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ますます重要になる人的資本経営

取締役副会長 深美 泰男

#経営

2022/06/20

企業が保有する人的資本に関して、情報開示を迫る動きがいよいよ本格化している。
2020年8 月、米国証券取引委員会(SEC)が開示義務としたことを皮切りに、21年6月に東京証券取引所もコーポレートガバナンスコードに開示項目として追加した。また22年夏までに政府が情報開示指針をつくる方針であることが報道されており、早晩、有価証券報告書への記載が義務づけられることも予想される。

人的資本開示に向けた動き

以前から海外においては、持続可能な企業の成長の原動力となる人的資本に関して、投資家などから情報開示の充実を迫る動きがあったが、国内においては、20年9 月の経済産業省による「持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会報告書」(通称「人材版伊藤レポート」)の公表が大きな契機といえよう。
同レポートによれば、「企業価値の持続的な成長を実現するため、わが国では2010年代に入ってコーポレートガバナンス改革が進められている。重要な事実は、企業価値の主要な決定因子が有形資産から無形資産に移行していることである。無形資産の中でも人的資本は経営の根幹に位置づけられるべきものである」としている。
近年、経済の主役は有形資産が生み出す財から、無形資産が生み出すサービスへと急速に転換している。この無形資産の存在感の高まりが、それを生み出す人的資本への関心の高まりとなっている。
では、人的資本とは何であろう。実は人的資本の定義は定まっていない。実在する人、人の集合、人に付随する能力・スキル、人の持つ意欲、組織に内在する集団としてのノウハウなどなど、有形であったり無形であったり、また全部であったり一部であったりする。その価値を認識・測定し、比較可能な形にして開示するのは非常に厄介であるため、現段階では国際会計基準・国際財務報告基準(IFRS)においても米国会計基準(US GAAP)においても、人的資本を資産として認識することは禁じている。
したがって、開示にあたっては、各企業が独自の工夫で財務諸表に記載されない情報を収集し取りまとめることになる。このとき、国際標準ガイドライン「ISO30414」が定めた人的資本開示の枠組みが参考になる。そこでは、「コンプライアンスと倫理」「コスト」「多様性」「リーダーシップ」「組織文化」などの11のカテゴリーからなる指標を提示している。
これまでのガバナンス改革の足取りを考えると、政府からガイドラインが提示されれば、一気に各社の開示の足並みがそろうのではないだろうか。さまざまな指標を他社比較しやすくなり、優劣が外部から分かりやすくなる。しかしながら、投資家も企業側も注意すべきは、他社と比較して見劣りしないよう満遍なく繕われた外見に意味はないということである。重要なのは企業価値の向上につながっているか、であろう。

人的資本の投資対効果の最大化に向けて

視線を長期に向ける必要がある。人的資源といわず、人的資本といっている意味を考えなければならない。資源といえば、投入量を管理し効率的に利用することが優先され、利用した結果、なくなってしまうことも想定するが、資本となれば投資すれば時間を追って価値が複利的に増大することを期待する。調達や需給の問題ではなく、いかにして財産の価値を上げるかという投資の問題として考えなければならない。
ここで扱う対象は人であり、人の集合である。人はそもそも多様な側面を持ち、気分で動く。企業と従業員は支配/被支配の関係にあるわけではないので、従業員たる人は持てる能力のどれだけをどこで発揮するか裁量が利く。一方、企業は暗黙裡に人の持つすべてが企業活動で発揮されているものと期待している。したがって、企業は現有の人手不足を検知すれば種類や数を増やす方向に行動するが、現有の人の多様性は発揮されないままとなる。
大多数の従業員は企業から常々、「君はこれだけ覚えてこれだけやっていればよい」といわれ、ごく一部の能力を発揮することしか求められていないと感じているのではないか。個人の持つ多様性は活かされないままに、企業は規模や多様性を確保するために、人の数や種類を増やすことに躍起になっている。しかし、筆者はもともと個人が持つ潜在能力を解放することの方が投資対効果が大きいのではないか、と考える。企業が従業員の多様な能力を信頼し、それが発揮できるような環境を提供する。従業員は企業を信頼し、企業に多様な付加価値を提供する。このような相互の信頼関係が投資対効果を最大化するための条件であり、人的資本への投資の基盤となる。
一個人の多面性を最大に生かす。そのための投資を優先し、不足があれば外部資源を探索する。このような投資を続ければ人的資本は増価蓄積型の資産となるのではなかろうか。これこそがソフト化、サービス化した経済環境で持続可能な成長を遂げるために必要な経営であろう。人は「材」でも「財」でもなく打ち出の小槌のような宝物である。企業は大きな「人物」をつくり上げる器になることを目指したい。

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