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NRI トップ NRI JOURNAL 知の挑戦と継承 Part4――志ある人たちと社会を変える存在へ

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知の挑戦と継承 Part4――志ある人たちと社会を変える存在へ

未来創発センター センター長・研究理事 神尾 文彦
戦略企画室室長 中島 済
制度戦略研究室長 梅屋 真一郎
制度戦略研究室エキスパートコンサルタント 中島 伸彦

2023/03/17

野村総合研究所(NRI)は、日本におけるシンクタンクの先駆けとして、さまざまな政策提言や調査研究を行ってきました。ますます不透明で先が見えないこの時代に、シンクタンクとしてのNRIは何をすべきなのか。NRIのシンクタンク機能を担う未来創発センターのメンバーによって議論を続けてきた本シリーズ。最終回は、研究理事・未来創発センター長の神尾文彦、戦略企画室室長 中島済、制度戦略研究室長 梅屋真一郎、制度戦略研究室エキスパートコンサルタント 中島伸彦の4名によって、NRIが強化すべきシンクタンク機能について考えます。

前のページ:知の挑戦と継承 Part3

日本のシンクタンク機能を担っていたのは……

――これまでの座談会では、NRIの未来創発センターがシンクタンク機能を強化していくうえでのコンセプトが語られました。「変化の洞察」「将来像の提示」「実現への伴走」「チェンジ・エージェント」などのキーワードも挙がっています。日本のシンクタンク機能には何が必要でしょうか。

梅屋:欧米など諸外国の民間シンクタンクは、政策アイデアの検討から、具体化、実行、チェックまでの範囲に何らかの形で参画していて、政策を実現する力を持っています。政策立案や実行を担う立法府や行政府と、いわゆる「回転ドア」と呼ばれる人材の行き来があるからです。一方、日本で政策立案や実行を担う人材は、霞が関の官僚組織です。言い換えれば「日本のシンクタンクは霞が関」というのが私の認識です。日本の民間シンクタンクは何をしているかというと、あくまで官を支援する立場というのがこれまでだったと思います。

神尾:NRIも、欧米型シンクタンクのように政策そのものを立案するというよりも、国や行政のニーズに応じ政策立案を支援してきました。国から委託されるテーマは、大きく変わっています。以前は国の骨太戦略立案にも関わっていましたが、最近は国が政策立案をするうえで必要な需要予測や先進事例の収集などをお手伝いし、その実行を支援することが多くなっています。

梅屋:「日本のシンクタンク」である官僚組織ですが、90年代以降、制度疲労を起こしていると感じます。情報発信や企画などの力が弱っている。それで、民間の力を借りましょう、という動きが起きている。

神尾:時代が不透明で不確実になってきた中で、日本の官僚組織も、従来のように機能せず、さまざまな問題が生じています。そこに私たちのチャレンジがあると思います。

現実を突きつけ、社会を変える役割が求められている

――「日本のシンクタンク」である官僚組織に代わって、民間のシンクタンクはどんなチャレンジができると思いますか。これまでと違う役割を担えるのでしょうか。

梅屋:霞が関の疲弊は、組織の問題に加え、置かれている環境変化が背景にあると思います。一方で、日本の企業はこの30年間、ずっと苦しい状況にありました。そんななかでシンクタンクが「変わりましょう」といっても、官も民も動く余裕かない。裁量がきく部分がどんどん縮小し、現状維持が精いっぱいです。
となると、シンクタンクは夢のある提案をするより、現実を突きつけ、官僚を説得して動かすことが重要ではないか。あるべき方向に誘導する役割を、これからのシンクタンクが担うことに意味があると思っています。

中島済:私は、シンクタンクは社会や企業の変革をリードできる「チェンジ・エージェント」であるべきと考えています。チェンジマネジメントの世界的な権威であるハーバード大学のJ.P.コッター教授は、大規模な変革の推進には8つのステップを踏む必要があると述べています。①危機意識を高める、②変革推進のための連帯チームを築く、③ビジョン戦略を生み出す、④変革のためのビジョンを広くコミュニケートする、➄広範囲の人材をエンパワーする、⑥短期的成果を実現する、⑦成果を統合し、さらなる変革を推進する、⑧新しい方法を企業に定着させる、の8つです。私はこのうち、①~⑥の実行にシンクタンクが貢献できると思っています。例えば、梅屋さんの話にあった、日本人が変わりたいと思わない現状に対して、日本はこのままだとまずい、世界にはもっとチャンスがあるという情報を伝えることも、シンクタンクである私たちの役割だと思います。
また、コッター教授が言うように、発信するだけでは変わらないので、私たち自身も、新しい試みを行って成果を示していくことが必要だと思います。例えば、未来創発センターが「地方創生のためのイノベーションプログラム」を行ってきたように、これに続けば明るい未来が待っていると感じてもらえるような成果を実際に自ら生み出して示す。その合わせ技が必要だと考えています。

中島伸彦:日本の方向性を示すという意味では、梅屋さんの話にあるように「日本のシンクタンク」である官庁が国家ビジョンを設定して政策を打ち出していくべきでしょう。しかし長らく官庁の仕事をしてきた経験から感じるところでは、官庁内の役割の細分化によって、国全体を考えて方向性を定めることが難しくなっています。また、官僚は日々、対処しなければならないことに追われていますから、外部からの働きかけがない限り、何かの改善に向けて取り組む動きは起きにくい。
ところで、官僚が世の中を変えるためにできることの一つが、法律の整備です。法律を作るには、国会を通さなければならず、それには政治家を動かす必要があります。政治家は票を見て判断します。彼らにとって票とは世の中の動きです。世の中がその法律を求めているのかを、政治家は人々を見て考えます。ということは、先ほど中島済さんの話にあったように、人々の意識を醸成する働きかけは、社会を変えていくうえで不可欠です。そこはシンクタンクが担える部分だと思っています。

民間企業としてのジレンマ

梅屋:ただし民間企業としてどう関わるかは、また別の議論です。営利企業であるからには、「CSRの一環」や「中長期的なビジネスへのつながり」といった正当な理由がない限り、関わることは難しい。私たちの場合でいえば、NRIは上場企業であり、利益を得なければなりません。それと、シンクタンクとしての役割とどう兼ね合いをとるのか、悩ましいところです。

中島済:確かにその問題は、非常に難しい。我々は営利企業なので、ビジネスを全く無視したシンクタンク像は考えづらいです。とはいっても、私たちの活動範囲は広げられると思います。NRIのビジネスに直接つながらないとしても、国の政策に関わることで「世の中をリードする存在」「社会のために活動しているNRI」というブランドは醸成でき、既存のビジネスにプラスになるとは思います。

中島伸彦:この国が、ここ30年で停滞しているのは間違いないと思っています。なかなか明るい兆しも見えてきません。NRIは創業時から比べれば、合併をし、上場もして大きくなりました。一私企業ではあるが、世の中から見ると、もう少し将来像を示してほしい、提案してほしい、と期待されていると感じています。現在、私に具体的な回答があるわけではありませんが、こういう方向を目指すのはどうか、と提言する活動は続けるべきと思っています。

シンクタンクとしての倫理

――それでは今後、NRIのシンクタンク機能をどう強化していくべきなのか、考えを聞かせてください。

中島伸彦:まず私たちが、NRIの未来創発センターの方向性を示し、世の中に受け入れてもらうための活動を行うことが必要だと思います。それが何かは、議論を重ねるしかないですが、チャレンジを続けつつ、社会に受け入れられる方向を目指せたらと思っています。

梅屋:先ほど、欧米型シンクタンクにおける「回転ドア」の話をしました。もともと日本でも、民間企業から官公庁への出向は数多く行われています。それが欧米の「回転ドア」と異なるのは、社会の変革ではなく、自社のビジネスメリットを目的に行われている点です。
さて、NRIがシンクタンクとして関わる以上、お金儲けのために動くわけにはいかない。その意味で「志」「倫理」ということも、重要になるでしょう。よこしまな気持ちを持たずに、政策提言・政策推進をするのがNRIとすべきだし、それがNRIのブランド価値になると思います。官の側も、NRIが利害関係を持たずに関わろうとすれば、本気で向き合ってくれる。そうなると、物事は変わります。

中島済:未来創発センターとしては、まずは今まで以上に骨太な研究を行い、それをしっかり対外発信していくことでしょう。チェンジ・エージェントとしてのこだわりから言うと、イベント実施や書籍・レポートの発行といった活動は大切ですが、それ以上に、どれだけ一般の人の心に響いたか、そして改革につながったか、を見る必要があると思っています。そのため、発信内容や発信方法を工夫したいと考えています。
もう一つ、未来創発センターは大きな組織ではありません。世の中を変えるには力不足です。その意味で、改革に向けて想いを同じくする人を巻き込み、活動を広げていけたらと思います。ここにいるメンバーだけでも、梅屋さんは政治家の方々と関係を持っている、中島伸彦さんは、まさに官庁の中に入って仕事をしています。政治家、官僚、民間の人などで、世の中を変えていきたいと思う人たちと新しい試みを行い、実際に小さな成果を上げていく。そんな活動を続けていけたら、未来創発センターの価値はより高まると思います。


対談者プロフィール

神尾文彦(かみお・ふみひこ) 未来創発センター長・研究理事 1991年にNRI入社。官公庁、地方自治体、公益団体などの調査・コンサルティング業務に従事。専門は都市・地域戦略、公共政策、社会インフラ戦略など。2022年に未来創発センター長に就任。多様な領域で活動する同センターのメンバーとともに、世の中から頼られ続ける存在となるべく、NRIのシンクタンク機能の再強化を進めている。

中島済(なかじま・わたる) 未来創発センター戦略企画室室長 投資ファンドを経てNRIに入り、コンサルタントとして新規テーマ開発を担当。コンサルティング事業開発部部長を経て、2017年より現職。未来創発センターからの対外発信を行うとともに、「チェンジ・エージェント」の立場から、社会を変える取り組みを、地方を中心に実践している。

梅屋真一郎(うめや・しんいちろう)未来創発センター制度戦略研究室長 NRIのシステムサイエンス部に配属後、NRIアメリカ、金融関連部署、経営企画部などを経て、2013年より現職。マイナンバーやキャッシュレスインフラなどの制度分析やあるべき姿について発信するとともに、官公庁や政治家に対して、政策提案とその実現に向けた伴走を行っている。

中島伸彦(なかじま・のぶひこ)未来創発センター制度戦略研究室 エキスパートコンサルタント NRIの技術戦略研究部に配属後、コンサルティングや新規事業開発などに従事。2014年より内閣府大臣官房番号制度担当室 兼 内閣官房副長官補室付情報通信技術総合戦略室に勤務。政府CIO補佐官、戦略統括調整官を歴任し、2020年より警察庁長官官房技術企画課に上席調整官として政府のIT施策立案に携わっている。

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株式会社野村総合研究所
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E-mail: kouhou@nri.co.jp

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