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託すということ

取締役 副会長 深美 泰男

#サステナビリティ

2023/06/20

老いを感じると「終わり」を意識するようになる。何でもいつか終わると思い、永遠に続くとは思わなくなる。自分の命はもとより、組織やさまざまな構造体、さまざまな営みに終わりが来るのは避けられない事実である。
気の長い話だが、太陽が寿命を迎えれば地球は今の姿ではいられない。太陽は人間でいうと今がちょうど壮年期に当たり、1億年で1%ずつ明るくなっているという。地球はというと、だんだん明るくなる太陽に対して、四苦八苦しながらもその恩恵を受け続けている。太陽は晩年には次第に大きく膨れ上がって、やがては地球も飲み込むほどの大きさになり、最後は大爆発して一生を終えると予想されている。地球はその過程で消滅することを免れない。

地球の未来とヒトの進化

これは約50億年後に起こることであるが、それよりもっと早く、5億年後か10億年後には太陽からの熱の増大により地球の水分が蒸発し、生物は存在できなくなると考えられている。それを聞くと、サステナビリティを標榜して永続を目指しても仕方がない、と思ってしまう。とはいえ、うまくいけば10億年は現在と同様の環境が維持できるかもしれないという希望がある。生物としてのヒトは誕生してまだ700万年程度、文明として認識できるのは1万年前後と考えると、10億年という年月は十分に長い。世代交代として見ると、ヒトの1世代を25年として、文明発祥から現在までたかだか約400世代である一方、この先を短く見積もって1億年としてもこれまでの1万倍、400万世代という長さである。気の遠くなるような世代交代が待っている。その間に何が起こるのかを想像しながら今の生き方を考えるのは、意味のないことではないだろう。

環境問題は50年くらい前、「Save the Earth」に代表されるヒトを主語としたロマンチックな言葉で語られていた。先にも述べたが、プラネットとしての地球はヒトがいようがいまいが関係なく存在し、太陽とともに消える。「Planet is fine!」なのだ。問題は地球がいつまでヒトを存続させてくれるか、どうしたらそれがなるべく長く続くか、である。今や集団としてのヒトの活動は地球全体の物質代謝を左右するほどに大きく、ヒトの生活環境は地球全体から反作用を受けているという認識が広まった。確かにほかの生物も地球の代謝活動の一環として組み入れられているのだが、薄皮のような地球の表面での自然な代謝活動の中だけで閉じている。それを超えた活動はしない、あるいはできないといった方が適切かもしれない。ヒトが特殊なのだ。
ヒトは道具を使い、食料・資源を発掘したり生産したりする術を得ている。常に新たな道具を生み出し、「薄皮」の内外に存在しているさまざまな資源・エネルギーを取り出して、生物単体としての力以上の力を地球に対して及ぼしている。なぜヒトだけこんなことが可能だったのか、ほかの生物との違いは何なのか。それはきっと、ヒトは言葉を得て世代をまたがって知恵を引き継ぐことができたからではなかろうか。

次の世代へ、知恵と思いを

知恵だけではない。一世代でできることなど限られている。当代で成し得なかったことを次代に引き継ぎ、知恵とともに思いも紡いできたからに違いない。より豊かな生活を目指すという思いの積み重ねが、今日のヒトの社会を形成したように思う。
思いはときに争いにかかわるものだったかもしれない。争いに勝つこと(あるいは負けないこと)は、現代においても新たな革新を生む大きな原動力になっていることは否めない。
革新によって大きな力を得るたびに生活様式が変わり、勢力図も変わった。争いがそれを生んだともいえるが、それ故の争いも尽きない。 無念もあれば歓喜もあったに違いないが、それらが言葉として次の世代に継がれていく、そういう歴史であったろうと思われる。
先代が残した知恵の蓄積を引き継ぎ、それに託した思いをおもんぱかるには敬意が必要だ。 敬意を持って迎えられなければ、知の蓄積は捨て去られることになろう。先代に対する敬意、当代の責任、次代への信頼、この継承があって初めて蓄積が実を結び、革新として花開くのである。
現代は革新が一気に花開いた時期といえよう。電気や電磁波、内燃機関などの発明・発見、利活用により、ヒトの暮らしは大きく変化し、便利になった。しかしながら、はたして当代のヒトはそれらを本当に操ることができているのか、制御する知恵がついているのか怪しいと感じる。これらの変化はせいぜいこの200年前後の話であり、知恵の蓄積が十分ではないのかもしれない。十分に賢ければこの先何万世代にもわたって存続が可能かもしれないが、愚かな振る舞いをすればあっという間に自滅するであろう。
豊かになりながら長らく生存できる道はあるのか、現代のヒトは大きな問いに向き合っている。次代のヒトから敬意を持って振り返ってもらえるような暮らしぶりをしているのか。今はただ謙虚に、しかし責任感を持って遠い未来への思いを定め、次代に託す必要がある。次の世代はきっと賢い。それを信じて思いを託すことにしたい。

知的資産創造4月号 MESSAGE

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特集:2030年に向けた製造業の経営アジェンダ

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