フリーワード検索


タグ検索

  • 注目キーワード
    業種
    目的・課題
    専門家
    国・地域

NRI トップ NRI JOURNAL 木内登英の経済の潮流――「ポストコロナでは日本経済の強みが弱みに」

NRI JOURNAL

未来へのヒントが見つかるイノベーションマガジン

クラウドの潮流――進化するクラウド・サービスと変化する企業の意識

木内登英の経済の潮流――「ポストコロナでは日本経済の強みが弱みに」

金融ITイノベーション事業本部  エグゼクティブ・エコノミスト  木内 登英

#木内 登英

#時事解説

2022/01/14

エネルギー関連や食料品などの価格上昇が、消費者心理に悪影響を与え続けています。昨年秋に感染リスクが一時低下した後も、海外で見られた「リベンジ消費」と呼ばれるような強い消費の回復は、日本では起こりませんでした。その原因の一つが、この価格上昇という逆風です。しかし欧米諸国と比べた場合、日本の物価上昇はかなりマイルドです。なぜでしょうか。

消費者物価上昇率は1%超まで上昇へ

昨年11月の消費者物価指数で、コア指数(生鮮食品を除く総合)は、前年同月比+0.5%と前月の同+0.1%から一気に上昇率を高め、2020年2月以来の水準に達しました。前年同月比上昇率が前月から0.4%ポイント上昇したうち、0.3%ポイントはエネルギー価格の上昇によるものです。変動の激しい生鮮食品に加えてエネルギー関連も除くと、前年同月比+0.1%となります。
ただし、昨年4月の携帯電話の通信料の大幅下落が、消費者物価指数を前年同月比で1.5%程度押し下げており、その影響は今年4月以降剥落していきます。この分を調整した前年同月比+1%台半ば程度が、現在の日本の消費者物価上昇率の基調的なトレンドと言えるでしょう。ただしこの物価上昇率は持続的なものではなく、早晩下落していく可能性が高いと考えられます。
当面の日本の物価環境は、海外でのエネルギー関連・食料品価格の動き、そして為替動向次第ですが、今春以降の消費者物価コア指数(生鮮食品を除く総合)は、一時的に+1%を上回る可能性が高まっています。他方、日本経済の先行きの成長に自信が持てない企業は、政府からの強い働きかけにも関わらず、今年も賃上げに慎重でしょう。そうした中、購入頻度の高いエネルギー関連・食料品等の価格上昇によって、生活が圧迫されるとの懸念が消費者の間で高まりやすい状況がしばらく続きそうです。
しかしながら、欧米諸国と比べると、日本の物価上昇率は依然としてかなり低い状況です。米国の昨年12月の消費者物価(総合)は、前年同月比+7.0%と、実に39年半ぶりに7%台まで上昇しています。

他国よりも物価が落ち着いている3つの背景

コロナ禍以前、低成長、低賃金、低インフレが長期化している日本は、「日本病」を抱えた国、との認識が海外で広く持たれていました。そして、同様な現象が自国にも広がっていく、いわゆる「ジャパナイゼーション(日本化)」が、欧州諸国を中心に強く警戒されていたのです。
ところがコロナ禍を受けて、昨年からは、欧米諸国が物価高騰に悩まされる中、日本では物価の安定が概ね維持されており、俄かに、「物価の優等生」として評価を高めていったのです。
日本の物価上昇率が他国と比べてマイルドであるのは、第1に、物価上昇率のトレンドが、もともと他国と比べて低いこと、第2に、緊急事態宣言など規制措置が長引く中、他国と比べて経済の回復力が弱かったこと、が考えられます。
さらに第3にとして、日本企業の雇用・賃金政策、価格決定姿勢が慎重であることが挙げられます。米国などでは、コロナ禍による経済の悪化を受けて、企業が雇用者を一気に削減する一方、経済の持ち直しとともに再雇用を進めました。しかし、感染リスクを警戒する人々は職場に復帰することに慎重でした。また失業保険給付の上乗せ措置も人々が失業状態を続けるインセンティブを高め、さらに、より良い条件で再就職することを狙って、様子見をする人も少なくありません。
こうして深刻な人手不足が生じました。そこで企業は、賃金を大幅に引き上げて人手確保に動いたのです。そして、その高い賃金上昇が、モノやサービスの価格にも転嫁されています。

日本企業の慎重な価格設定行動が物価の安定に貢献

ところが日本では、コロナ禍による経済悪化を受けても、企業は正規社員を中心に雇用を維持する傾向が強く、そのため、飲食業などを除けば、経済が持ち直す中でも深刻な人手不足は生じていません。その結果、賃上げの動きも広がりにくいのです。
さらに、需給がひっ迫している業種でも、日本企業は価格引き上げに概して慎重です。一般に企業間の競争条件が厳しいなか、価格引き上げが売り上げ低下に繋がってしまうことを警戒するためです。このような事情から、日本では激しい価格の上昇は見られてないのです。

企業の慎重姿勢が産業構造の転換を遅らせる可能性

企業の慎重な雇用・賃金政策、価格決定姿勢がもたらす物価の安定は、現状では日本経済の「強み」として世界で認識されています。しかし、多少長い目で見れば「弱み」に転じてしまう可能性があるでしょう。
コロナ禍のもとで、人々は感染リスクを恐れて外食、旅行などを控える一方、家具、家電、住宅への支出を増やすなど、巣籠り消費の傾向を強めています。感染リスクが低下した後も、そうした消費行動は一定程度定着するでしょう。それこそが、ポストコロナの新たな産業構造を生み出す力となるのです。
ところが、そうして新たに需要が高まる分野でも、日本企業が価格の引き上げや賃上げに慎重な姿勢を続ければ、新規企業の参入による生産増加や新規雇用が進みにくくなります。そのため、消費者の需要が満たされない時期が長引いて、新たな産業構造への転換と経済の回復が、他国と比べて遅れてしまうのです。
そうした日本経済の弱点を克服するためには、企業の業態転換や労働者の転職を促す経済政策を、政府が強く推進することが求められるでしょう。

木内登英の近著

デジタル人民元

決定版 デジタル人民元

世界金融の覇権を狙う中国

プロフィール

木内登英

エグゼクティブ・エコノミスト

木内 登英

経歴

1987年 野村総合研究所に入社
経済研究部・日本経済調査室に配属され、以降、エコノミストとして職歴を重ねる。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の政策委員会審議委員に就任。5年の任期の後、2017年より現職。
  • Facebook
  • Twitter
  • LinkedIn
NRIジャーナルの更新情報はFacebookページでもお知らせしています

お問い合わせ

株式会社野村総合研究所
コーポレートコミュニケーション部
E-mail: kouhou@nri.co.jp

NRI JOURNAL新着

Keyword