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世界で加速する水素エネルギー活用ビジネス――3つの市場参入アプローチ

グローバル製造業コンサルティング部 濱野 友輝、松原 輝王、川相 誓也

2023/03/29

脱炭素の実現手法の1つとして検討されてきた水素エネルギー。欧米中の三極を中心に、官民でその活用に本腰を入れる動きが急加速しています。世界の潮流に取り残されずに、どのように水素エネルギー関連ビジネスを育てられるのでしょうか。NRIの濱野友輝、松原輝王、川相誓也に水素エネルギー市場への参入機会について聞きました。

世界で加速する水素シフト

水素エネルギー活用をめぐる世界のトレンドは直近で大きく動いています。欧州では、ウクライナ危機を背景にロシア産化石燃料依存から脱却するために、水素導入目標を上方修正するREPowerEU計画を2022年に定めるなど、政策的に水素シフトを進めています。また、米国では2021年にインフラ投資雇用法を定め、雇用創出のための新産業の位置づけとしてグリーン水素に15億ドルの投資を計画。2022年後半には国家水素戦略とロードマップの策定に乗り出しました。さらに中国でも、国の水素エネルギー産業発展計画に沿って、主要都市ベースで具体的な推進策が打ち出されています。  

「日本は2017年12月に、世界に先駆けて水素基本戦略を策定しました。しかし先進的であったが故に、日本単独でできることは限られ、具体的な注力領域や世界とのバランスを見極められず、実証実験レベルで留まっていました。そんな経緯もあって、国内企業では水素エネルギーに対して半信半疑の論調が根強く、海外と温度差があります。特に、リソースの投じ方やスピード感では遅れが否めません」と、濱野友輝は懸念します。だからこそ、水素シフトが慌ただしく進む世界の現状を改めて認識すべく、NRIは今後の水素市場について予測調査を行いました。

グリーン水素をめぐる3つの市場参入アプローチ

「理論値ベースでもっと急勾配で伸びる市場予測を行っている機関もありますが、私たちは直近の実績と政策動向を加味しながら、確度重視で見積もりました。そのうえで、欧州の専門家と議論して予測精度を高めました。そのため他の統計より保守的かもしれませんが、それでも2030年までに、製造工程で水素を使える製鉄やガラスなど産業部門と、水素混焼の技術革新が顕著な電力分野が牽引役となって、需要は右肩上がりで伸びていきます」と、松原輝王は説明します。

さらに注目したいのが、供給される水素のタイプです。水素の作り方には、化石燃料から抽出するグレー、その過程で発生するCO2を回収・処理するブルー、再生エネルギーで水を電気分解するグリーンの3つがあります。このうちCO2排出ゼロのグリーン水素の供給は2025年頃には全体の1割程度ですが、2050年には半分以上を占めるようになることが見込まれます。

このグリーン水素の拡大を見据えてチャンスをつかむためには、3つの市場参入アプローチが考えられます。1つ目が、キーコンポーネント(部材・素材)において、スペック(仕様書)通りに生産を請負うのではなく、先行企業の悩み解消に共同で取り組み、共同開発したソリューションや新技術を仕様に織り込んでもらう「スペックイン」を狙うこと。たとえば、ドイツの触媒メーカーのヘレウスは、水電解装置の量産に取り組むシーメンス・エネジー(先行企業)と一緒に、水分解のキーコンポネンツである触媒の共同開発を行っています。

黎明期の市場は後発でも逆転可能

2つ目は、スタートアップと連携して次世代技術を早期に取り込むことです。黎明期の市場では、当初は先行しているプレイヤーが存在しても、新しい技術や手法によってゲームチェンジが起こることがあります。次世代技術がどうなるか見定めながら、自社内でコツコツ開発するだけでなく、それを得意とするスタートアップを見つけて、最適な技術を自社に組み込むことが重要です。「EV(電気自動車)の例からわかるように、国内市場が熟すのを待っていれば、世界の市場で出遅れてしまい、海外の先進技術を輸入するしかなくなります。それよりも先進地に足を踏み入れて、ビジネスの経験をいち早く積み始めることが必要になると思います」と、川相誓也は指摘します。

3つ目は、水素の製造、輸送、貯留、利用に至るまで、サプライチェーン全体で参入余地を探索することです。たとえば、水電解装置メーカーのプラグパワーは、2040年ネットゼロ達成を目指すEC大手のアマゾンと、輸送や業務に用いる水素エネルギーを供給する契約を締結。装置販売に留まらず、オペレーションや供給などの領域にも踏み込んでいるのです。特に、グリーン水素の利活用は国単位でそれぞれ事情が異なるので、サプライチェーンを幅広く見ながら事業探索することは機会発見につながります。

「2022年に世界で起こったことは、水素のポテンシャルを大きく引き上げました。このトレンドを絶対に逃してはなりません。今回の市場予測や調査結果を事実として受け止めるだけで終わらせず、企業の戦略転換や強化のきっかけにしていただきたいのです」と、濱野たちは訴えます。「私たちも企業のご支援だけでなく、官庁とも政策面を含めた議論を深め、日本における水素の利活用の議論を活発化させたいと思っています」

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