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クラウドの潮流――進化するクラウド・サービスと変化する企業の意識

社会課題と向き合う

執行役員 システムコンサルティング事業本部 副本部長 郡司 浩太郎

#カーボンニュートラル

2022/01/19

この夏は、コロナ禍での東京オリンピック・パラリンピック開催という特殊な状況下で、政治・経済・社会のありようを考えさせられた。
2020年10月の臨時国会における菅首相の「2050年カーボンニュートラル宣言」を契機に、産業界を挙げてさまざまな環境・エネルギー関連対策に日常的に取り組むようになった。
ヴァリューズの調査によると、カーボンニュートラルという語句はこの1年で検索数がほぼ13倍に増加しているという。21年度の大手上場企業の中期経営計画や事業戦略の要素には、必ずSDGsやカーボン対応の論点が取り上げられていることからも分かるように、今後の成長戦略の骨格を構成するアジェンダであることは間違いない。

さまざまな社会課題の解決へ向けて

カーボンニュートラルへの対応は環境対策の側面が強調されがちだが、見方を変えれば、産業活動と金融をまたいだ新たな市場、今ない仕事を創造する動きでもあり、今後の大きなビジネス機会として認識する必要がある。
さまざまな分野で社会課題を事業の根幹に据えたベンチャービジネスが勃興しているが、インパクトの大きな課題であるほど一個人やベンチャー各社の単独の取り組みだけでは解決困難だ。今こそ、大企業の社会的責務が問われると考えている。
企業が社会課題に向き合うことを加速させるきっかけ(イネーブラ)には3つある。1つは法規制化によりルールで縛ることだ。そこに至るまでのコンセンサス形成には時間と労力を要するが、いったん決めれば実効性は非常に高い。20年7月にスタートしたプラスチック製買物袋の有料化も、今や日常的な買い物風景となった。2つ目は技術のイノベーションだ。これまで実現できなかったことが、デジタル技術のコモディティ化を通じて普及・拡大する。ドローンなどの各種計測技術やセンサー、AI解析を利用したインフラ設備メンテナンスサービスはその一例だ。3つ目は既存概念にとらわれず果敢に挑戦するプレイヤーの存在だ。インドネシアの配車サービス大手のゴジェックは、低所得者層の生活水準を高めることで時価総額400億ドルにまで成長した。
これらに共通する着想を考えてみると、日々の生活や手触りのある現場の個々の問題に対するちょっとした違和感が起点になっていることではないだろうか。普段見ている風景や絵画を逆さまに眺めてみる、日常のルートとは異なる路地を歩いてみるなど、普段とは異なる視点、ビジネスの既成概念では視野に入っていなかった対象(じゃない方)に目を向けることだ。

デジタルによる社会・企業変革

DX(デジタルトランスフォーメーション)という言葉の本質が「D:デジタル」ではなく「X:トランスフォーメーション(変革)」にあるのはいうまでもない。デジタル化は手段であり、ヒトとヒト、ヒトとモノ、モノとモノをつなぐパワーを持った舞台装置みたいなものだ。
たとえば音楽家がスタジオにこもってレコーディングするだけでなく、舞台に立ち生演奏することが、観客のリアルな反応や新鮮な気づきといった体験価値を生むことにつながる。その舞台での実践・実証により、自らの演奏スタイルも磨かれる。それでは、現在のコロナ禍のように音楽家が舞台で生演奏ができなくなったとすると、観客の体験価値は生まれず、音楽家の演奏スタイルも向上しないのであろうか。そのようなことはない。現在は、同じ空間を共有せずともネットワーク配信によって体験価値を共有できる時代になった。従来の音楽ビジネスが、楽曲を生産・販売するモデル(モノ事業)からデジタルの舞台装置を介して体験価値を共有するモデル(コト事業)に変貌しているように、さまざまな領域でデジタルの舞台装置が生まれている。
小売の現場は、あらゆる商材・サービスがEC・モバイル活用によって消費者の体験価値を具現化することが当たり前の風景となった。
生産現場における自動制御機械やロボット、センサーなどの導入は、工場内を出てサプライチェーン全体のデジタル化に向かわせている。
しかし、デジタル化の及ばない現場はまだ多く存在する。第一次産業、土木建築、インフラ、教育、公共サービスなど、その多くが日本独自の社会課題を抱えた現場だ。デジタル化の舞台装置はこうした現場にこそ有効だ。まずはこれらの現場に立つことで、顧客の顔が鮮明となり、その反応も手に取るように理解・体感できるようになる。従来の自社サービスが受容されるかどうかも、あらためて白日の下に晒される。その事実やデータを真摯に受け止め、解釈する姿勢が必要になる。さらには、その顧客データを起点に自社のビジネスプロセスを効率的に駆動するアーキテクチャも用意していくべきだ。
デジタル化の舞台装置を用意してさまざまな社会課題に取り組み、自社事業を変革していくことが、今後の持続可能な成長戦略の鍵となるだろう。野村総合研究所(NRI)では、こうした社会課題の解決を企図した取り組みをDX3.0と概念定義している。当社自身も現場に立って、デジタル化の先にある社会を実現していきたい。

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株式会社野村総合研究所
コーポレートコミュニケーション部
E-mail: kouhou@nri.co.jp

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