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未来へのヒントが見つかるイノベーションマガジン

クラウドの潮流――進化するクラウド・サービスと変化する企業の意識

価格高騰下の今、企業は「ROI意識」に対応したマーケティングを

マーケティングサイエンスコンサルティング部
高橋 弓子、名取 渚子、森田 光一

#マーケティング戦略策定

2023/02/21

食料品や日用品の値上げで家計の負担が増す中、私たちの買い物行動は大きく変化しています。単に安いものではなく、「ROI(投資効率、費用対効果、(注))」の高いものを選んで買う傾向が強まっています。このような状況下でも買われる商品には、どのような特徴があるのか。企業はどのようなマーケティングを行うべきか。消費者に対して行った調査の結果を交えながら、マーケティングサイエンスコンサルティング部の高橋弓子、名取渚子、森田光一が提案します。

(注)「コスパ」は本来「費用対効果」を意味するものの、世の中では「お手頃なもの」というニュアンスが強く持たれている。今回のテーマでは、単に安いものではなく、本当の意味での費用対効果を強調したく、やや大げさではあるがあえて「ROI」と表現している。

単に安いものを買うのではない「ROI意識」の高まり

原材料費や物流費の急騰によって、幅広い分野で値上げの動きが強まる一方で、実質賃金は8ヶ月連続のマイナスを記録しています(2022年4~11月)。価格高騰に賃上げが追いつかず、家計を圧迫していることがわかります。こうした値上げに対する負担感から、さっそく買い物行動が変化しています。

消費に対する防衛意識が高まる中、価格据え置きを宣言した大手スーパーのPB商品がシェアを伸ばしたり、ディスカウント店が人気を集めたりするなど、「安さ」が支持されているのは事実です。しかしその一方で、「ヤクルト1000」など価格以外の要素で商品がヒットしたり、時間当たり数万円もの個室サウナが注目されたりする例もあります。こうした例から、消費者は単に安いものを買うのではなく、ROI意識を高めて選択している傾向がうかがえます。

それでは、価格高騰下でも買われる商品には、どのような特徴があるのでしょうか。消費者の普段の買い物における考え方や行動は、商品の種類によって異なります。NRIはこれを「マインドポジション」と呼び、それに応じて商品やサービスを4つのグループに分けました。1つめはブランドへの慣れ親しみが強い「聖域グループ」です。商品では医薬品やスキンケア化粧品、サービスでは子ども向けの教育サービス・習い事や住宅設備関連の出費などが該当します。このグループの商品は、価格高騰下においても購買行動が変化していません。

2つめは、ブランドへの慣れ親しみが強いものの、消費スピードが速い「消耗品グループ」です。商品ではトイレットペーパーや洗剤、耐久消費財では調理家電や携帯電話などが該当します。このグループの商品は価格が高騰すると、特売やキャンペーンのタイミングを狙って買われたり、より安価なブランドの商品が選ばれたりする傾向があります。

3つめは「嗜好品グループ」です。商品では菓子や飲料、耐久消費財やサービスではタブレット端末や自分向けの教育サービス・習い事などが当てはまります。「最悪買わなくてもいい」とみなされ、価格高騰下で最も買い控えが起きやすいグループです。

4つめは「品質足切りグループ」です。商品では生鮮品や加工肉、耐久消費財ではカーナビゲーションやカメラなど、必需性の高いものが並びます。このグループの商品は安すぎると品質が不安視されることから、価格高騰下では類似機能を持つ代替品が買われるようになります。いつも買っている果物が高くなっているときに安い果物を無理に探すのではなく、他のデザートを買うというような行動です。

自社商品が「値上げに耐えられるか」を知るには

このような消費者心理や購買行動の変化を受けて、企業にはROI意識に対応したマーケティングを行うことが求められます。「自社商品の価値(ブランド・ベネフィット)に鑑み価格改定の是非をどう考えるのか」「売上に対する自社商品の値上げと外部要因の影響の大きさはどの程度か」という価格高騰下における企業の代表的な悩みについて、NRIは2つのアプローチを提案します。

1つめは、コンジョイント分析を用いたアプローチです。コンジョイント分析とは「ブランド」「機能」「価格」などの商品属性が、購入の意思決定にどのくらい寄与しているかを測る方法です。まず商品属性を組み合わせた仮想的な商品を並べて、各商品を何番目に買いたいかをアンケートで聴取します。その結果から、各属性のレベルに応じた魅力度や、購入意向への寄与度を算出するという流れです。

例えばある鎮痛剤についてコンジョイント分析を行ったところ、「価格」と並んで「ブランド」の寄与度が高い結果となりました。鎮痛剤はマインドポジション上で「聖域グループ」に属し、ブランドの影響が大きいカテゴリです。このカテゴリにおいては、競合に比べて自ブランドの力が高ければ、値上げをしても売り上げが下がらないと考えられます。

一方で、「価格」の寄与度が高いお茶(ペットボトル緑茶)の場合には、強いブランドでも値上げによって売り上げの低下が起こり、価格競争になりがちです。このように、カテゴリでの価格要素の寄与度や自社ブランドの強さを分析し、値上げを行った場合のシミュレーション結果から戦略を策定することが重要です。

2つめは、時系列分析によるアプローチです。時系列の売上データから長期トレンドや季節周期性の影響を除外した上で、「商品自体の値上げ」「関連必要商材の値上げ」「世の中全体の値上げ」のうちどの値上がり要素が最も売り上げに影響しているかを分析します。

例えばあるパスタソースの売上金額が、2022年2月の値上げ時に減少したとしましょう。これについて時系列分析を施したところ、売上金額の減少に最も影響が大きいのは「商品自体の値上げ」でしたが、パスタ麺などの「関連必要商材の値上げ」の影響も少なくないことがわかりました。
値上げをする場合でも、どの値上がり要素の影響が大きいかによって、とりうる施策は異なります。商品自体の値上げの影響が最も大きい場合は、値上げによって競合への離脱が起こりやすいと予想されます。その場合には、離脱を一時的なものに食い止め、顧客を取り戻すべく、ROIを高める手立てが必要です。例えばブランドへの愛着やベネフィットの再認識を促す、ミニサイズ商品などで見かけ上の価格を下げるなどの対応が考えられます。また、関連必要商材の値上げの影響が大きい場合には、商品の使い方・用途のバリエーションを増やし、新たなニーズを創造することが有効です。

価格高騰下では、消費者は単に「安いもの」を買うのではなく、「ROI意識」を高めて選択します。カテゴリによって購買行動の変化度合いには違いがあるため、自社の商品・サービスの位置づけを改めて点検することが重要です。自社のカテゴリ・商品は値上げに耐えられるのか、外部要因も含めてどの影響を強く受けているのかを見極め、方策を検討していく必要があるでしょう。

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E-mail: kouhou@nri.co.jp

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