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不確実性が高まる世界に緊張感をもって臨む

執行役員 資産運用ソリューション事業本部副本部長 池谷 武文

#時事解説

#資産運用会社

2022/12/19

2022年7月、安倍元総理が凶弾に倒れた。多くの方々と同様、筆者も大きな悲しみと喪失感に苛まれた一人である。
気持ちが少し落ち着いた数日後、とある評論家の言葉が胸に刺さった。「今回の事件は日本全体に蔓延る『緊張感のなさ』が招いた悲劇」という指摘である。事件後、警察の要人警護の甘さに対し、多くのマスコミから批判の声が上がった。確かに批判されてしかるべき失態ではあったが、では果たして事件前に要人警護の甘さを指摘したマスコミはあったのか。参議院選挙活動期間中だったという点に鑑みれば、選挙関係者の中から、もっと警備を強化すべきという声は出なかったのだろうか。
結果論として正論を振りかざすことは誰にでもできる。問題とすべきは、何かが起こることを前提としているはずの要人警護においてでさえ、「多分、何も起こらないだろう」という楽観的な認識があった可能性であり、取り返しのつかない事態を招いた本質的な要因は「緊張感のなさ」にあるという点である。

不確実性に満ちた世界

今回の事件しかり、ウクライナ紛争しかり、現代世界は不確実性に満ちている。今般の新型コロナウイルス感染症の感染拡大は、各国の政策や企業活動に大きな影響を及ぼしたし、振り返れば2020年1月の英国のEU離脱や2018年以降の米中貿易摩擦など、予測困難な変化が頻繁に起こるようになっている。主要な新聞における、政策をめぐる不確実性に関する用語の掲載頻度を指数化した「政策不確実性指数」の推移を見ると、2008年以降、明らかに上昇傾向にある。特に近年は、企業行動に影響を及ぼす可能性のある政策不確実性が高まる一方だ。
日本について考えてみても、あまたの不確実性に満ちている。大震災はもとより、多くの被害をもたらしている台風や豪雨など、最近の天候の危機的な変化は肌身で感じられるところである。エネルギーや食料危機は今に始まった話ではないが、ウクライナ紛争によってあらためて認識されるところとなった。地政学リスクの観点では北朝鮮や中国が大きな脅威であるし、米中対立に端を発する経済安全保障政策も企業活動に大きな影響を及ぼす可能性がある。要するに日本は不確実性に満ちており、サステナブルな企業経営という観点では、こうした不確実性への適切な対応が重要だということだ。

不確実な世界で好機をとらえるために

筆者はこれまで、銀行をお客様とするITソリューション事業に従事してきた。現在はアセットマネジメント会社や信託銀行など、資産運用関係の金融機関をお客様とするIT・サービス事業を担当している。およそ30年、日本の金融ビジネスの一端に触れてきたわけであるが、現在、そのビジネス環境は過去30年間にはなかった大きな変化の潮目にあると感じている。
日本経済は1990年代半ば以降、デフレに陥った。その後、今日に至るまで物価は低迷し、賃金も上がらない状況が続いてきた。だが、2022年4月と5月の消費者物価指数(総合)はともに前年同月比で+2.5%であり、この上昇率は、消費税率引き上げなどの特殊要因があった時期を除けば、1991年12月以来の高さである。また、IMFの2022年4月時点での世界の消費者物価上昇率(インフレ率)の見通しは前年比+7.4%となっている。本稿執筆時点では、こうした情勢に押される形で、日本でも金利上昇圧力が高まっている。もし仮に、今後日本がようやくデフレを脱却し、賃金上昇を伴うインフレ局面へと進むのであれば、これは過去およそ30年間経験することのなかった大きな変化だということである。
こうした状況になると何が起こるのか。たとえば、これまで預貯金から動くことのなかった個人の金融資産1100兆円は、かなりの額が資産運用に向かうだろう。もし仮に「貯蓄から投資へ」が短期間で進み、預貯金の10%が投資信託に向かったとしたら、公募投資信託の資産残高は2022年6 月末時点のおよそ160兆円から260兆円となり、実に1.6倍に増えるということになる。これはあまりにも極端な例だと思われるかもしれないが、起こらないとも言い切れない。
何しろ、世界は不確実性にあふれているのだから。この妄想の意味するところは、世界に満ちている不確実性は脅威ばかりではないということだ。企業経営には好機となる得る不確実性も存在するということである。
筆者が担当する資産運用関連のIT・サービスは、数多くのお客様にご利用いただくビジネス・サービス・プラットフォームである。そうしたプラットフォームの使命は、何よりもサービスを止めることなく継続することである。したがって、脅威の不確実性に対しては可能な限りの対応を行い、しっかりとお客様のビジネスを支えなければならない。また同時に、われわれのサービスがネックとなって、お客様がビジネス好機を逸することはあってはならない。そうならないためには、これから起こる変化に先回りする形で、ITやサービスを変革する必要があるだろう。取り返しのつかない事態を生まないために、また未来の大きなビジネス機会を逃さないためにも、高い緊張感をもって不確実性に臨みたいと思う。

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株式会社野村総合研究所
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E-mail: kouhou@nri.co.jp

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