2022/04/18
私たちは当たり前のように、スマートフォンやタブレットなどのモバイル端末を使ってリモートワークをしたり、データに基づく便利なサービスを利用したりしていますが、その土台となっているのが電波による通信です。総務省は現在、電波制度改革の一環として周波数割当制度の見直しを行っています。同分野に詳しい野村総合研究所(NRI)の澤田和志と小椋恵麻に現行制度や検討中の論点について聞きました。
高周波数帯の活用では脱・横並びの動き
移動体通信や衛星通信は、商用や軍事用などさまざまな目的で利用されていますが、同じ周波数帯を使おうとすれば電波干渉が起こります。そのため各国では、移動体通信で使う周波数帯は免許制とし、規制当局が利用者や利用できる範囲を割り当てる方法を用いてきました。日本では現在、総務省が割り当て要件を決めて、希望する通信事業者の事業計画を比較審査したうえで周波数帯の免許を与えて、電波利用料を徴収する形をとっています。
従来の通信事業で主に使用されていたのは、800MHz前後の低周波数帯や1.7/2.1GHz帯です。しかし、第5世代移動通信システム「5G」が登場し、高速大容量でやりとりするために、さらに高い周波数帯が必要となっています。また、工場施設内など特定エリアのみで用いるローカル5Gなど、新たなニーズも創出されています。
こうした技術革新やニーズの変化を受けて、活用する周波数帯によって通信事業者の事業戦略が変わってくる可能性があります。というのも、低周波数帯は電波の伝わり方が安定的で遠距離まで届くので、カバー領域を広くできますが、高周波数では減衰が起こり、電波が届く距離が短く、基地局の間隔を狭める必要があるからです。「アメリカでは、業界大手のベライゾンは当初、5G対応として高周波数帯を多めに獲得し、スペックの高い設備をピンポイントでつくろうとしました。一方、Tモバイルは低周波数帯を確保し、エリアカバレッジを広げてから5Gへと展開。企業間で初動や獲得方針に違いが見られました」と、海外事例に詳しい澤田は語ります。
事業価値に応じて値付けするオークション方式が主流
電波を使った多様な事業を実現するためには、設備投資をした企業が事業利益を確保しつつ、エンドユーザーに過大な負荷がかからないようにしなければなりません。問題は、その際の適正な電波利用料はいくらなのか。当局だけではその判断が難しいため、2000年代からアメリカなど主要国で導入されてきたのがオークション方式です。これは通信事業者が自社の戦略上の価値に基づいた金額を入札する方法で、現在では日本を除くOECD加盟国すべてで導入されています。
日本は国土が狭いこともあり、総務省は基本的に限られた資源を全国にあまねく届けることを優先させる考え方をとってきました。電波法でも、獲得した周波数帯を都心部などに限定して使用することは禁じられています。しかし、2021年4月に開かれた内閣規制改革推進会議の投資等ワーキンググループで、河野太郎大臣(当時)の発言を受けて、総務省の若手チームが現行制度の問題点を提起。見直しに向けた検討会が開かれています。「今後は当局が一方的に厳しい制約を課すのではなく、事業者が柔軟に戦略を立てて市場ニーズに即した設備投資ができるように、活用の自由度も必要です」と、小椋は料金以外の検討課題を挙げます。
自由度と透明性を高めて、納得感あるプロセスへ
稀少品のオークションでは、巨額の落札価格になるイメージがあるかもしれません。しかし、価格が高騰すれば事業は成り立たないので、電波オークションは青天井にならないと小椋は考えています。「入札できるのは資本力がある事業者だけだと懸念する声もあります。ですが、仮に事業者が4社あるとして、割り当て分を10個のブロックに分けて、各社が2個確保できる状態にしたうえで、残りの2個を競わせるといった工夫が可能です」。実際に、オークション方式で先行する諸外国では、一事業者が獲得できる周波数幅を制限する、参加事業者に対して割り当てる周波数幅を十分に確保する、最低落札価格を低めに設定するなど、うまく対応しています。
各国の事例を見ると、規制当局と通信事業者が何度も議論を重ねた上で、オークションの設計に関する最終決定がなされています。一方、日本の従来方式は、要件の決定や審査などがブラックボックス化され、意見を募集しても設計変更にあまり反映されないことが問題視されてきました。「どの方式であれ、割り当ての決定には透明性が必須ですが、それだけでなく、ルール設定などプロセス部分の透明性も高めて、納得感のある設計にすることが重要です」と、澤田は指摘します。「NRIとしても、通信事業者だけでなくエンドユーザーの便益も踏まえて、業界全体をよりよくするために、総務省に提言するなど、官民の調整役として支援していきたいと思っています」。
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