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NRI トップ NRI JOURNAL システム開発は「アート」も「デザイン」も

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未来へのヒントが見つかるイノベーションマガジン

クラウドの潮流――進化するクラウド・サービスと変化する企業の意識

システム開発は「アート」も「デザイン」も

常務執行役員 証券ソリューション事業本部長 中山 浩之

#DX

#情報・通信

2023/04/20

私が本部長を務めている証券ソリューション事業本部では、次期STARシステムの開発が佳境を迎えている。STARシステムとは、SecuritiesTotal Associated Realtime Systemの略で、1974年にNRI(当時は野村コンピュータシステム:NCC)が提供を開始した「証券共同オンラインシステム」、現代風に言えば証券クラウドサービスということになる。提供開始以来約50年、おかげさまでSTARシステムは証券業務のバックオフィスシステムとして、証券業界のデファクトスタンダードとなっている。

古くても大切なもの

次期STARシステムの開発に当たっては、顧客の利便性とシステムの安全性を第一に考えながら、最新技術の導入にも余念がない。しかし、何せ長い歴史のある情報システムだけに、そこには安定しているが手間のかかる「枯れた」技術が依然として使われている。昨今では、そうした情報システムを「レガシーシステム」として悪者扱いする風潮があり、「NRIのシステムは古臭い」と言われるなど内心忸怩たる思いを抱いていた。古いもの、伝統のあるものを何でも「使えないもの」と切り捨てて、それを「遺産」として棚上げしてしまうのはいかがなものであろうか。たとえば、金融分野のシステムでは本人確認のプロセスが何よりも重要であり、システムの安全性・信頼性を担保する技術でなければ、いかに新しく効率的であっても採用するわけにはいかない。

システム開発の際にテクニックやエンジニアリングに走り過ぎると、こうした大切なことを忘れがちになってしまう。とかく綺麗にしよう、見た目を格好よくしようという考えにとらわれるようになり、そのシステムがどのように使われるか、ということに頭がいかなくなってしまうのである。

こうした風潮に悶々としていたところ、ある著名な建築家の講演を聞いて、我が意を得たりの感があった。昔から、建築とシステム開発の世界はよく似ているといわれる。顧客と綿密な打ち合わせをしてから全体構想を提案し、それが了解された後は、概念設計、詳細設計と進み、基盤工事、建造物の施工、そして完成検査、引き渡しという工程は、まさにシステム開発のプロセスと同一である。したがって異業種とはいえ、建築家の意見には耳を傾けるところが多いと感じていた。

その建築家は都市計画が専門なのだが、都市開発に当たっては、新しいビルをどんどん建てていくより、できる限り古い建物を残して、それをいかに気持ちよく使ってもらうかの方が重要だと語っていた。そして東日本大震災からの復興に際して、東北地方の被災地を最新の街に作り変えようという動きばかり目についたことには悲しい思いをした、とも言っていた。都市の永続的な発展というのは、そういうところからは生まれないのだそうだ。

システム開発に必要な「デザイン」の視点

一方、同じ頃にプロダクトデザインの専門家の著作を読んだのだが、そこには「アート」と「デザイン」は別物であると明言されていた。つまり、「アート」とは「(芸術家が)好きなものを作ること」であるが、「デザイン」は「(設計者が)人を説得すること」なのである。確かに、多くの人を説得するためには芸術性よりも利便性を説かなくてはならない。

都市も情報システムも人間が使うものであるから、人間にとって何らかの受益がなくてはならない。建築家が好き勝手に建物を設計してしまったら、最終的には住民が迷惑を被る。情報システムも同様である。アートの感覚でシステムを作ってはいけない。使われることが前提であり、使って不便なものはいくら芸術性があっても普及するものではない。

昨今はDX(デジタルトランスフォーメーション)流行りで、既存のSIerだけでなく、最新のデジタル技術を活用するという触れ込みで、外資や異業種からもこの分野に多数参入し、業界のディスラプター(破壊者)となっている。そうした事業者は、とかくレガシー技術に否定的で、自分たちの担いでいる技術で「新しいもの」「好きなもの」を作りたがる傾向にある。しかし、当初の意気込みとは裏腹に、実装まで至らず中途半端に手仕舞いしてしまうケースが多いと聞く。

建築物にたとえると、建物の外観は綺麗になったものの、いざ入居してみたら水回りはガタガタ、下水もないという状態に陥ってしまっているのである。結局、依頼した企業や政府・自治体などにとっては無駄な費用をかけたことになり、それが日本企業の経営や、ひいては日本の財政をも圧迫する一因にもなっている。

だからといってこれからの時代、見た目がダサいのもいただけない。本物のDXとはそういうことだと思う。その意味で、「アート」も「デザイン」も必要なのである。

よく「変わることに価値がある」といわれるが、「変わらないことにも価値がある」のである。ワクワクするものに取り組むだけでなく、オーセンティシティ(「本物感」や「らしさ」)を守りつつ、新たなものを加えていくのが真のイノベーションだと思っている。われわれはそうしたイノベーションを追求していきたい。

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