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デモンストレーションで終わらない実証実験のすすめ

上士幌町役場 梶 達氏、外山 愛美氏
アーバンイノベーションコンサルティング部 稲垣 仁美、新谷 幸太郎

2023/01/10

デジタル技術を活用した実証実験が全国各地で行われています。しかし、継続的な取り組みに至る例は少なく、いつの間にか雲散するケースが多発しているようです。その背景には、単に新しい技術を使ってみたいという好奇心が先行してしまい、実証実験の目的と検証手法の作り込みが疎かになっている実態があります。実証実験を社会実装にまで持っていくためのポイントは何か。人口5千人の町で様々なデジタル施策を行い、着実に社会実装を進めている上士幌町役場の梶達氏と外山愛美氏にお越し頂き、同町でのプロジェクトに携わったNRIの稲垣仁美、新谷幸太郎を交えて、お話を伺いました。

利用者満足度を上げ、コストを下げる、福祉バスのオンデマンド化

北海道上士幌町は、大雪山国立公園の東山麓に位置する酪農や農業が盛んな町です。日本最大の公共牧場であるナイタイ高原牧場やぬかびら源泉郷などの観光資源も豊富で、毎年8月に開催されるバルーンフェスティバルでは、たくさんの熱気球が大空を彩ります。早くから取り組んだふるさと納税を足がかりに移住者や企業の誘致を進めたり、「生涯活躍のまちかみしほろ」を掲げてスマートタウン化を推進するなど、地方創生のフロントランナーとして各方面からの注目を集める町の一つです。

今回、実証実験から社会実装に至った福祉バスのオンデマンド化は、中心市街地から離れた農村部を走る定時運行バスの非効率さを解消することが目的でした。「2運行に1回は利用者ゼロと、時間帯によっては空気を運んでいるようなものでしたが、地域の人にとっては必需品でなくすわけにはいきません。オンデマンド化によって必要な時だけ走らせることができれば、住民にとって便利になるのはもちろん、走っていない時はバスを別の用途に使えるかもしれないと考えました」と、上士幌町役場デジタル推進課課長の梶氏は語ります。

オンデマンド化にあたり、バスの予約はタブレット端末から行ってもらうことにしました。福祉バスの利用者は65歳以上で、80代、90代の方が中心です。そんな方々にタブレット端末を使ってもらうことは可能だったのでしょうか? 利用者に使い方をレクチャーしたり、使い勝手に対する利用者からの要望を開発サイドに伝えたりするなど、実証実験を現場で支えた上士幌町役場ICT推進員の外山氏は、「誰も乗っていないのに走らせているのは無駄だという気持ちは、利用されている方々もお持ちでした。もったいないという思いが共有できていたことも、前向きに取り組んでいただけた理由だと思います」と、当時の状況を伝えてくださいました。

3ヶ月間の実証実験では、運行回数が前年同月比で7割減になったのに対し、利用者は2.4倍に増加。オンデマンド化によるバスのやりくりで、従来は週2日の運行(地区によっては週1日)を週3日に増やすこともできました。利用者からの評価も高く、その後の社会実装につながっています。

実験の目的を明確にして、課題を一つずつ解決することが大切

上士幌町では、福祉バスのオンデマンド化以前から、観光施設や商業施設と協業したMaaSの実証実験を行っています。実装に至らなかった取り組みも数多くありますが、そこでの苦労や失敗の経験が福祉バスのオンデマンド化の際にも活かされました。2019年から上士幌町と共同でMaaSの取り組みを進めてきたアーバンイノベーションコンサルティング部の新谷は、上士幌町の最初の印象を次のように語ります。「いろいろな町がMaaSに関心を寄せますが、新しい技術への期待と好奇心が先行し、継続してブラッシュアップされていかない事例が多くあります。それに対して、上士幌町では解決したい問題がはっきりしていて、地に足の付いた議論ができました」。

福祉バスについては、年間2千万円以上かかっているコストを減らすことと、バスの稼働率を上げるという2つの観点で対策を検討。ICTを活用するとしても、住民に受け入れてもらえるのか、必要十分な技術的裏付けはあるのか、ICTのコストはかかりすぎないのか、などの様々な指標を使い、これらの問題を解決するための構想を練っていきました。

「都市部のような人口集積地のMaaSと異なり、裏側で支える技術的な要件はあまり高くなく、予算もありません。そのため、コストを抑えて必要最小限のシステムを調達しなくてはなりませんでした。また、利用者は高齢の方ばかりなので、その方々にタブレット端末に慣れていただくこともチャレンジでした。ここは外山さんが頑張ってくださった部分ですが、プロトタイプを持って何度も高齢者のお宅に訪問して使い方をお教えしながら、スマホでは無理だけどタブレット端末なら何とかなりそうとか、ボタンのサイズがこれでは押せないとか、多くのフィードバックをいただけました。細かいところを含めて高齢者の目線で作り込めたのも、今回の成功の大きな要因だったと思います」。実証実験から実装まで上士幌町と伴走してきた稲垣はそのように話します。

社会課題の解決につなげるための実証実験

オンデマンド化した福祉バスは、今後は一般市民が乗り合いできるように有償化し、高齢者には無料パスを配布する仕組みに変更する予定です。また、将来的にはそれを自動運転に置き換えていくため、今年度は国交省事業の採択を受けて、完全無人で運行を行うレベル4の社会実装に向けて取り組んでいるところです。上士幌町の住民の大半はマイカーで移動していますが、高齢になれば免許を返納する方も増えてくるでしょう。そのため、福祉バスのオンデマンド化の成功は、上士幌町でMaaSの役割を更に広げていくための大きな一歩となりました。さらに、予約用に配布されたタブレット端末を高齢者給食サービスの電子チケット化や町からの一斉情報配信にも活用するなど、今回の取り組みを通じて得た高齢者のITリテラシーの向上を行政サービスの拡大にも活かしています。
実証直後は実装までには至りませんでしたが、福祉バスの空き時間を利用してスーパーで購入した荷物を配送したり、物流業者による客貨混載などの実験も行った結果を踏まえ、現在では物流事業者が町内に拠点を構えてこれらの既存交通に加えてドローンや自動運転等の新たな技術を組み合わせた域内すべての交通リソースを総動員して地域の配送を効率化しようとする取組みも始めています。脱炭素の観点からも、動いているクルマを有効活用することは重要ですし、様々なアイデアを実現させようとする上士幌町の取り組みからは今後も目が離せません。
NRIは、これからも地域のDXやモビリティを起点として、地域に根ざした持続可能なサービスのあり方を地域と共に検討していきたいと考えています。

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