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今、求められる経営改革――組織構造のジレンマを乗り越える(後編)

経営コンサルティング部 佐藤 悠一、須藤 光宜、小枝 冬人
グローバル製造業コンサルティング部 大道 正太郎

2023/04/26

組織のあるべき姿は、企業の成長フェーズや取り巻く環境によって常に変化します。前編では、多くの企業が直面している組織構造の問題点について紐解いてきました。後編では、グローバル化・デジタル化時代のジレンマを乗り越えるためのヒントを、引き続き野村総合研究所(NRI)経営コンサルティング部 佐藤悠一、須藤光宜、小枝冬人、グローバル製造業コンサルティング部 大道正太郎に聞きました。

前のページ:今、求められる経営改革――組織構造のジレンマを乗り越える(前編)

機能軸で横串を刺し、強いリーダーシップでマネジメントシステムを整備

――企業が事業軸/地域軸でサイロ化することの危険性を指摘されましたが、これを解決するにはどうすればよいのでしょうか?

大道:事業軸/地域軸の縦軸に対して、機能軸で横串を刺すマトリクス経営の導入が挙げられます。これは機能軸部門に一定の権限を与え、事業軸/地域軸に牽制をかけるものです。機能軸には、売上に貢献するセールスやマーケティングなどフロントサイドの軸と、人事・経理・財務といったコーポレートサイドの軸の大きく2つのタイプの軸があります。前者は情報の共有や業界を横断した戦略を描く機能、後者は重複を排してコストの削減を図るなどの機能ですが、これら横軸の上長に対してもレポーティングラインを持たせることで全体最適化を目指します。
マトリクス経営の導入は組織の複雑化などの弊害を招く面もあるため、かつては多くの企業が対応に苦慮していましたが、近年は各機能を支援するデジタルツールの高度化によって、機能軸によるガバナンス・最適化が以前より容易になっています。例えば人事領域で言えば、これまで給与システムなどのボトムの情報を集約・共有する程度に留まっていたものが、タレントマネジメントやサクセッションプランなどをグローバルで描くことができるようなツールまで出てきています。そのほか各種ERPもその網羅する機能の範囲や利便性は増しており、機能軸が横串でできることは以前に比べてかなり増えています。

――マトリクス経営の導入に当たって気を付けるべきことは何でしょうか?

大道:主軸である事業軸/地域軸に対し、機能軸がどのような責任や権限を持つのかを定義した上で、レポーティングラインや評価制度といったマネジメントシステムを緻密に整備する必要があります。いざ実行に移すときには組織間にさまざまなハレーションが生じることが普通ですので、拠り所となるコンセプトを各部門の代表者としっかり練り上げておくと同時に、軋轢を乗り越えるための強いリーダーシップも不可欠でしょう。

意思決定のプロセスとグループ全体の階層をシンプル化

――コングロマリット企業の非効率性はどのように解決するべきでしょうか?

小枝:コングロマリット企業の非効率性の要因の一つとして、複雑化した組織や会議体の多層化が挙げられます。そのため、解消のアプローチとしては、会議体やルールも含め意思決定のプロセスを可能な限りシンプルにしていく事が効果的です。
意思決定プロセスの改革の例としては、主要子会社の経営会議体や関与する人の数を見直し、階層の削減とグループ統一の意思決定ルールの制定を通じ、意思決定プロセスのシンプル化を進めている例が挙げられます。実際に導入した企業は、各子会社の法人格は残しつつもグループ全体を一つの企業体と見立てた運営ができるようにバーチャルな組織体系への再編を行い、その過程で各社の複雑な組織階層も見直しました。この改革によって会社単位のマネジメントからの脱却を進め、本当に必要な情報をビジネス単位で把握し、適時に意思決定できる仕組みにしています。

別の例として、組織の「大括り化」によって改革を進めた企業もあります。この企業には100以上の小規模な事業部門が存在していたため、事業部門の上位にBU(ビジネスユニット)を置いて管理していましたが、時間の経過とともにBUから本社への適切な単位での情報連携が不十分なものになっていました。そのため、事業部門を従来の3分の1程度にまで大括り化してBUを廃止し、本社が事業部門から直接報告を受け、指示することができる体制へ変更しています。

シェアードサービスに蓄積された知見を活かして新たな価値を創造

――シェアードサービスがこれまで以上に価値を生み出せる条件が整ってきたというお話がありました。具体的にはどのようなことでしょうか?

須藤:まず、RPAやAIなどに関するナレッジや人材がシェアードサービスに蓄積されてきたことが挙げられます。効率化のためにRPAの使い方を覚えたり、ノーコード・ローコードでプログラムを作ったりする中で、シェアードサービス内に多くのDX人材が育まれています。
次に、シェアードサービス内に蓄積されているローデータも見逃せません。委託先から請け負う業務には必ずといってよいほどローデータが付随しており、これらを分析・活用することで業務効率化やコスト削減にとどまらず、新たな付加価値を創造することが可能になっています。
さらに、コーポレートガバナンスコードに基づいた管理をシェアードサービスが請け負うことが考えられます。本社はともかく子会社のガバナンスについては不十分な企業も多く、早急な強化と整備が求められていますが、子会社の中にはコーポレート機能の人材が不足しているところが多いため、シェアードサービスがその機能を代替するのです。複数の子会社のガバナンス実務機能をシェアードサービスに集約することで各種業務の標準化も図れますし、そのような効果を通じて組織再編を促していくケースもあり得るのではないかと考えています。

定期的な点検で環境の変化に強い組織を作る

――最後に、組織構造改革に躊躇されている企業へのアドバイスをお願いします。

佐藤:企業とは、多数の組織の有機的な連携から成る一種の生き物です。生き物ですから環境の変化に影響を受けますし、それに対処していかなくてなりません。しかし、環境が変わったときに企業が陥りやすい2つのパターンがあります。
一つは変化できないパターンです。企業は人から成り立っているため、理屈だけで物事は動きません。人間は基本的に変化を嫌い、現状を維持するほうに慣性が働くため、企業も変わることができないのです。もう一つは変わりすぎてしまうパターンです。環境の変化に対して過剰に反応し、やりすぎて悪い方向に変化してしまう例があります。これらをうまくコントロールして、上手に対処していくことが経営において重要な点ですが、組織の内側にいると見えないことも多いように感じています。

人間の身体も同様ですが、自分では大丈夫だと思っていても人間ドックで何かが見つかることはめずらしくありません。定期的に検診を受けていれば早めに適切な処置を受けることができますが、気付くのが遅れると手遅れになってしまいます。企業についても同じことが言えます。
気付かないうちに少しずつ問題が積み重なり、ひずみが生じてからだと対処にも時間がかかります。環境が変わっても生き残ることができる強い組織を維持するためにも、定期的な組織の点検を怠らないことが重要だと思います。

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株式会社野村総合研究所
コーポレートコミュニケーション部
E-mail: kouhou@nri.co.jp

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