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知の挑戦と継承 Part2――時代の転換期に求められるシンクタンクとしての役割

専務執行役員 立松 博史
未来創発センター長・研究理事 神尾 文彦

#価値共創

#経営

#政策提言

2022/08/31

日本初の民間シンクタンクとして1965年に設立された旧野村総合研究所(旧NRI)。野村コンピュータシステム(NCC)と合併して1988年に誕生した新生野村総合研究所(NRI)は、2001年に東証に上場します。会社が成長しビジネスが拡大する中で、シンクタンクとしての活動を続けてきました。現在、NRIではシンクタンク機能の再強化を図っています。コンサルティング事業担当の専務執行役員 立松博史と未来創発センター長・研究理事の神尾文彦が、シンクタンクとしてのNRIが目指すべき姿について語ります。

前のページ:知の挑戦と継承 Part1

問題解決能力は上がったが……

――民主党政権のマニフェストに対して、裏付けを提言すべきだったのにできなかった、というお話でした。なぜ、できなかったのでしょうか。

立松:もし、財政的な裏付けも含めてマニフェストをチェックしろ、という仕事をいただいていたら、邁進したと思います。しかし、会社全体が課題解決型のビジネススタイルに変わっていたので、シンクタンクとして課題設定能力が弱まっていたのです。
1988年に旧NRIとNCCが合併して以降、会社が成長していく中で、私たちの問題解決能力は飛躍的に高まりました。調査、コンサルティングからシステム構築まで、かなり効率的にお客さまの課題に対応できるようになったと自負はしています。しかし一方で、課題を設定する力、アジェンダの設定能力は弱くなったというのが、シンクタンクとしての旧NRIを経験している私が感じることです。そこをもう一度磨かないと、普通のコンサルティング会社、もしくはSIerになってしまうという危機感があります。

神尾:未来創発センターでは、所属するメンバーが自主的に調査研究、提言活動を行っています。しかし、あらゆる分野について自由に発表できる場があるとは必ずしも限りません。1年ごとに収益を上げて株主に還元するのは上場企業として最低限の義務ですが、もう少しビジネスのサイクルを伸ばし、社会をこう変えていくのだと、自分ごととして提案するのも重要だと思っています。利益を1年で回収できなくても、3年、5年でとらえて、我々のビジネスに結びつける。少し長めのサイクルで新しい活動ができるのであれば、その一部を未来創発センターが担うこともできると思います。

社会に迷いが生じたときに、行先を示す羅針盤

――となると、シンクタンクとしての機能を再強化するには、NRIのビジネスモデルをどのようにしていくべきなのでしょうか?

立松: NRIはここまで大きな会社になったので、このまま、利益を追求していくだけの会社になってしまってよいのか、という思いが、経営者の一人としてあります。社会での存在意義を高めて、その価値を還元するために我々ができることは、やはり世の中への提言ではないかと思います。ステイクホルダーからある程度独立した形で未来を提示する、それがNRIのパーパスだと思っています。

神尾:その意味では、極端でもよいので、社会が向かうべきいくつかの選択肢を提示すべきだと思っています。例えば、経済のグローバル化と国民生活の安全を両立するために、日本の経済・産業構造をどう再構築すべきか、などについてもいくつかの選択肢を提示していくべきだと考えています。

立松:そのような政策を議論するコミュニティを、我々がサポートしたり、動かしたりしても良いと思います。

――シンクタンク機能をより一層強めたNRIとは、どのようなイメージですか。世の中にとって、どのような存在になりたいと考えていますか。

立松:私の理想イメージは、日本の経済成長につながる公共政策のあり方を分析し、提言しているということに関して、NRIは第一人者でありたいと思っています。これから日本を復活させていく時に、日本にはNRIがあるから安心だ、と思われる存在になりたい。NRIは「未来創発」を企業理念に掲げています。「この先、どっちにいくべき?」といった迷いが社会に生じた時、方向を示していく羅針盤としての役割を果たしたいと思います。
それと、今後のことを考えると、私は一般の人たちをもっと取り込みたい。先ほども触れたように、公共政策のあり方を議論するコミュニティを我々が主体となって形成する可能性もあるでしょう。デジタルの力を使えば、そういうコミュニティ形成は容易にできるでしょう。NRIの存在感が広く一般社会に広がっていくとよいなと思います。

客観性、独立性、そしてインターディシプリナリー

――では、その理想に向けて、これから具体的に何をしていくのですか?

立松:シンクタンクの活動については、NRI内でもさまざまな人がそれぞれの考えを持っています。現在、NRIらしいシンクタンクの領域と活動を固めようと、議論を始めたところです。

神尾:目指すべき方向は、客観性、独立性、そして分野横断――インターディシプリナリーです。一つひとつの細かな分野にはそれぞれ専門家がいるし、特定の領域に強みを発揮する非営利のシンクタンクもあります。NRIは各分野を横断し俯瞰的にとらえて、何かの兆しを事例なりデータで提示しながら、ある程度選択を決断しなければならない中期的な時間軸で、道筋を照らす役割を持つべきではないかと思っています。NRIらしさでいえば、我々は設立時から経済・産業・技術の分野は扱ってきたので、それ以外の分野も掛け合わせて世の中をとらえていく。伝統的に培ってきた専門領域を、今後期待される政策分野にどう活かしていくかについて、常に考えて行動することが必要だと話をしています。

立松:未来創発センターが核になって発展させていく形が一つのオプションとしてあると思います。これまでの未来創発センターも、時代時代に応じて役割が変わってきていました。ある時期はコンサルティング部門の研究開発機能として、別の時期には情報発信や政策提言をする人たちが集まって各自の専門分野を追究していました。ですから今一度、NRIのシンクタンク機能を定義し、未来創発センターを核に再構築していく。経営のフレームの中に位置づけていく必要があると思っています。

神尾:インターディシプリナリーに向けては、専門家をうまく取り入れて横断的に発信できるような、オープンな組織が必要だと思っています。

社会貢献活動に意欲のある若い人たちの力を活かす

――組織の体制強化ということでは、シンクタンク機能を担う人材も必要になります。新しい人材をどう取り入れ、活かしていこうと考えていますか?

立松:最近の若い人たちの就社意識は随分変わってきています。なんらかの職業を通じて世の中に貢献したい、場合によっては会社とは異なるところで社会の役に立ちたい、という意識が極めて高い。私たちがシンクタンクという機能を再強化することで、社会に貢献したいという優秀な若者がもっと我々のところに集まり、それがさらにエンゲージメントを高めていく。こういうサイクルが作れるのではないかと考えています。
特にNRIのコンサルティング部門に入ってくる若者に対して、目の前のクライアントのコンサルティング活動だけではなく、日本のあるべき姿や課題設定、大所高所・長期的な視点でのものごとの考え方などを伝える機会を作っていければよいと思います。それが我々のメインビジネスであるコンサルティングにもよい影響を及ぼすでしょうし、我々が質の高い提言をすることで、日ごろのコンサルティング活動の中で、日本の経済界にインストールすることもできると思います。

神尾:私は、国の一般財団法人である「デジタル田園都市国家構想応援団」に入っています。地域からデジタルの実装を進めて変革を促そうとする団体です。ここに所属するメンバーは、大手企業よりも中小・中堅企業、ベンチャー企業の方がむしろ多いのです。若い起業家たちは、意気込みとやる気があって、目が輝いている感じがします。こうしたコミュニティをNRI主導で作り、若手起業家たちの試みに耳を傾け、我々がやっていることもオープンにして、一緒に何かを作ることもできるのではと思います。


対談者プロフィール

立松博史(コンサルティング事業担当 専務執行役員) 1987年、旧NRIに入社。地域計画研究部、地域事業コンサルティング部、産業コンサルティング部、事業戦略コンサルティング部、産業IT事業本部などを経て、現職。エネルギー産業をはじめとする公益産業、サービス業などを中心に、事業戦略、マーケティング戦略、営業改革策定に従事。

神尾文彦(未来創発センター長・研究理事) 1991年、NRIに入社。官公庁・地方自治体・公益団体などの調査・コンサルティング業務に従事。専門は都市・地域戦略、公共政策、社会インフラ戦略など。近年は地方創生、デジタルガバメントなどの領域に取り組む。内閣官房「未来技術×地方創生検討会」委員ほか、官公庁・地方自治体などの委員を多数歴任。デジタル田園都市国家構想応援団・運営理事。

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株式会社野村総合研究所
コーポレートコミュニケーション部
E-mail: kouhou@nri.co.jp

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