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NRI トップ NRI JOURNAL デジタルの先にある日本の未来――NRI未来創発フォーラム2022 Part1

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デジタルの先にある日本の未来――NRI未来創発フォーラム2022 Part1

#DX

#政策提言

2022/12/21

2022年10月17日、野村総合研究所(NRI)は「NRI未来創発フォーラム2022」を開催しました。長引くコロナ禍の影響もあり、社会のデジタル化が急速に進展し、いま、我々の生活の隅々にデジタルトランスフォーメーション(DX)が浸透しています。そこで今回はこれまでの集大成としてデジタルが拓く未来社会像を総括して描き、デジタル化によるウェルビーイングの向上、日本企業の戦略、そして日本のとるべき方向性などを提言しました。Part1では、NRI代表取締役会長 兼 社長の此本臣吾による「デジタルの先にある日本の未来」と題した基調講演を報告します。

デジタルが拓く未来像を総括し、日本のとるべき方向性を提言

◆デジタル化が生み出す消費者余剰とウェルビーイング

日本経済の停滞やコロナ禍の中で、いま日本人の生活意識はどうなっているのか。GDP成長率は低迷を続けているにもかかわらず、世間一般から見て自分の暮らし向きが「上/中の上」と「中の中」と回答した人の比率が2021年は過去最も高くなっており、また、スマホやネットサービスを活用する人ほど生活満足度が高いという結果が、NRIが実施する「生活者1万人アンケート調査」から得られました。此本はこれを「デジタル化がもたらす 『消費者余剰』(モノやサービスに対して消費者が支払ってもよいと感じる金額から実際の価格を差し引いた金額で、いわば消費者が感じる「お得感」)の拡大が寄与しているのではないか」と分析します。
NRIによる試算では、主要SNS(LINE・Facebook・Twitter・Instagram)が日本で生み出す消費者余剰は年間約20兆円。また、有料・無料を問わずデジタルサービスが生み出す日本の消費者余剰の総額は年間263兆円(2020年時点)で、これは2020年の日本の実質GDP528兆円の5割に相当します。
つまり、2019・2020年はGDPが減少したのに対して消費者余剰が上がったため、結果としてコロナ禍でも日本人の生活満足度が向上したのです。 また、世界各国の1人あたりのGDPと生活満足度の関係を見ると、ある所得水準までは生活満足度とGDPは相関しますが、所得水準が高くなると両者の相関は弱くなります。さらに、1人あたりのGDPが高いEU各国の生活満足度は、経済社会のデジタル化レベルと相関が強くなっています。
これらのことから此本は「デジタル化の進展によって、生活満足度とGDPの相関性は低下している」と推察。そこで生活満足度へのデジタル化の影響を調査すると、デジタルサービスの利活用は生活の自由度や人間関係の満足度など生活満足度全体を押し上げる効果が見られ、それは年収500万円増に匹敵することがわかりました。

◆デジタルと働き方改革

NRIの調査では2022年8月現在、日本の就業者の12.8%がテレワークを行っており、都内の企業に絞るとその比率は52.3%となっています。テレワークの実施日数別に生活レベルの意識を聞くと、テレワークを活用する人ほど、「上/中の上」「中の中」と回答した人の比率が高く、テレワークも生活満足度の向上に寄与していることがわかります。また、「在宅勤務を選択・継続できるなら、収入が下がってもよい」かという問いには、通勤時間が長い人ほど、また20代後半~30代前半の人ほど「そう思う」「ややそう思う」と答えています。
この背景にあるのは、仕事と生活を対立軸で考える『ワークライフバランス』から、日々の生活の中に仕事を取り入れる『ワークインライフ』への就業価値観の変化だと考えられます。 此本は「テレワークで業務に支障を感じる人が3割ほどいたり、技術革新や人材育成などの面から対面を重視する経営者がいるのも事実だ。テレワークの流れを途絶えさせずに、こういった課題をテクノロジーで乗り越える道を探るべきだ」と述べました。
NRIでメタバースでの模擬会議を試行したところ、参加者からは「対面と同等以上に参加している実感を得た」「内容を深く理解できた」といった声が聞かれました。

◆増価蓄積型のデジタルサービスに最適化した経営管理モデル「North Star Metric」

ビジネスにおいては、いま、モノ売りのビジネス(新品の価値が最も高く、時間の経過とともに減価する減価償却型)はプラットフォーム上でのデジタルサービス(時間の経過とともにアップデートしながら増価する増価蓄積型)へとビジネスモデルの変革が進んでいます。
増価蓄積型のデジタルサービスに最適化した経営管理モデルに「North Star Metric(NSM)」があり、これはNorth Star(北極星)のようにシンボリックで、売上成長の先行指標となるものです。組織全体を顧客の体験価値向上のための活動に集中させるシンプルな指標というのが特徴で、例えばFacebookはNSMを「加入後10日以内に7人の友達を追加したユーザーの数」と定義しています。
そして、デジタルサービスへの変革に成功した企業の共通点として、此本は「①経営の健全な危機感、➁デジタルサービスに適合したKPI(目標達成度の評価指標)と高速PDCA、③経営のサポートと本業とのコンフリクトの回避」の3点を指摘しました。

◆デジタルを活用した危機管理および国の魅力度の向上

2022年はウクライナ紛争の発生により、危機管理におけるデジタルの有用性を強く認識した年でした。ウクライナは2019年にデジタル改革省を立ち上げ、デジタルIDアプリ「Diia」を開発、行政サービスの100%オンライン化を目指しています。Diiaは国民のIDカードとしてパスポート、運転免許証、ワクチン接種証明などに使え、人口の4割に浸透しています。此本は「自然災害の多い日本においても、スマホさえあればワンストップで行政サービスを受けられるプラットフォームの開発が、自治体レベルで整備されることが必要だ」と訴えました。

国の競争力には、積極度(輸出や海外投資による外国市場の活用度合)と魅力度(海外資本や人材などを惹きつける度合)という2つの側面があります。積極度は日本の得意とするところですが、魅力度については観光面では力を発揮しているもののビジネス面では低いと言わざるを得ません。しかし、「各国から見た『住みたい国』第1位」で日本はカナダに次いで「住みたい国」という結果が出ており、移住先として日本のポテンシャルには期待が持てます(Remitly “Where the World Wants to Work: the most popular countries for moving abroad ” 2020)。

国の魅力度向上のための施策として、此本は「日本に滞在しながら日本国外の雇用主や企業の仕事をテレワークで行う海外の人材に『デジタルノマドビザ』を発給し、日本で仕事をしてもらい、海外からの高度人財流入を促す。また、エストニアではe-Residency(電子市民制度)を使って非居住者でも法人登記ができるので、この日本版e-Residency制度を作り、海外からの直接投資を促す」と2つの案を提示し、基調講演を締めくくりました。

後編に続く

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株式会社野村総合研究所
コーポレートコミュニケーション部
E-mail: kouhou@nri.co.jp

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