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今、求められる経営改革――組織構造のジレンマを乗り越える(前編)

経営コンサルティング部 佐藤 悠一、須藤 光宜、小枝 冬人
グローバル製造業コンサルティング部 大道 正太郎

2023/04/24

事業を取り巻く環境が複雑性を増し、将来予測が困難な時代になっています。いち早く情報を集め、的確な判断を素早く下すことが、グローバル化・デジタル化が進む企業には不可欠です。しかし、事業や地域拠点の拡大を続けてきた企業の多くでは組織の制度疲労が進み、意思決定のスピードや質に課題が生じている例が少なくありません。
多くの企業が直面している組織構造の問題点について、野村総合研究所(NRI)経営コンサルティング部 佐藤悠一、須藤光宜、小枝冬人、グローバル製造業コンサルティング部 大道正太郎に話を聞きました。

日本企業の組織構造は今こそ見直す時がきている

――日本企業の組織構造は、今、どういった問題を抱えているのでしょうか?

佐藤:戦後の経済成長の中で、数多くの企業が海外に進出しました。当初は日本企業で働いているのはほぼ日本人だけでしたが、各地に拠点を設けたり、海外企業を買収したりするのに伴い、国籍やバックグラウンドの異なる社員が増えてきています。文化の異なる会社を買収したために意思の疎通がうまくいかないなど、これまでの単純な組織の在り方では対応できなくなっている部分もあります。事業が成長してグローバル化を続けているにもかかわらず、実情に見合う組織設計になっていないためにひずみが生じているのです。

それと同時に、企業間の競争はデジタルディスラプションの影響もあり激しさを増しています。事業環境の変化が速くなっているため、企業は事業構造を転換するような意思決定であっても、それを素早く、的確に下さなくてはなりません。組織が大きくなれば意思決定には時間がかかるものですが、そうではなく、もっと迅速に、大胆にしなければならないという難しい課題を多くの日本企業が抱えているのです。これに対処するには、従来の組織構造を時代に合わせて変革する必要があります。
私たちは、「3軸を意識した経営体制」「コングロマリット経営」「シェアードサービス活用」という3つの観点から、日本企業が目指すべき組織の在り方を検討してきました。本日はそれぞれの専門家から、日本企業における組織構造の問題点とその解決策についてお話しさせていただきたいと思います。

事業・地域拠点が個別最適となり「グループ経営」できていない

――それでは最初に、3軸を意識した経営体制とはどういうことなのか、お聞かせください。

大道:組織には大きく分けて3つのタイプがあります。基本となるのは、開発・製造・販売のようなファンクションで切られた「機能軸」の組織ですが、ある程度以上の規模になると「事業軸」もしくは「地域軸」を採用する企業が増えてきます。
事業軸組織は、各事業の置かれた事業環境や事業特性の差異が比較的大きく、事業間のシナジーを追求するよりも事業単位で戦略を立案・実行していくことがより効果的な場合に採用されるタイプです。地域軸組織は、事業間の共通要素が比較的多く、地域別の特性を考慮することがより重要な場合に採用されるタイプです。どちらも事業もしくは地域といった単位に権限委譲を行うことで、各ドメインに最適な経営を行うことを可能にしていますが、その反動としてそれぞれがサイロ化する例が散見されます。本来なら一つの企業体としてシナジーの創出を志向するべきにもかかわらず、あたかも別の企業であるかのように個別最適化してしまい、全社としての戦略や施策が極めて限定的になってしまうのです。また、人事や経理といった間接機能の重複コストが発生し、収益性を圧迫するという問題もあります。

例えば、地域軸で事業を拡大してきた某精密機器メーカーは、海外売上高が全体の7割を占めるまで成長しましたが、その反動として各地域が短期的な利益最大化を優先してしまい、顧客ニーズの共有やグローバルでの事業戦略策定などが進まない状況に陥ってしまいました。同様の事例は事業軸で経営を続けてきた企業の多くでも起きており、これらの機能不全を克服するためにも、各事業/地域が権限を持ってきた機能に対して横串を刺すことが必要だと考えています。

組織が肥大化・コングロマリット化して非効率が生じている

――コングロマリット経営の観点からも問題点についてお聞かせください。

小枝:多角的に事業展開されている企業の経営者の中には、マネジメントの非効率性に悩まれている方が多くいらっしゃいます。その中でも特に深刻なのが、意思決定すべきことに関する情報が足りない、スピード感が足りないといったことです。
その理由の一つに、多角化経営を展開している企業の多くが統合と再編を繰り返してきた経緯から、規模が大きく、意思決定の組織階層が多く複雑になっていることが挙げられます。また、所属組織ごとに使っている言葉の定義やルールが異なっていることも、意思決定が遅くなる原因の一つです。

グループ経営をする企業の本部は、各事業部門へのリソース配分をはじめとした全体最適を考えなくてはなりません。そのためには各事業部門に関する正しい情報が上がってくることが不可欠ですが、統合から時間が経つほどに各事業部門が内向きになってしまい、なかなか情報が上がってこないということが起きています。こういったことが、「コングロマリットディスカウント」と呼ばれる企業価値の毀損につながっていると考えています。
例えば、M&Aを繰り返して傘下に多くのグループ子会社を抱えている企業がありますが、グループ全体での会議体が何層にもわたっていて、グループ子会社の取締役会、さらにその上の会社の取締役会へと上げなくてならない。結果的に似たような審議を繰り返しやっているため、時間がかかる上、その過程で責任の所在も曖昧になるといったことが起きています。

シェアードサービス会社を活かせておらず経営基盤が弱いまま

――シェアードサービスについても伺います。今、何が問題とされているのでしょうか?

須藤:日本では2000年頃にシェアードサービスによる経営改革が注目され、さまざまな企業がシェアードサービス会社を設立しました。最大の目的はグループ企業内の共通業務を標準化・集中化することによって業務遂行の効率化を図ることで、さらには他社の業務を請け負う収益源としても期待されていました。それから20年が経過した2020年頃からシェアードサービスが再び注目を集め、その再活用や再編の動きが活発化しています。その理由は、シェアードサービスがこれまで以上に価値を生み出せる条件が整ってきたからです。
ところがこれに気付かず、シェアードサービスを設立したままで、有効に活用できていない企業が多いのです。この20年間の蓄積にDXを組み合わせて上手に活用すれば、業務効率化やコスト削減にとどまらず新たな付加価値を創造することができることに、ぜひ気付いていただきたいのです。

次のページ:今、求められる経営改革――組織構造のジレンマを乗り越える(後編)

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E-mail: kouhou@nri.co.jp

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