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良質なストックが増加する2040年の住宅市場――足元の供給制約には注視が必要

コンサルティング事業本部 アーバンイノベーションコンサルティング部 大道 亮、大西 直彌、青木 笙悟、村井 智也

#住宅・建設・不動産

2022/07/28

野村総合研究所(NRI)では毎年、日本の住宅市場に関する予測を行っています。恒例の「2022〜2040年度の新設住宅着工戸数」「2021〜2040年のリフォーム市場規模」に加え、今年度は新たに「2019〜2040年度の既存住宅(新築以外の住宅)流通量」を推計・予測しました。新設住宅着工戸数は中長期的に見てどのように推移していくのか、ウクライナ紛争やコロナ禍に伴う供給制約はどのような影響をもたらすのか、予測に当たったコンサルティング事業本部のメンバーに聞きました。

2021年度の新設住宅着工戸数の実績値は、NRI予測とほぼ一致

NRIが前回行った予測では、2021年度の新築着工戸数を85.9万戸としていましたが、実績値は86.6万戸で、差分は0.7万戸と小さなものでした。また、利用関係別では、持ち家でプラス1.1万戸、分譲住宅でマイナス0.5万戸、貸家ではプラスマイナス0と、予測と実績のずれが小さい1年でした。
新築着工戸数の予測モデルとして、NRIでは移動世帯数、平均築年数、名目GDP成長率を用いています。移動世帯数は2021年の414万世帯から2030年には384万世帯、2040年には340万世帯へと減少していく見通し。住宅ストックの平均築年数は2013年度の22年から、2030年度には29年、2040年度には33年近くに伸びる見通し。名目GDP成長率は中長期的に鈍化し、2035年度には0.1%まで落ち込む見通しです。これらを総合すると、新設住宅着工戸数は2022年度には84万戸に減少し、2023年度に87万戸と一時的に持ち直すものの、2025年度には80万戸、2030年度には70万戸、そして2040年度には49万戸まで減る見込みです。

ウクライナ紛争やコロナ禍に伴う供給制約に注視が必要

今年度は、足元のウクライナ紛争や新型コロナウイルス感染拡大の影響等によって供給制約が発生したら、新設住宅着工件数にどのようなインパクトをもたらすだろうかという観点から、新たな分析結果を追加しました。方法としては、昨年度のウッドショックが持ち家の着工戸数に与えた影響をベンチマークする形で推計を行いました。
ウッドショックによる持ち家着工戸数の押し下げと同程度の影響が、持ち家だけでなく分譲・貸家にも及ぶと仮定すると、新設住宅着工戸数は2022年度に80万戸、2023年度には79万戸と、大きく減少する恐れがあります。住宅市場への供給制約は、木材だけでなく主要な建材や住宅設備の不足や価格高騰を招くと考えれば、持ち家だけでなく分譲住宅や貸家など全利用関係に影響が出ると予測できます。そのため、今後の情勢を注視する必要があります。

年間7~8兆円台で微増ないし横ばい傾向が続くリフォーム市場

リフォーム市場の市場規模に大きく影響を与えるのは、6〜8年前の新築住宅着工戸数の平均、平均築年数、名目GDP成長率の3点です。
リフォーム市場規模は、2040年にかけて年間7~8兆円台で微増ないし横ばい傾向が続くと予測されます。「住宅着工統計上『新設住宅』に計上される増築・改築工事」および「設備等の修繕維持費」に限定した狭義のリフォーム市場は、それより1兆円前後少ない規模と見込まれます。

既存住宅を購入する比率が増加し軸足は「新築もストックも」へと

今年度は新たに、既存住宅流通量についても予測を行いました。この予測には、「世帯数」と「持ち家率の変化」「既存住宅を購入する比率」に関する外部データと、NRIの独自調査から「住宅を購入する全世帯のうち初めて住宅を購入する比率」を利用しました。
世帯数は2023年をピークに減少に転じ、2040年には約5000万世帯となる見通しです。初めて住宅を購入する世帯数は、2036~2040年の5年間累積で約259万世帯(年平均52万世帯)となる見通しです。
新築以外の既存住宅を購入する世帯の比率は、1994年の13%から2018年には22%と上昇しました。この上昇傾向が2019年以降も続くと仮定すると、既存住宅流通量は2018年の16万戸から2030年には19万戸、2040年には20万戸と約33%まで上昇する見込みで、ストック市場の重要性が増すと考えられます。

ますます重要性が増す良質な住宅ストックの活用

住宅市場はかねて、良質な住宅ストックが増加する一方で、新設住宅着工戸数が減少する構造にありました。こうした状況に対応するために、住宅業界は官民を挙げて「新築重視」から「新築もストックも重視」する体制への移行を進めてきました。こうした取り組みもあって、既存住宅流通量やリフォーム市場規模は増加の見通しです。ただし現状の延長線上では、この増加幅は新設住宅着工戸数の減少分をカバーしきれるほどの力強さにはならない状況が見えてきました。
良質な住宅ストックがあり、かつそれが余っているという状態は、最適化された状況と言えないため、良質な住宅ストックの活用は、SDGsの観点からも重要性を増すと思われます。ライフスタイルの変化に応じて住み替えやすい、リフォームしやすい環境作りを継続しながら、住宅マーケットだけに閉じることなく、非住宅への転用促進などの、新たな観点も取り入れた創意工夫が必要な段階に来ていると言えます。

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株式会社野村総合研究所
コーポレートコミュニケーション部
E-mail: kouhou@nri.co.jp

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