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2023年、中国の小売・流通は復活へ――コロナ禍をバネにした流通改革の強さ

NRI上海 劉 芳、岳 海蘊
NRIインド 郷 裕

#DX

#新型コロナ

#消費財・流通

#中国

2023/06/30

野村総合研究所(NRI)は中国商業連合会が発表する「中国商業十大ホットイシュー」を元に、NRIの考える今後の中国流通・小売業界の展望を2012年から発信しています。2022年に新型コロナウイルスの感染拡大に苦しんだ中国流通・小売業界は、2023年以降、苦境を脱することができるのか。再成長のために、企業が取るべきアクションはどのようなものなのか。本件に詳しいNRI上海の劉 芳、岳 海蘊、NRIインドの郷 裕に聞きました。

GDP成長率は約3%にとどまるが、再成長の芽も

新型コロナウイルス感染再拡大の影響で、2022年の中国GDP成長率は約3%にとどまりました。すべての商取引にECが占める割合を示すEC化率は拡大を続けるものの、EC市場成長率も一桁台に停滞。百貨店やショッピングモールといったリアル業態の店舗がマイナス成長に陥ったほか、小売・外食の回復も限定的で、家電など住環境の消費も依然として低迷しています。

しかし中国政府は、2023年には自国の流通・小売市場は回復基調に戻り、コロナ禍以前の水準である5%成長に達する見込みであると公表しています。前述のようなネガティブな要素の一方で、ポジティブな要素も多く見られたためです。

その最たるものは、デジタルトランスフォーメーション(DX)化の進展です。拡張現実(AR)や仮想現実(VR)、SNS、ライブ配信を取り入れた店舗運営体制の確立は、体験型消費の拡大やサプライチェーン・CRMの強化を実現しました。とりわけ注目されているのが、「クイックコマース」と呼ばれる即時配達サービスです。その市場規模は今後ますます拡大すると見られており、2021年から2025年の5年間で51%もの成長が見込まれています。

低迷が続く外食業界の中でも、レトルト食品・冷凍食品・ミールキットなどの「予製菜」ビジネスは急成長。政府の農村振興策による農産品の流通チャネル構築も、その追い風となっています。停滞しているEC成長も、中国政府によるプラットフォームビジネスの公正化・規範化が突破口になりつつあるなど、再成長への道が見えはじめました。

小売・流通業界の再成長は中国の国家目標の一つ

世界的なSDGs推進の機運を受けた流通のグリーン化や、グリーン消費の拡大もポジティブな要素のひとつです。中国政府は「グリーン消費促進の実施方案」などの政策を相次いで打ち出し、重点分野のグリーン化を促進しています。中でも物流業界のグリーン化・DX化はバリューチェーンやサプライチェーンの高度化に直結するため、各社が積極的に取り組んでいます。

相次ぐ新型コロナ感染症の波が、企業や政府の戦略転換を促した面もあるでしょう。企業では生き残りを懸けてサプライチェーンの強化や顧客との関係構築、商品力向上が進んだ一方で、政府側でも支援対象企業の拡大や免税・減税にかかる申請手続きの簡素化、社会保険料の納付猶予強化などの動きが活発化。政府支援と企業の自助努力が並行して進むという、好循環が生まれるようになりました。

背景には「高度成長発展から高品質発展へ」を掲げた流通産業の変革があります。これは改革開放時代から続く速度重視の経済発展から質重視の経済発展への移行を示しており、中国は「全国統一大市場」の建設によってその実現を目指しています。

全国統一大市場では、全国で統一された市場制度・規則の構築、地方保護と市場分割の課題の打破、経済の循環を「詰まらせる」制約ポイントの解消、商品・生産要素・資源のより広い範囲でのスムーズな流通促進などが試みられます。これによって巨大市場に裏打ちされた内需の拡大と外需の拡大を互いに循環させ、バリューチェーンやサプライチェーンの強化につなげることで、近代流通体系における効率的な流通を実現させようという取り組みです。

2023年、中国流通・小売業界の再成長に必要な「3つのアクション」

中国流通・小売市場にとって、2022年は試練の年となりました。しかしこの間にも投資を呼び込み続けたサプライチェーンは、コロナ禍以前よりもむしろ強固になったと言っても過言ではありません。この強いサプライチェーンを武器に、2023年の中国流通・小売市場は再成長モードに突入し、新たな発展を遂げるでしょう。そのために企業が取るべきアクションは、大きく3つあります。

1つめは「プライベート・トラフィックマネジメント」です。プライベート・トラフィックとは、大手ECやプラットフォームなどからの送客に頼らず直接獲得した客流を指します。新規投資が難しい現状において、コロナ禍の期間中にプライベート・トラフィックによって獲得した顧客をいかにロイヤリティ化・リピート化するかを考えることが重要です。

2つめは「ユニークネスの創出」です。新たな資金援助を見込みにくい中、強固なサプライチェーンを基盤にユニークな商品・サービスを創出し続けられるかが鍵になるでしょう。サプライチェーンの強化に努めた企業が生き残り、ユニークネスを追求した差別化で新しい成長を遂げようとしています。

3つめは「コストパフォーマンスの再考」です。コロナ禍の影響で消費マインドは冷え込み、一時的にコストパフォーマンス重視の傾向になりつつあります。企業はサプライチェーンや商品開発力といった自社の強みに合わせたコストパフォーマンスの再考を求められるでしょう。過度な値引きに頼らず、持続的な収益化を前提としたコストパフォーマンス向上を実現できるかが、再成長の鍵を握りそうです。

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株式会社野村総合研究所
コーポレートコミュニケーション部
E-mail: kouhou@nri.co.jp

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