フリーワード検索


タグ検索

  • 注目キーワード
    業種
    目的・課題
    専門家
    国・地域

NRI トップ NRI JOURNAL 農産品・食品流通の課題と改善策

NRI JOURNAL

未来へのヒントが見つかるイノベーションマガジン

クラウドの潮流――進化するクラウド・サービスと変化する企業の意識

農産品・食品流通の課題と改善策

アーバンイノベーションコンサルティング部 永島 裕理、衣松 佳孝

#水産・農林

#食料品

2023/04/05

農業・食品関連産業は、私たちが生活していく上で最も基本となる産業の一つです。それだけに長い歴史があり、業界独特の仕組みや商習慣が存在しています。しかし近年は農家の減少や低い生産性、人口減少による国内マーケットの縮小など、多くの課題に直面しています。今後の発展のために、農業・食品関連産業はどのような変革に取り組むべきなのでしょうか。業界全体のトレンドや取り組み事例を交えながら、アーバンイノベーションコンサルティング部の永島裕理、衣松佳孝が提言します。

人材確保から流通構造の改善、新規市場の開拓まで課題は山積

農産品・食品の流通は生産者から消費者へと川のように流れており、川上・川中・川下に位置する各関係主体がそれぞれ異なる課題を抱えています。まず「川上」にいる生産者の間では、農業従事者の減少と高齢化が急速に進んでいます。生産維持のためには少ない農業従事者で必要な生産量を賄うか、農業従事者を維持・増加させることが求められます。一方で、農業は他業種と比べて収益性が低く、近年は原材料価格の高騰によってその傾向に拍車がかかっています。改善のためには販売価格の向上が求められます。

次に「川中」にいる農協や卸売市場は、流通構造の効率化を迫られています。農産品の輸送では農産品や流通構造の特性ゆえに、配車の非効率をはじめとするさまざまな問題が発生しています。こうした非効率を避ける手段として、近年では加工業者・消費者等への直接販売が拡大傾向にあります。ただし、こうした市場を介さない流通にも売れ残りリスク、送料やクレーム対応負担の増加、商品の安定供給の難しさなどのデメリットがあり、改善の余地が多く残されています。

消費者がいる「川下」では、食品ロスがなかなか減らないという問題があります。一方で、国内総人口は減少の一途であるのに消費者のニーズは多様化しており、小売・加工・外食業者は厳しい戦いを強いられています。農家の収益確保のためには「気に入った付加価値には対価を払う」というプレミアム消費に対応した高付加価値品の販売など、ニーズに即した商品提供が求められます。

こうした各関係主体の課題に加えて、食関連企業は国内マーケットの縮小という市場全体の問題も抱えています。成長のためには、海外展開をはじめとする新たなマーケットの開拓を含めた検討が必要になるでしょう。

農業・食品関連産業変革の「5つの方向性」

課題の解決には、5つの方向性があります。1つめは「調達・営農支援」です。具体的には、大手ホームセンターなどのECサイトで肥料・農薬等の農業用資材を手軽に調達できるようにサポートしたり、動画サイトなどで農業に関する情報発信を支援したりすることで、農家の資本効率改善や生産性の高い農業への転換を目指すものです。

2つめは「ポテンシャル市場への販売」です。国内マーケットが縮小する中、国外の市場も開拓していく必要があります。たとえば宮崎県のくしまアオイファームは、日本からタイ、シンガポール、香港といったアジア圏へのさつまいもの輸出をけん引しています。さつまいもの輸出を主要事業の一つと位置付け、現地のニーズに合わせた商品開発や輸出課題の改善によって、海外における高単価での販売を実現しています。

3つめは「物流マッチング」です。多段階流通が必要な農産品においては出荷量の事前予測が困難であり、それが配車の非効率につながっています。こうした課題を解決するのが、市場などへの共同配送サービスです。生産者は指定された集荷場に産品を持ち込むことで、小ロットでも低価格で出荷できます。

4つめは「拠点運営支援」です。たとえば農産品の輸配送にはパレットが使われていますが、現状では所有者の明確でない「雑パレ」による運用が一般的です。そこでJA全農を中心に、循環パレットの導入・管理を目的としたパレット共通管理システムを構築する動きが出てきています。また、市場における長時間の荷下ろし待ち解消への打ち手として、一部の市場ではトラックバース(荷物の積み下ろしのためにトラックを駐停車しておくスペース)の予約システムがすでに導入されています。こうしたシステムの導入によって農業の生産性向上、ひいては農産品流通全体の最適化を図ることが必要です。

5つめは「生産・販売計画の高度化」です。サプライチェーン全体に関する計画を高度化し、適切に輸配送を行うための取り組みが必要です。たとえばキウイフルーツの生産・販売で知られるゼスプリは、1997年の設立当初からデジタル技術の導入を進め、2010年代からは特に収穫や倉庫内作業の自動化に積極的に取り組んでいます。こうした生産面の高度化とあわせて、販売面でも価格・数量を輸出先国別にコントロールするなどの取り組みによって、収益の最大化を図っていると考えられます。持続可能な農業を実現するためには、他社においても同様の取り組みを広げていくことが必要です。

今後の食関連産業の発展のためには、既存流通の改善に加え、生産・販売の一貫した高度化による新規領域の開拓が必要です。そのためには、まずマーケットインの発想をもって、消費者や小売・加工業者のニーズをとらえ、新規領域がどこにあるのかを把握すること。そして、それを踏まえた生産、製造を行い、「新しい」流通として直接販売も含めた市場を作っていくことが重要になると考えられます。

  • Facebook
  • Twitter
  • LinkedIn
NRIジャーナルの更新情報はFacebookページでもお知らせしています

お問い合わせ

株式会社野村総合研究所
コーポレートコミュニケーション部
E-mail: kouhou@nri.co.jp

NRI JOURNAL新着