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NRI トップ NRI JOURNAL 今日から始める「カーボンクレジット」ビジネス――地球を元に戻す短期的な対策

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今日から始める「カーボンクレジット」ビジネス――地球を元に戻す短期的な対策

ITマネジメントコンサルティング部 佐野 則子

#カーボンニュートラル

#スマートシティ

#サステナビリティ

#ビジネスモデル変革

#DX

#サーキュラーエコノミー

2023/03/06

国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の第六次報告書(2022年4月発表)では、今世紀末に気温が3.2度上昇してしまう可能性と、2025年までに温暖化ガス排出量を減少に転じさせる必要性が強調されました。
NRIの佐野則子が特に注目したのが、短期的に拡大できる温暖化対策として「農地などで行う炭素貯留」が挙げられた点です。GX(グリーン・トランスフォーメーション)に挑む企業は業界を問わず、土壌で炭素貯留を行う取り組みに参加できると考えています。その理由を聞きました。

短期的に拡大できる炭素貯留

「炭素貯留」とは、二酸化炭素(CO2) を地中・陸上・海洋などに吸収・固定させることです。吸収・固定できる期間が長ければ長いほど、温暖化対策として安定的な対策となります。

IPCCは、「農地などで行う炭素貯留」について、比較的低コストで実践され、多くの地域で短期間に温暖化対策を実行できる有効な手法の1つであると指摘しました。具体的な方法として、「バイオ炭」と、農地や草地で行う「土壌炭素管理」を挙げています。「バイオ炭」とは、温度など一定の条件でつくられた木炭などの炭のことで、肥料と共に使うことができます。「土壌炭素管理」とは、有機肥料を使う農法を行ったり、牧場草地で家畜のローテーション放牧を行ったりするなど、炭素貯留しやすい土壌管理を行うことです。
IPCCがこれらの方法を挙げたのは、現在世界で広く行われている方法だから、というのが理由です。

農地などで炭素貯留できるとIPCCが推計する年間CO2換算量は、世界のCO2排出量(年間)の最大1割に相当すると佐野は指摘します。農業は世界中で行われているため、国内だけでなくグローバル企業は海外拠点でもこれらの方法に取り組むことができます。

カーボンクレジットの創出プレーヤーとして挑戦する

炭素貯留の効果が認証機関に認められると、その分の「カーボンクレジット」が売買できるようになります。「バイオ炭」によって炭素貯留する場合、日本にはJ-クレジットという認証制度があるため、計算式で算出した炭素貯留量を国に認証してもらいます。一方、「土壌炭素管理」によって炭素貯留する場合は日本で制度がなく、炭素貯留量を測定して海外の民間の認証機関で認証してもらう必要があります。

海外では、バイオ炭だけでなく、衛星のオープンデータやAIを駆使して「土壌炭素管理」による炭素貯留量を測定し、カーボンクレジットをつくる動きも活発になってきました。どの企業でも支援ベンダーと協業すれば、カーボンクレジットを創出することが可能です。ベンダーの米リグローは、衛星とAIで「土壌炭素管理」による炭素貯留量を測定し、クレジット認証機関へ提出する書類作成を支援しています。日本でも、海外の認証機関への申請支援も含めて、脱炭素に貢献する農法のカーボンクレジット化を支援するスタートアップが生まれています。

カーボンクレジットの利用プレーヤーとなって、炭素貯留を加速させる

カーボンクレジット取引に買い手として参加することは、どの業界の企業も可能な取組みです。炭素貯留でつくられたカーボンクレジットを購入することで、カーボンクレジットをつくるために炭素貯留への投資が進む好循環が生まれる効果があり、意義のある取組みです。

米マイクロソフトは、炭素貯留が持続できる期間に応じて、独自にカーボンクレジットを3分類しています。高額な機械を使って貯留期間が数千年に及ぶものを「高耐久性」クレジット、バイオ炭のように貯留期間が数百年から千年に及ぶものを「中耐久性」、土壌炭素管理のように貯留期間が100年未満のものを「低耐久性」としました。「高耐久性」クレジットは高額で多くの企業が利用できませんが、低コストで短期的な温暖化対策になることを評価して、農地や牧場の炭素貯留で作られた「低耐久性」クレジットを積極的に購入しているのです。

あらゆる企業がプレーヤーになる時代へ

日本企業は、カーボンクレジットの創出プレーヤー、もしくは、利用プレーヤーとして、短期的にできる炭素貯留に積極的に関わることができると考えます。

創出プレーヤーであれば、たとえば、企業が自治体などと連携し、地域経済循環の取り組みとして、剪定枝など地域の未利用資源や廃棄資源を利用してバイオ炭をつくり、炭素貯留を試験的に始めてみる。貯留量の数値が蓄積された段階で、本格的な取り組みにしてJ-クレジット化を狙う。脱炭素と地域課題の解決を同時に図る、環境省の「脱炭素先行地域づくり」の制度の中で、施策として行うこともできます。

利用プレーヤーであれば、J-クレジットよりは単価が安い、海外の認証機関で認証されたカーボンクレジットを購入し、自社のPR活動、自社商品・サービスに活用することができます。たとえば、クレジットを用いたカーボン・オフセットのイベントを企画すれば、他の企業や生活者はそこに参加することで間接的に炭素貯留に関わり、地球温暖化防止に貢献できます。企業には、そういうルートを是非作っていただきたいと思います。

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E-mail: kouhou@nri.co.jp

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