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NRI トップ NRI JOURNAL 知の挑戦と継承 Part3――多面化する未来型シンクタンクへ

NRI JOURNAL

未来へのヒントが見つかるイノベーションマガジン

クラウドの潮流――進化するクラウド・サービスと変化する企業の意識

知の挑戦と継承 Part3――多面化する未来型シンクタンクへ

未来創発センター センター長・研究理事 神尾 文彦
2030年研究室長 齊藤 義明
データサイエンスラボ長 塩崎 潤一
グローバル産業・経営研究室長 森 健

#価値共創

#政策提言

#イノベーション

2022/10/31

野村総合研究所(NRI)は、シンクタンクの先駆けとして、これまで、様々な調査研究、政策提言を行ってきました。
昨今、グローバルレベルにおける経済社会環境が混迷を深める中、社会・顧客がシンクタンクに求める役割も変化してきています。NRIも、時代を見越し、未来を洞察し、社会課題を提起する次世代のシンクタンクへとその役割を変化・強化していかなければなりません。今回は、NRIのシンクタンク機能を担う未来創発センターのセンター長・研究理事 神尾文彦と、同センター2030年研究室長 齊藤義明、データサイエンスラボ長 塩崎潤一、グローバル産業・経営研究室長 森健の4名によって、未来社会の実現を担うシンクタンクのあり方を議論します。

前のページ:知の挑戦と継承 Part2

これからの時代に必要なシンクタンクとは

――未来創発センターに所属する皆さんは、各領域での専門性を活かして活動されています。それぞれの経験・立場から、これからのシンクタンク像をどう捉えているかを教えてください。

◆未来を洞察する

齊藤:私は、政府に対して政策研究・提言をする機関は“狭義のシンクタンク”と認識しています。そして、こうした伝統的シンクタンクモデルが、果たして今の社会から求められているのだろうか、というのが私の問題意識の一つです。極めて個人的な見解を言わせてもらうと、伝統的シンクタンクモデルは終わっていて、これから求められるのは「未来を洞察する機能」だと考えています。かつてNRIは未来予測をしていた時代もありました。

神尾:今はNRI独自の長期の未来予測はできていません。

齊藤:日本には未来を洞察する機能が意外と少ないのです。これまでも各種研究機関や専門家による取り組みが、日本で生まれては消えています。また、未来を見通すには、国内だけでなく世界の動静と日本とを構造的に捉えることが避けられません。世界中の情報を総合化して分析する必要があるので、未来洞察は意外と難しいのです。

◆ソーシャルインパクトを与える

齊藤:もう一つ、今求められるシンクタンクの役割として、「チェンジ・エージェント」モデルというのがあると思っています。私自身が取り組んできた「100人の革新者の発掘とネットワーク化」や「地方創生のためのイノベーションプログラム」を通じて、今では全国にたくさんのイノベーティブな事例が生まれました。調査や提言ではなく、新しい方法論やプログラムを企画・実践して、社会に何らかのインパクトを与える役割もあると思います。

塩崎:齊藤さんが考えるシンクタンク機能というのは、誰を対象にしたものですか?政府なのか、企業なのか、そこを明確にしなくてはいけないと考えています。

齊藤:私は、世の中から求められるシンクタンクは、何らかのソーシャルインパクトを与えることが重要だと思っています。ソーシャルインパクトを及ぼすのに、従来のような政策研究・提言をする方法もあれば、未来を洞察するやり方もある。それらに加えて、言葉の発信だけでなくアクションを起こしてモデルケースを作る方法もあると思います。

◆誰と向き合うシンクタンクなのか

塩崎:私は、「シンクタンクは誰と向き合っているのか」という問題意識が議論として重要だと思っています。私の場合で言えば、データサイエンスはこれからの日本にとても大切で、この分野に強い人材を育てていくことが自分の役割だと思っています。だから、私は政府でも企業でもなく、広く日本人と向き合っていたい。もちろん、シンクタンクが目指す究極の目的は「日本社会のため」なのですが、そのために企業を良くする、政府を変える、人を育てる、といったように、アプローチの違いがあってよいと思います。そして私の場合、働きかける対象は日本人です。

森:私は、シンクタンクは「社会の羅針盤」だと思っています。先が見通せない今の時代に、進むべき道を示す羅針盤はとても重要です。20世紀は国家の時代であって、シンクタンクには国を動かす政策提言が求められた。そして国を支えるには企業や投資家が必要ですから、彼らのために有用な情報もシンクタンクが提供した。しかしこの序列は変わってきている。21世紀のシンクタンクは、個々の市民に対しても有益に機能しなければならなくなりました。シンクタンクは誰と向き合うべきかという問題について、これまで私は明確に意識したことはありませんでしたが、私も塩崎さんが考えるように、社会全般と向き合うべきだと思っています。さらに、私の考えはもっと広いかもしれない。むしろ海外に向けて、日本から情報発信をしたいと思っています。我々の情報発信によって、これまでにない気づきが得られた、行動を変えた、という人を世界中に増やす。そんな問題意識を持っています。

神尾:業界、企業群、あるいは市民などの社会の構成主体に対して、具体的な将来の日本の社会像を提示することが、シンクタンクの本質的な役割なのだと私は思います。

シンクタンクとしてのNRIが果たすべき役割

――未来を洞察する、ソーシャルインパクト、チェンジ・エージェント、社会の羅針盤など、幅広いシンクタンク像のお話がありました。また「シンクタンクは誰と向き合うのか」という視点から議論も進みました。これらを踏まえて、NRIはどのような役割を果たすべきなのか、お考えを聞かせてください。

◆人生の選択肢を増やす提案

塩崎:今までのNRIには、国や自治体に対する政策提言の役割が求められていた。それはそのままでよいと思いますが、私は個人に向けた提案もNRIがやるべきだし、それによる社会へのインパクトは大きくなると思います。個人への提案とは、新しい生活スタイルなど人生を幸せに過ごすための選択肢みたいなものです。例えば、早期リタイアするFIREという生き方を個人に提案することは、シンクタンクとしてやるべきだと思います。

齊藤:その考えに賛成です。日本に暮らす人たちの、人生の選択肢を増やすための多角的な情報発信ということですね。NRIにいる人たちには、日本社会に何か変化を起こしたい、インパクトを出したい、という気持ちが共通してあると思います。塩崎さんや私のように、従来の狭義のシンクタンク像からはみ出す形で活動している人たちもいます。自分が価値を出せるやり方で動いていく。それが今の未来創発センターの役割にぴたりと合うように思います。

森:シンクタンクとしてのNRIは創立当初から先見性がありました。データ活用は今でこそ当たり前ですが、NRIでは昔から「データに語らせる」ことが実践されましたし、レポートを書く時は「1センテンスに10エビデンス用意しろ」と言われました。こうした姿勢は大切にすべきです。また、それぞれの得意技や価値の出し方が異なる様々な専門家がいるのもNRIの特徴です。私はシンクタンクの定義をどんどん広げていって、色々なアプローチで世の中に何かしらのインパクト、影響力を出せたらよいと思っています。

どのような発信の仕方をするべきか

――さまざまなアプローチで世の中にインパクトを与える話が出ました。そこで重要になる情報発信の仕方について、それぞれお考えのことがあれば聞かせてください。

◆新しい概念を表す言葉を創る

塩崎:情報発信ということでは、私はNRIが「新しい言葉を創り出すべき」だと思っています。人に伝わりやすいキャッチーな表現をするという意味ではなく、世の中の潮流を見通して、新しい概念を言葉によって創り出す。その言葉には、我々が関わろうとしている分野なり方向性が感じられ、我々の思いが込められている。新しい言葉を創るということは、新たな試みへの思いから生まれてきますから。先に述べたFIREという言葉も、最初に我々が創って発信すべきだった。新しい言葉を生み出す力があれば、社会にインパクトも出せる。対象は、個人向け、社会向け、企業向けのどこでもよいと思います。こうした活動もシンクタンクの役割だし、インパクトのあるシンクタンクとして社会に位置づけられるはずです。

齊藤:情報発信に関してNRIの設立当時と今とで明らかに違うのは、今は誰もがスマホで簡単に情報を得られることでしょう。ある分野に関して情報を持っているだけでなく、キーとなる人物と強いつながりがあり非公開の裏情報も知っている、くらいのレベルでないと今では価値を出せない。こうした変化も情報発信のあり方を考える前提になりますね。

森:私は、広く一般に伝える発信も大事だし、専門家のニーズに応える発信もあってよいと思っています。すべてアクセス数で評価するような発信は避けたい。発信の仕方についても、NRIのメンバーそれぞれの得意技を生かせばよいと思います。

◆メガテーマプロジェクトの復活を

齊藤:NRIにはかつてメガテーマプロジェクトという仕組みがあり、各部署から選ばれた20~30人が半年間議論を重ねて将来展望を行い、その成果をフォーラムの場で発表したり、出版したりしていました。そして、これがNRIとしての未来予測の根幹に位置付けられていました。また、かつてNRIが執筆・編集していた『財界観測』(発行:野村證券) というクオリティペーパーは、経済界、官界、金融界において圧倒的なプレステージを誇っていました。こうした質の高い情報発信は、我々ができることだし、やるべきだと思います。メガテーマプロジェクトは、コストパフォーマンスが悪い、現場が忙しい、情報発信は個々のクライアントに向けてすべき、といった議論の中で、残念ながらストップしてしまいましたが、また復活させたらよいと思います。

塩崎:それは未来創発センターがやるべき使命でしょう。

森:私は、情報発信の価値が時間とともに高まるようでありたいと思っています。我々の情報発信を、10年後、20年後にNRIのブランド価値を高める知的資産にしていくという視点を持っていたいです。

齊藤:それぞれの専門家の知見をオムニバスに集めた論文集にはしたくない。しっかりした編集によって新しい概念を生み出す気概を持って取り組みたいです。

神尾:それぞれの分野で取り組んでいる我々の知見をうまく活かしていきたいと思っています。データや事象の解説ではなく、社会にインパクトをもたらしていくべきでしょう。どの対象に向けて発信するかを意識しつつ、社会の様々な人たちに対して、世界も含めた世の中の動きや将来像を、継続的・多面的に伝える。狭義のシンクタンクの定義にこだわらず、それぞれができることを、実際に活動しながら示していく。NRIらしいシンクタンクの未来像を、これからも未来創発センターで担っていきたいと考えています。


対談者プロフィール

神尾文彦(かみお・ふみひこ) 未来創発センター長・研究理事 1991年にNRI入社。官公庁、地方自治体、公益団体などの調査・コンサルティング業務に従事。専門は都市・地域戦略、公共政策、社会インフラ戦略など。2022年に未来創発センター長に就任。多様な領域で活動する同センターのメンバーとともに、世の中から頼られ続ける存在となるべく、NRIのシンクタンク機能の再強化を進めている。

齊藤義明(さいとう・よしあき) 未来創発センター 2030年研究室長 1988年にNRI入社。NRIアメリカのワシントン支店長、コンサルティング事業本部戦略企画部長などを経て、2014年に2030年研究室を立ち上げた。全国のビジネスイノベーターとつながる「100人の革新者の発掘とネットワーク化」と、これを生かした「地方創生のためのイノベーションプログラム」を展開。これらの経験からシンクタンクには、実践的な活動を通じて社会に影響を与えるチェンジ・エージェントとしての機能があると考えている。

塩崎潤一(しおざき・じゅんいち) 未来創発センター データサイエンスラボ長 1990年にNRI入社。マーケティング、生活者の価値観、数理分析などを専門にコンサルティングを担当。「NRI生活者1万人アンケート調査」に関わり、日本人の消費行動や生活スタイルを見続けてきた。2021年にデータサイエンスラボ長に就任。シンクタンクとは提示された課題を解決するのではなく問題を提起するものととらえ、定量的なデータの提示、時代に合った情報発信、個人に対する生き方の提案などを重視している。

森健(もり・たけし) 未来創発センター グローバル産業・経営研究室長 1995年にNRI入社。専門はデジタルエコノミー、グローバル事業環境分析。2012年から野村マネジメント・スクールにて経営戦略講座のプログラム・ディレクターを務める。2017年より「NRI未来創発フォーラム」の企画者として、NRIとしての未来像の発信を続けている。シンクタンクは社会を導く羅針盤、また日本のシンクタンクは世界に向けた情報発信をすべきと考える。

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株式会社野村総合研究所
コーポレートコミュニケーション部
E-mail: kouhou@nri.co.jp

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