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スマートシティの現実解は連携と都市体験にあり!――マネタイズの2つの方向性

コンサルティング事業開発部 大道 亮
アーバンイノベーションコンサルティング部 御前 汐莉
NRIデジタル 吉田 純一

#スマートシティ

2023/05/16

地方自治体や不動産関係者などが進めてきたスマートシティ・プロジェクトが、2024年頃を中心に「まちびらき」フェーズに入ります。デジタルとまちが融合した新しい価値創造への期待が膨らむ一方で、サービスの具体化やマネタイズ(収益化)はいまだ不透明です。開業後の発展の道筋について、野村総合研究所(NRI)で不動産・建設業界における経営戦略・事業戦略を数多く担当する大道亮、御前汐莉とNRIデジタルで顧客企業のDX戦略の立案・推進を担う吉田純一に聞きました。

マネタイズが難しい2つの問題

AIや無線通信技術などのデジタル技術の急速な発展と共に、2010年代後半からスマートシティ化の機運が高まり、まちで活動する人のデータを取得して活用するフラッグシップ案件がいくつも立ち上がりました。スマートシティ整備は、都市の競争力強化策としても有効性が立証されつつあり、多様なプレーヤーがデジタルと建物・都市の融合を図っていますが、初期投資に対するリターンが見えず、一部で取り組みの意義を見直す動きも見られます。カーボンニュートラル対応など新たな経営課題が浮上する中で、採算度外視でスマートシティにチャレンジする実験段階は終わり、創出した価値をマネタイズする「現実解」が求められる局面に突入しているのです。

スマートシティのマネタイズが難しいのは構造的な問題があるからだと、大道亮は指摘します。「デジタル投資と便益は1対1で紐づくのではなく、N対Nの関係にあります。例えば、従来の防犯カメラをAIカメラにすれば、防犯、ビル管理、個人認証などいろいろな使い方ができ、その便益を受けるのもテナントの従業員、買い物客など多様な人々です。その分、投資による便益が分散し、1ステークホルダー当たり便益は小粒化します。“あれば嬉しい”サービスになっても、“ないと困る”状態には至らず、お金に換算しづらいのです」

都市開発とデジタルの時間軸の違いも一因だと、吉田純一は考えています。「都市計画は数年前から始まるのに対し、デジタルは技術進化が速く、計画時には想像もつかなかった機能や使い方が可能になっていることもあります。スマートシティでは、これまでのように完成時点から価値が低減する前提で維持運営するのではなく、サービスを追加して継続的に価値を高めていく発想が欠かせません。しかし、将来実現する便益は現在の収支に表れないのが難しいところです」

共通化でコスト効率を高める横展開

マネタイズにはより現実的な考え方が求められると、御前汐莉は提言します。「データ利用やデジタル化に際して、あれば嬉しいサービスを考えて、それを家賃上昇につなげようとしても現時点ではまだ難しいのが実態です。不確実な収入を期待するよりも、ビル管理の不便さや非効率性の解決、コスト削減など地に足のついた着眼点を持つことで、具体的な議論がしやすくなります。さらに提案したいのが、関係者が連携して共通化する“横展開”と、職域経済圏などで都市体験を最大化する“縦展開”という2つの方向性で考えていくことです」

デジタルサービスは利用するほど1案件当たりのコストが下がり、集積データによって価値が高まります。ビル1棟単位で個別に設計・企画し投資をするのでは効率が悪いため、どのデベロッパーも共通で使うものは一緒に開発し共有する。そうしたプラットフォーム的なアプローチが“横展開”です。「共通化されれば、先行都市で開発した要素を地方のまちに展開することも可能です」と、御前は周辺地域の活性化につながることにも期待しています。

都市体験を軸に価値を高める縦展開

一方、“縦展開”に求められる発想は、スマートシティ化で実現する便益の対価を直接刈り取るのではなく、別の取り組みにつなげて、新たなマネタイズ方法を見つけることです。スマートシティの大きな特徴は、これまで接点のなかった人が直接つながることで、そこに新たな事業機会があります。例えば、就業者とのデジタル接点を通じて新たなモノ・コトとの出会いを提供する事業などが考えられます。「業務を行う場所」だったオフィスが経済圏としての色合いも兼ね備えるようになります。

そうした職域経済圏の構築によるビジネス展開は今後さらに増えていくと、大道は予想します。「コロナ禍を経て、私たちの働き方や場所に対する認識が変わり、なぜそこに行って働くか、買い物するかという意味性を求めるようになりました。デジタル活用においても、単に便利な機能やサービスを考えるのではなく、新しい場の使い方や心に訴えかける体験価値によって対価を得て、スマートシティ全体で経済的に成り立たせることを念頭に置く必要があります」

そうした体験づくりや基礎検証は、実際にスマートシティやスマートビルがなくても可能だと、吉田は考えています。「例えば、既存の施設に顔認証で入館できるようにするだけでも新しい体験になります。そこから取得したデータを分析し活用してみることで、マネタイズを考える糸口が探れます。AIカメラやスマートロックのようなIoT機器や外部データを活用すれば、簡易に『都市アプリケーション』 を 構築できます。まずは、今あるビルやまちで、無駄なく、小さく 始めてみることが肝要です。建てて終わりではなく、成長し続けることを意識した学習プロセスや考え方がスマートさの本質だと思います」
NRIは、政府・自治体・企業と、多様な目的意識を持つ関係者を巻き込んでスマートシティ整備を支援してきました。小さな積み重ねが、やがて大きな成果に繋がるように、まずは、スマートシティ化に繋がる基礎検証を備え、都市体験を最大化していくことがマネタイズへの第一歩だと考えています。

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E-mail: kouhou@nri.co.jp

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