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NRI トップ NRI JOURNAL 価値創造を基軸とした企業変革――不透明性が高まる今、製造業に求められるもの

NRI JOURNAL

未来へのヒントが見つかるイノベーションマガジン

クラウドの潮流――進化するクラウド・サービスと変化する企業の意識

価値創造を基軸とした企業変革――不透明性が高まる今、製造業に求められるもの

事業共創コンサルティング部 池幡 諭部長、吉竹 恒、松原 輝王

#経営

2023/06/29

近年、DX(デジタルトランスフォーメーション)の取り組みがさまざまな業界で加速しています。製造業の分野においても、デジタル技術を活用したオペレーションの効率化・高度化や、新しいビジネスモデルについて議論が重ねられてきましたが、既存の事業構造の延長線上でデジタル化を進めるだけでは、先の読めないVUCA(変動性、不確実性、複雑性、曖昧性)時代を乗り切ることは容易ではないと、野村総合研究所(NRI)の池幡諭、吉竹恒、松原輝王は考えています。ますます不透明性が高まる新時代に製造業各社に求められる変革について聞きました。

不確実性と社会的要請の高まり

製造業を取り巻く環境は2つの観点で劇的に変わっています。第1に、事業環境の非連続性・不透明性が劇的に高まっていること。地政学的リスクやパンデミックに加えて、製造業の核となる技術が進化するスピードはこれまで以上に高まっています。AIやLLMなどソフトウエア技術が飛躍的に進化する中で、ハードウエアの性能改善だけでは自社製品の競争優位性を保つことが難しくなったことはいい例でしょう。

第2に、製造業は技術を使ってモノを作りその対価として利益をあげる業種ですが、それだけでは社会が許容しない時代になってきました。事業活動を通じて、どのように社会課題を解決し、より良い地球の実現に貢献できるのか、株主や顧客が企業に問い始めているのです。事業成長による利益の創出と、社会課題の解決に向けた新たな価値の創造、という「両利き」の経営を実践する必要があります。

「これほど劇的な変化の中にあっても、製造業を見ると、ビジネスモデルや、それを支える組織、人材といった事業構造、戦略を検討するプロセスは本質的には変わっていないケースも散見されます。既存のDXから一歩踏み込んだ変革を実現することで、日本が世界に誇る製造業の良さを活かしながら、今の時代により即した形にアップデートすることに貢献したいと考えるようになりました」と、池幡諭は「価値創造」を基軸とした企業変革論を提唱する動機を説明します。

未来のあるべき姿に向けて適応し変容する

不確実性に対応するためには、将来的に起こりうる非連続な変化も含めて事業環境を認識し、戦略の柔軟性を高めなくてはならないと、吉竹恒は考えています。「過去の延長線上で中長期の経営計画を立てるのではなく、シナリオ・プランニングの手法を用いて、将来の不確実性を認識したうえで戦略を立てる試みが日本の製造業にも広がっています。これは好ましい動きですが、未来のシナリオを考えることで精いっぱいになり、それを自社の戦略にうまく反映できない“シナリオ・プランニング疲れ”も散見されます。自社の普遍的な存在意義、社会や顧客に届けたい価値を明確に意識しながら、描いた未来を戦略に落とし込み、“適応”と“変容”という2つの方向性で変革を考えることが大事な局面に来ています」

実際に、変革に成功している企業を分析すると、長期のメガトレンド・外部環境の変化を踏まえ、自社が注力すべき領域を明らかにした上で未来に向けた投資を行い、事業ポートフォリオをうまく転換していることがわかります。松原輝王はその一例として、ドイツ企業のシーメンスを挙げます。「シーメンスは早期からデジタル化社会の到来という環境変化を見据え、デジタル事業への集中投資を行っており、それに合わせて同社の提供価値はドラスティックに変化し続けています。従来のモノ売りから、デジタル・ケイパビリティを高めてコト売りに近づけるために、事業や資産構成を大胆に組み替えてきました。また、未来のあるべき社会の姿に向かって、パートナー企業を巻き込んだエコシステム構築を進めたことも着目すべき点の一つです。こうした取り組みの結果、事業構造転換に伴って、同社の収益性は徐々に向上してきました」

価値創造を基軸に企業を作り変える

「先行きの見えない環境で生き残っていくためには、届けるべき価値や解きたい社会課題を起点に、事業を構想することが大切です」と、池幡は未来像から逆算して考えるバックキャストの必要性を強調します。「小手先のプロダクトやサービスの変更ではなく、提供価値を起点にビジネスモデルや事業構造、そこで働く人財や埋め込んでいく自社の“イズム”の形成を整合させた形で変革する。それが私たちの提案したい“価値創造を基軸とした企業変革”です」

一企業が持つケイパビリティや技術の範囲で解決できる社会課題のほとんどは、すでに解決されていると、吉竹は指摘します。「自社製品を代表的な社会課題と関連付けるなど、自社が既に保有するものを正当化する形で経営や事業を語ろうとすれば、従来の延長線上の取り組みにしかなりません。本当に社会課題を解決するためには、単独で取り組むのではなく、多様なプレーヤーを引き入れて価値を共創する必要があります。日本企業があまり得意としてこなかった仲間づくりやルールづくりも重要になります」

新たな変革でも依然としてデジタルテクノロジーが強力な武器となると、松原は言います。「その一方で、デジタルはあくまでも手段で、目的は変革することです。手持ちのデータで何かしてみようという発想ではなく、新しい価値の創造や提供のために、デジタルをどのように使うかを考える。その前後関係を間違えずに、トップから現場レベルまでしっかりと腹落ちした上で変革をやり切ることが重要です」

NRIのオピニオン誌『知的資産創造』(2023年4月号)では、3人を含めた事業共創コンサルティング部をはじめとする多様な部署に所属するコンサルタントが、「2030年に向けた製造業の経営アジェンダ」をテーマに、詳細な論文を5本執筆しています。ものづくり大国である日本を支える製造業がこれからも輝き、世界に伍していくためにも、さまざまな課題解決のためにNRIは支援していきます。

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株式会社野村総合研究所
コーポレートコミュニケーション部
E-mail: kouhou@nri.co.jp