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NRI トップ NRI JOURNAL 「ITの地産地消」による地方経済の活性化

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「ITの地産地消」による地方経済の活性化

代表取締役会長兼社長 此本 臣吾

#DX

#新型コロナ

2022/03/22

今回のコロナ禍は未曽有の禍(わざわい)ではあったが、個人や企業のデジタル化が急速に進展するきっかけとなった。テレワークの導入は従業員のワークライフバランスを向上させるとともに、通勤や出張などの移動がなくなるという点で生産性向上につながった。一方、企業は人々の行動変容に対応するためにビジネスのオンライン化を余儀なくされたものの、今までリーチできなかった顧客との接点ができ、EC(電子商取引)によってロングテールの商品も売れるようになった。さらに、初めからリアルな仕組みを持たないオンラインネイティブなスタートアップ企業も数多く出現した。

進展する社会のデジタル化とサステナブルな経済活性化への貢献

社会のデジタル化もこの1 年で着実に前進している。地域のデジタル化度合いを計測する野村総合研究所(NRI)独自の指標であるDCI(Digital Capability Index)で2020年7 月と2021年7 月を比較すると、ほとんどの都道府県でDCIのスコアが上昇した。しかも、これまでデジタル化が遅れていた地方圏ほどスコアの上昇率が高くなった。DCIはそれぞれの地域におけるインターネットのインフラとしての充実度や利用度合い、デジタル公共サービスの利用頻度などを総合化して指標にしたものであるが、この1年で見ると、とりわけ地方圏でのデジタル公共サービスの利用頻度が上がっている。このようにコロナ禍がきっかけとなって、個人や企業のみならず社会全体のデジタル化の底上げが図られたことは間違いない。
DCIの指数では、マイナンバーカードの取得状況も指標の一つとして取り上げている。筆者は繰り返し述べているが、社会のデジタル化においてはマイナンバーカードの普及が不可欠である。公的個人認証の唯一の手段であるこのカードの普及がなければ、いくら行政サービスをデジタル化してもそれらは宝の持ち腐れである。発行枚数はコロナ禍で急増し、2021年11月1 日時点では約5000万枚となった。しかし、これでもまだ不十分であり、カード取得に向けたさらなる促進策が必要だろう。
ところで、岸田政権ではデジタル化による地方創生を主たる狙いとする「デジタル田園都市国家構想」を打ち出している。地方経済の活性化においてもデジタル化は必須の条件である。
テレワークを活用すれば人々は働く場所の縛りから解放される。従来、地方が工場誘致を競ってきたが、これからはテレワークになじみやすいホワイトカラーの事業所誘致が盛んになるだろう。自然豊かな環境でリモートワークができれば、働く側への恩恵は大きい。
また、行政サービスをデジタル化すれば、サービスの質を少ない人員で維持することもできる。筆者らの研究でも、デジタル化が進む欧州ではデジタル化の進展度合いが高い国ほど国民の生活満足度が高いという結果が得られている。その背景には、行政サービスがデジタル化されているので、必要なときに行政サービスを遅滞なく受けられることが大きい。つまり、デジタル化はそこに暮らす住民の生活満足度に深くかかわってくるのである。
さらに、社会のデジタル化が進んだ国では、経済成長と温室効果ガスの削減が見事に両立されている。たとえばデンマークでは、全世帯にスマートメーターの設置が義務付けられ、エネルギー消費量が可視化されることで効率的なエネルギーマネジメントが実現されている。また、収集されたデータはオープン化され、スタートアップ企業らがそのデータを活用した省エネなどのサービスを提供できるようになっている。デンマークは、都市のデジタル化をてこにして、経済成長を持続しながら2050年には国全体としてのカーボンニュートラルを達成することを目標に掲げている。首都のコペンハーゲンでは、国に先駆けて2025年のカーボンニュートラル実現を目指している。ここでは、経済成長とカーボンニュートラルを両立させるためには、まず都市全体のデジタル化を行わなければならないという姿が見てとれる。

デジタル化で求められる地方圏でのIT人材の確保・育成

このようにデジタル化はサステナブルな経済活性化を進める上で重要な意味を持つ。ただし、地方圏でそれを実現するには、地元にIT企業が存在していることが必要である。今後、日本を挙げてのデジタル戦略が本格的に展開されれば、全国でIT人材は底をつくであろう。
大都市圏のIT人材はとても地方圏のIT化までは手が回らない。また都心の企業に開発を委託したとしても、市民目線で絶えずプログラムをアップデートしていく作業までいちいち依存しては、使いやすいシステムにはならない。
そこで求められるのが、地方圏におけるIT人材の確保と育成である。ただし、高度なスキルを持つような人材ばかりをそろえる必要はない。これからは自前でゼロからシステムを組み上げなくても、基幹の複雑なシステムはクラウド上で標準化されたシステムとして提供される。また個別のアプリケーションは、ローコードやSaaSを活用すれば熟練者でなくてもシステム開発が可能となる。産官学でファンドを組成し、地元のITスタートアップ企業を支援するなど必要な政策を講じれば「ITの地産地消」は可能である。地方の活性化はその成否にかかっている。

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