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ポストコロナの新しい働き方

執行役員 人事部長 柳澤 花芽

#新型コロナ

2022/02/21

想定外のコロナ禍に見舞われたことで、日本人の働き方は大きく変わった。1980年代から30年以上、遅々として浸透しなかったテレワークは1 年足らずで首都圏・大企業を中心に一気に普及した。
その結果、個々人にとっては感染リスクの低減のほか、通勤の体力的な負担が減り、通勤時間を有効に活用できるようになった。また、個人の作業に集中できることで、生産性が上がったり、ワークライフバランスが向上したりするなどの良い面が多くの人に実感されていることだろう。

テレワークにまつわる懸念

一方で、急激な変化が起きた結果、企業も個人もこれまでになかったさまざまな問題や不安を抱えている。とりわけ、職場内でのちょっとした質問や雑談といったコミュニケーションが大幅に減少しており、そのことによって、ミスの発見が遅れたり、業務の生産性を下げたりするケースもある。
また、多くの学術研究では、新しい発想やアイデアは雑談などのインフォーマルコミュニケーションから生まれるとの報告もあり、個々人の役割分担や内容が決まった業務を遂行するには向いているテレワークも、複数人が協働して新しいものを生み出すにはまだ多くの障害がありそうである。
さらに、特に新しく組織に加わった人を中心に、上司や部下、同僚との人間関係の構築が難しいという問題もある。同様に、長年同じ組織にいる者同士でも、テレワークが常態化し、対面で会うことが少なくなることの影響が大きい。
コロナ禍前の時期ではあるが、野村総合研究所(NRI)の社内で実施した調査によれば、上司による声かけをよく行っている組織ほど、社員の組織や職場に対する満足度が高くなることが分かっている。興味深いのは、同じファシリティを使っている組織でも、声かけの多い組織の方がそのファシリティに対する満足度も高くなる傾向が見られたことである。
また、オンラインコミュニケーションは対面コミュニケーションに比べて、表情や視線、ジェスチャーなど多くの情報が欠落することも知られている。よく「空気を読む」というが、オンラインだとこの「空気」がなかなか伝わらないのである。
このようなテレワーク環境の中で、業務上必要な連絡しかしない、オンライン会議はアイスブレイクもなくいきなり本題に入り、終わればすぐスイッチオフということが続くと、最初は一見問題がないような組織であっても、徐々にエンゲージメントが低下し、やがて大きな問題として顕在化する懸念もある。

テレワークの進展において求められること

では、こうした懸念を解消するために、以前のような対面中心の働き方に戻るのかと言えば、そうではない。NRIが2021年7 月に実施した「日本人の日常生活に関する調査」によれば、コロナ禍の収束後に自分の生活全体は「コロナ禍と同じ生活を送り続ける」もしくは「ある程度はコロナ禍前の生活に戻るが完全には戻らない」と回答した人が合わせて75%にも及んでいる。そして、その理由として、「完全に収束するとは思えないから」が41%で最も多く、次に多い回答は「今の生活様式に慣れてしまったから」の18%であった。これは働き方においてもそうであろう。
最近のビジネス誌などの記事で、テレワークを全国(全世界)どこでも無制限に実施できる「勤務地制限緩和」などを導入する事例が頻繁に載るようになった。
こうした緩和策は先に述べたように、社員にとってはワークライフバランスの面で多くのメリットがあるだろう。育児のみならず、たとえば介護が必要になった親のために、転職することなく実家の近くに引っ越して介護と仕事を両立させることも可能になるだろう。企業側にとっても、さまざまな事情を抱える社員を退職させずに済むだけでなく、地方や海外の優秀な人材を獲得することへの期待も膨らむ。
しかし、こうした取り組みを進める上で企業側は、①出社せざるを得ない社員としなくても済む社員との不公平感を是正する取り組み、②新入社員など組織に溶け込むためにも育成をする上でも密なコミュニケーションを必要とする社員に対する取り組み、③コミュニケーションの質量が不足することによる創造性の欠如・エンゲージメント低下に陥らないようにするための対策、が必須となる。
併せて、社員側にも変わることが求められているのではないだろうか。日本人は、一般的に欧米人と比較して会話の際の表情やジェスチャーが乏しいといわれる。技術が進歩し、オンラインでも「空気」が伝えられるようになるまで、より表情豊かに会話できるようになっていかなくてはならない。
コロナ禍は、日本人の就労に対する意識、会社に対する意識を大きく変えた。しかし、それが、単なる自分本位な考え方に陥ってしまうのではなく、自分が属する組織の一体感やそこで働く人々の成長ややりがいを考え、ともに働く仲間への思いやりや配慮を伴う方向に進化していくことを期待したい。

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株式会社野村総合研究所
コーポレートコミュニケーション部
E-mail: kouhou@nri.co.jp

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