのステップが必要であり、具体的な企業の動きについて「企業の存在意義は世の中に変化をもたらすことであり、まずパーパスを再び見出すことが何より重要。そして、共有価値を創造して、重要な問題を解決するビジネスモデルをデザインする。これは、リスク軽減、コスト削減、ブランド構築、新しいビジネス創出につながる。そして、企業の長期的存続のために業界全体で協力して持続可能な方法を作り出していく。さらに、投資家や消費者が企業評価をするツールとしてESGメトリクスなどを活用して、金融の回路を見直して資本市場を変革し、“自由な市場”と“優れた政府・自由な政治”とのバランスが取れた健全な社会を創る。つまり、ビジネスはグローバルな制度の再構築に貢献できると言える」と説明しました。

最後に教授は、「コロナ禍は、我々や我々のコミュニティがいかに脆弱な存在かを自覚させる機会となっている。このことは、全ての人々が繁栄しない限り、人類の長期的繁栄はないことを示している」と述べました。

グローバル・コモンズを守るために、社会と経済のシステム変換を

持続可能な社会実現の要請に応えながら、日本企業はいかにしてポストコロナ時代の経済を主導していくべきか――。特別座談会ではNRI此本が、東京大学 グローバル・コモンズ・センター ダイレクターの石井菜穂子氏、コマツ代表取締役会長で経団連副会長の大橋徹二氏を迎え、意見を交換しました。

はじめに石井氏が地球環境への負荷を伴って行われてきた経済成長のために、地球システム(グローバル・コモンズ)の安定は危険域に達していることを説明。「安定的で自主回復性のある地球システムを守るために、社会・経済システムを大転換し、人類と地球が共に持続可能な未来を築く必要がある」と訴えました。

大橋氏は、「経団連でもこれまでの成長戦略を見直し、2020年11月にサステナブルな資本主義の確立に向けて『。新成長戦略』を発表した。“。”は、一度立ち止まるということを意味する。2030年に日本や世界で実現したい未来像を5項目(1.DXを通じた新しい成長、2.働き方改革、3.地方創生、4.国際経済秩序の再構築、5.グリーン成長の実現)挙げ、個々の会社でアクションを起こそうと呼びかけている」と、産業界の動きを説明しました。

此本が「産業の発展と地球環境問題への取り組みは同じベクトルのもの」としたうえで、実際の企業経営で起こる葛藤や対立を乗り越えていくためのアドバイスを求めると、大橋氏はコマツを例に、「2030年までにCO2排出量50%削減(2010年比)を経営目標の一つとして掲げている。また、社内ではSLQDC(Safety・Law・Quality・Delivery・Cost)の順で物事を考えることが根付いており、これらをこなしながら利益を上げ、ステークホルダーにリターンを戻していくことが正しい企業活動だと思う」と、ESGと企業活動を一体に行っていくことの重要性を語りました。

最後に、石井氏は「今できる重要なことの一つは、このままの社会・経済システムでは人類社会は危機に瀕するということを明確に意識することだ。科学に基づいてトランジションを議論し、産学官が協働して日本の条件に即したパスウェイを国際的なポジショニングを考えながら策定していかなければならない」と強調。
大橋氏は、「日本の強さは、リアルなところで丁寧できちんとしたモノづくりやサービスを提供する点で、これは世界でも圧倒的に自信を持てる。一方で、デジタル化が進んだ時のバーチャルとの整合性や仕組みづくりはあまり得意ではない。環境や流通など様々な分野でリアルとバーチャルを組み合わせた取り組みがすでに行われているので、もっと世界にアピールしていくことが大切だ」と述べました。

未来創発フォーラム動画

ダイジェスト(3:51)

基調講演(1:13:04)

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株式会社野村総合研究所
コーポレートコミュニケーション部
E-mail: kouhou@nri.co.jp

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